ソムリエの追言
「グラスを使った楽しみ方」
今週はグラスを使った楽しみ方について書かせていただきます。
【乾杯】乾杯の由来は、「神様や死んだ人のためにお酒を飲んだ」という宗教的儀式が起源といわれ、今ではそれが転じて、祝福する儀式になったと言われています。
元々、乾杯よりも献杯が先に行われていたと言った感じでしょうか。
献杯は、神様や故人に敬意を表すために行われていました。
マナーとしてグラスはぶつけないで黙祷します。
では、乾杯ができたのはいつからでしょうか。
各国で色々な起源を聞く事がありますが、ヨーロッパでは貴族の間で、お酒の席で毒殺が横行していたため、お酒を入れた器に同じタイミングで口をつけて合図をして、毒が入ってない事を示した。 お酒の中には悪魔が宿っているとされていたので、その悪魔を追い払うためにグラスを合わせて音を鳴らした。 等が有力だとされています。
グラスではありませんが日本の乾杯の起源とされているものに、戦国時代、出陣する時に杯を手に持ちみんなで高く掲げそれを飲み、最後に杯を叩き割っていた説があります。出陣前に士気を鼓舞するためにお酒を飲んでいたのです。
ロシアでは乾杯の後にグラスを落として割る習慣が有り、「良い音で割れる」が良いグラスの1つの基準だったと言う、なんとも贅沢な話があります。
いったいどれぐらいのグラスが割れていたのでしょうか。
今でも結婚式の乾杯後は、グラスを割る風習が残っているらしいです。
日本の結婚式では割れる、壊れる、切れるは嫌われている言葉ですが、ロシアでは新郎新婦自らがグラスを割るらしいのです。粉々に砕ければ砕ける程良いらしく、粉々に砕けた破片の分だけ幸せがやってくるらしいです。
国が変われば風習も変わる面白い話ですね。
今行われている乾杯は幸せを願っての意味合いが強いので、
悪魔を追い払って幸せになると言った意味合いでしょうか。
ですが、今のレストランでは、グラス同士を合わせて音を立てて乾杯しないというのが正式なマナーです。薄く繊細なグラスは、乾杯の時に少しぶつけただけで割れてしまう物もあるからです。
レストランではグラスを胸の高さまで持ち上げて、乾杯する相手の目を見て「乾杯」と言って、にっこり微笑むのが良いと言われています。
その場合、高々と高くグラスを持ち上げる必要はありません。
ポイントは笑顔でアイコンタクトです。
世界各国には様々な乾杯の掛け声があります。
イタリア語は、Cin・cin(チン・チン)グラスを合わせる音から。
ドイツ語はProst(プロースト)気軽な乾杯、Zum Wohl(ツームヴォ-ル)少し改まった場での乾杯。
中国語は、干杯(カンペイ)杯を空にするの意味。
ロシア語は、Za vashe zdorovye(ザ・ワーレ・ズダローヴィエ)
あなたの健康のために。
韓国は、건배(コンベ)乾杯。
フランス語では、Tchin・Tchin(チン・チン)、Tchin(チン)
A la votre(ア・ラ・ヴォトル)
Sante(サンテ)
等があります。
A votre bonne sante(ア・ヴォトル・ボンヌ・サンテ)あなたの健康のために、といった言葉があるのですが、それを相手が目の前にいる場合には略して言っている感じでしょうか。
チン・チンはグラスのぶつかった音の気がしますが、フランス人に聞くとフランスで食前酒として良く飲まれている、「チンザノ」から来ていると言う方が多いです。
英語ではToast(トースト)と言います。
焼いたパンのトーストです。どうしてでしょうか。
【パンとワイン】 中世までは、ワインを瓶詰めで保存する事はできなかったので、
ワインは酸化して酸っぱくなっているのが当たり前でした。
酸化しているワインは、アルカリを入れて中和して飲んでいた。身近なアルカリ性と言えば、植物のコゲや灰です。(アルカリとは、アラビア語で「植物の灰」の意味です)だから、焼いたパンをワインに入れたり、ワインと一緒にパンを食べました。
先日実際に試したのですが、本当に時間が経って酸っぱくなってしまったワインに、焦げたパンを入れると酸味が和らぎます。試したワインは「
シャトー・ラ・ジョンカード紅白ラベル」750mlです。
まとまっていますが、かなり強い口当たりを楽しめるフルボディのワインです。2、3日はワインの味わいを十分楽しめたのですが、(2日後の方が甘味が出てきて美味しかったです)さすがに5日目位にお酢まではいきませんが、かなり酸っぱくなりました。
普段ですと、そうなったワインは料理に使う所ですが、良い機会でしたのでパンを焼いて試してみました。
ワインをグラスに注ぎ、一口飲みます。やっぱり酸っぱいです。焼いたパンをワインに入れてみます。どれ位で効果が出るか分からなかったので、パンを入れたまま少しずつワインを飲んでみました。始めのうちは効果が分からなかったのですが30秒程過ぎた時、酸味が少し減った感じがしました。今度は1分程過ぎた時です。ワインを開けて数日の一番美味しかった時程ではありませんが、ワインが甘く感じました。酸味が随分と和らいでいます。やはり香りはだいぶとんでいて、少し味が薄くなっているような感じはありますが、これなら飲めます。
皆様も、もしワインを酸っぱくさせてしまった時があれば一度試してみてください。ただ、わざと酸っぱくはさせないで下さい。酸味は和らいでいますが、美味しくは無いかもしれませんので。
古代ローマの時代に酸性、アルカリ性の理解があった事に驚きです。ここから「トースト」が乾杯の意味でも使われ、ワインとパンと言えばキリストです。「パンは我が肉、ワインは我が血」と言いました。この事からキリスト圏では派生して、「トースト」が祝辞の意味にも使われるようになりました。
【グラスを回すのは】グラスを回す事をスワリングと言うのですが、ワインを空気に触れさせ、多くの香りが出るのを楽しむためのもので、決まり等は基本的にありません。
回し方としては、グラスの脚の部分を持ち、グラスからワインがこぼれないよう静かに、右手でワイングラスを持ち、反時計周り(左回り)に向かって何回か回してみます。ワインの香りがたち、香りを楽しむ事ができます。
右手でワイングラスを持って左回りに回すと、もしもワインが勢い良く飛び出すと、かかるのが自分です。時計回り(右回り)に回すと、右隣の人にかかってしまいます。
道上が言うには、グラスを持ちあげた時は左回りですが、グラスを置いた場合は右回りに回すのが良いとか。テーブルにグラスを置いた状態のスワリングでは、左回りは回しづらいと言うのです。試してみると、確かにグラスを置いた状態での左回りは回しづらく、右回りの方がスムーズに回せます。左回りで何度も回すのは、レストランではエレガントに見えないかも知れません。
道上曰く香りの為であれば一度で十分、何度もまわすのは貧乏ゆすりと同じ。
マナーについてはこれぐらいにして、面白い話を少し。
右回りと、左回りでは香りや味が変わってくる事をご存知でしたか。 以前から知ってはいたのですが、先日再確認いたしました。是非皆様も確認してみてください。
今回試したワインは、「
シャトー・ルボスク 2010年」です。
左回りに回した方が、ワインが少し甘く感じて舌触りが優しくなり、右回りですとワインの甘みがあまりなく、舌触りが少しイガイガと感じるのは私だけでしょうか。渋いと言うよりは少しばかり苦くも感じてしまいました。
スワリングをすると空気に触れる事で、熟成の若いワインは渋味が優しく感じる様になる場合もあるのですが、右回りですと、それがほとんど無いように感じました。
左回りはスワリングの効果が顕著に感じられました。
香りでも左回りの方がよりワインの甘さを感じられました。
右回りで回してもワインの香りはあまり出てきません。
道上曰く右回りは食事中、左回りはテイスティング。
ワインだけでなく、ウイスキーの水割りをつくる時でも、左回りの方が美味しく感じます。有名なスコッチの12年物で水割りをつくると、右回りですとアルコールのにおいが鼻につき、そんなに高くないウイスキーかなといった感じですが、左回りですとアルコールのにおいが優しくなり、同じスコッチの17年物位に感じます。ワンランク上のウイスキーに感じるんです。決してアルコールがとんでいる訳ではありません。同じアルコール度数なので、優しく感じられるようになっているのです。
これを私は「コリオリの力」だと思っていました。
大気や海流が北半球だと左回り、南半球だと右回りに回る力です。天気図を見ると、日本に来る台風は確かに全部左回りです。
水洗トイレの水の廻り方も北半球と南半球とでは逆です。
北半球では左回りが自然なので、左回りに回した方がワインに負荷がかからない考えです。
ですが最近の研究では、お風呂に貯めた水等、せいぜい2メートル位の大きさのお風呂では、コリオリの力は働かないらしいです。と言う事は更に小さなワイングラス程度では、コリオリの力はまったく関係無い事になってしまいます。
後の可能性としては、波動でしょうか。
私はまだ未確認ですが、同じ種類のグラスに注いだワインでも違う種類の写真、例えば山の写真と海の写真を貼るだけでも味が変わると言います。ですが、そうなるとスワリングの意味がなくなってしまいます。
ひょっとすると、回した方向によって良い波動と悪い波動があって、それが影響している可能性も考えられるかも知れません。
こうなってくると理由は分かりません。左回りと右回りでは何故、味が違うのか。
解明される日は来るのでしょうか。
ですが、北半球の日本で左回りが美味しくなるのであれば、南半球では右回りが美味しくなる気がするのは私だけでしょうか。 ワインの左回りと右回りの謎はまだ解明されていませんが、近い内に南アフリカかオーストラリアに行って、試してみようと思います。