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名人のこだわりバックナンバー

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2013年



2012年



    名人のこだわり「魚について 〜鮎と鱧」

    FOND

    「FOND」のシェフ、西村さんと。
    フランス・ノルマンディー出身では?と思ってしまいますが、
    れっきとした日本人です!
    今回から西村さんに「名人のこだわり」をお聞きします。


    「魚について 〜鮎と鱧」

    今の時期は鮎と鱧が旬ですね。

    FONDでは、「これが食べたい!」という食材やワインなど、
    予約いただいたお客様のご希望に合わせた料理をお作りしています。

    鮎は白神山地の小さな川で、お爺さんが獲っているんです。
    1週間に20匹とれるかどうかという・・・。それを日本料理屋さんで奪い合いになってしまうのですが、そういった鮎を分けていただいてます。

    鱧も、週に4尾ほどでしょうか。
    今は海がおかしいので、鱧は先週一週くらいは淡路の周りで獲れたのはゼロだったんですね。その上で入ってきたものでも、良くない物があったりする。

    鱧というのは、本当に「魚」で決まってしまうんですよ。
    魚が良くないと、どんな調理をしてもパッとしない味になってしまう。
    一度、ある料理屋さんで鱧が良くなかった事がありました。
    素晴しいお店なのですが、それでも鱧自体でそうなってしまった。

    ですので、「鱧」とお客様の指定があった場合には仲買いに頼んで2匹買っていますね。使わない方は自分達で食べて・・・そうしないと、今は海がおかしいので仕方がない。

    「海がおかしい」というのは、水温が高くなっている事もあるんでしょうね。
    台風などでは、海が荒れているように見えますが、あれは海全体から見れば、実は表面的なものです。しかし、津波は底から根こそぎ行ってしまうんです。海底の環境を含め全体に影響を及ぼしたのでしょう。
    鱧と直接関係はありませんが、小名浜なども日本一水揚げ量が多い港だったので、影響は大きいですね。

    そういった事がありますのでお客様から「鱧が食べたい」という時には、味が悪い物をお出しするわけにはいきませんので、2匹頼まないといけないのです。

    この鱧、という魚ですが、実はものすごく味が濃いものなんです。
    ほとんどの白ワインには合わないのではないでしょうか。新子よりもです。新子も小肌より味が薄いと思っていましたが、実は味が濃いんですね。それよりも、鱧の味というのは濃い。なので赤ワインの方がしっかりとして合うのではないかと思います。

    鱧と賀茂茄子



    「FONDの歩み 〕直期 料理の世界に入るまで」

    私が育ったのは、日本橋、三越、にんべんのちょっと裏。
    親戚中が薬の問屋でした。

    もう大変に忙しいものですから、誰も食事なんて作ってくれない。
    そんな暇が無い。自分で作らないといけませんでした。

    料理は好きでしたね。
    その中で覚えている料理が一つあります。勿論自分用に作っていたのですが、固茹でにした玉子で黄身と醤油を練って味噌のようにしたものです。それを気に入らないおかずの時などに食べるのです。
    重宝しました。

    実際に料理の世界に入ったきっかけは単純で、雑誌を二十歳の頃に作っていました。 現代詩の本です。勿論当時でも、現代詩ではとても食べていけない。 では、どうしよう、となった時に「2番目に好きな物でやって行こう!」と。

    それが、今の仕事を始めるきっかけでした。


    次回は
    「肉について 〜捕獲方法、しめ方について」
    「FONDの歩み◆.轡Д佞蓮嵜Χ函廚箸靴董最初の務め先」
    をお送りします。


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    名人のこだわり「肉について 〜捕獲方法、しめ方について」

    FOND

    名人のこだわり
    「肉について 〜捕獲方法、しめ方について」


    「野鳥の捕獲方法」

    野鳥の鴨などは、網で獲るのが一般的ですね。
    九州の、何か所かそういった所とお付き合いがあるんです。
    他の捕獲方法は猟銃ですね。基本的にはその二つで捕まえます。
    絞め方では、フランスでは「窒息」というのもありますね。

    銃で撃った野鳥はどうしても片方の胸肉、
    弾が入った側の味が落ちてしまうんです。
    血が多くそちらに集まり、なんと言ったらいいんでしょうか・・・。
    全般に「ストレス」のような物がかかるんですよ。
    マグロなども血が回った身は美味しくない。
    臭みが出てしまいますよね。

    お客様が男女お二人、のような場合には、弾の当たっていた方を男性に、当たっていない方を女性に提供する場合が多いです。
    比較してしまうと、弾が当たっている身の方が臭みが強いので、女性の方には嫌がられる場合があるからです。

    勿論、極力出来るだけ処理をし、抜くようにはします。
    ただ難しいのは、抜きすぎてしまうと今度は味が無くなってしまうんです。
    その辺りを、なんとかバランスが良くなるように調整をしています。

    ブレス産のプーレ
    ブレス産のプーレ(生後7週から12週齢くらいに飼育した鶏)
    石川小芋
    万願寺唐辛子



    「四つ足(牛・豚など)の動物のしめ方、寝かせ方」

    屠畜する際には動物にストレスが掛からないようにする事も大事で、
    血の匂いや、叫び声が聞こえないようにするんです。

    そういったものを感じ取られてしまうと興奮してしまったりもするので、
    ヨーロッパでは完全に隔離して処理するようですね。

    また、輸送中のトラックなどでも屠畜前の四つ足は壁にぶつかるだけで人と同じように痣ができてしまいます。それだけで値も落ちてしまうので、実に慎重に運ぶそうです。

    解体後に肉を「寝かせる」という事についてですが、肉の食べるタイミングとしてはフランスでは2〜3週間と言われていますね。ただ、コンソメを取る際に使う肉などはそこまで時間を置かずに、どちらかと言うとゴリゴリして、焼くと固くて食べられないような肉の方が向いているんです。

    ステーキ用の肉に関しても、個人的には以前よりもだんだんと置かない肉の方がいい、と思うようになってきました。置いて甘み、旨みが出てくる肉はもちろん美味しいのですが、結局はたんぱく質が分解される。
    その前の方が良いのでは・・・。と考えるようになってきたんです。

    ミートハンマーを使うと肉は柔らかくなりますが、組織を壊してしまうだけです。肉の「味」で食べよう、という時にはお勧めはできませんね。


    西村シェフと奥様の由起子さん
    お二人のあたたかいもてなしも、FONDの大きな魅力。
    西村シェフと奥様の由起子さん



    「FONDの歩み◆.轡Д佞蓮嵜Χ函廚箸靴董最初の務め先」

    シェフというものは「職業」としてしか考えていませんでした。

    「修行」という事に関しては、今は特にですが、
    必要な事、意味のある事とは思えません。

    最初は、もう無くなってしまった店になるんですが、フランス料理店に勤めました。ビルの結構大きな、高級マンションのオーナーさんが住人用として、その2階に作った店です。

    その頃にしては珍しく、しっかりウェイティングのバーのあるような店でした。そしてその奥に着席の座席があるんです。私はそのウェイティングのバーで働いていました。

    最初にそこでプレートに乗ったオードブルをお客さんに提供するのです。多い時にはそこだけで、1日1万くらいの売上はありましたね。
    40年以上前になるので、結構な額ではありました。
    そこでは3年くらい務めましたね。

    結局、マンションのオーナーさんがやっているお店、という事もあり自由にできる部分が多かったんです。いろいろと面白い経験が出来ました。・・・と、その辺りの事はまた次回にしましょう!

    次週は「魚について 〜魚の熟成について」と
    「FONDの歩み最初に務めた店」をお送りします。


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    名人のこだわり「魚の『熟成』について」

    FOND

    名人のこだわり
    「魚の 『 熟成 』 について」


    肉の熟成、という部分では前回簡単に触れましたが
    マグロの熟成については何とも言えないところがあります。

    「熟成が良い」という話ですが、
    これはある料理屋さんで、たまたまあるフードライターさんが来た時に
    日は経っているものの、丁寧に管理されていたマグロを食べた。
    すると、期せずしてまた違った旨みが出ていたんですね。
    そしてそれをそのライターさんが 「美味しい!」との評価をしたんです。

    と、そこまではいいのですが、
    その後、なんだか「熟成が良い」という言葉だけが
    先に立って独り歩きしてしまったんです。

    この「熟成」という事については
    知り合いのすし職人にも何人か聞いてみました。
    「本当はどう?」と。
    すると皆さん「嫌だ!」と。

    マグロは「食べ頃」と言える所から3日間くらいが美味しいです。
    3日目までが一番良い状態、という意味ですね。
    ただその「食べ頃」なんですが、
    マグロの種類、大きさや獲り方(定置網、延縄など)で
    いろいろと違ってきますので、一概には言うのは難しいですね。

    「シビ」、本マグロの事をそう言います。
    キハダ、メバチなど他のマグロに比べて
    匂いというか、癖があります。

    そういう魚でも微妙な変化があるんです。
    置いておくと、ある時、身から水が出るんですね。
    そのちょっと手前が美味しいんです。

    水が出たからと言って、
    もちろん「痛む」という訳ではありません。
    ただ、それまでの魚と比べると、
    間違いなく旨み、味が落ちてしまうのです。

    ただ、この部分に関しては本当にいい魚の、
    本当に繊細な差の部分でもあります。
    ですので全般に言える事では無い、という事も申し添えておきます。

    もちろん独り歩きしてしまって良いような話でもありませんね。

    城ヶ島の伊勢海老

    伊勢海老にも旬はあります。今の時期が甘くて美味しいです。
    城ケ島産の伊勢海老は、なんと1kg。頭の部分の半身だけでこの大きさ。 蟹のように、ヒゲにも脚にも身が詰まっていました!



    「FONDの歩み③ 最初に勤めた店」

    最初に勤めた店は
    柴田書店のそばで順天堂大学の先生たちもいらっしゃいました。
    ウェイティングのバーで満足されて奥の客席まで行かない方も多かったですね。

    その店は最近の店よりもやることが面白かったですよ。
    仔牛を骨付きで丸々一頭買ってきてフォン・ド・ヴォーを取って・・・
    ダシだけでも3種類とって。
    毎日、鶏肉でも「ツメ」と呼ばれる肉、大きくなり過ぎてしまった鶏で
    ダシをとって、それはもう水代わりに贅沢に使っていました。
    ピクルスも大きなものを3本分作っては 使いきれないので余った物を頂いたりして。

    ただ、思っていたより客が入らなかった。
    残業は月100時間以上でも残業代は1万円程度。
    これじゃ「時給100円程度だ!」と
    親方と2番目の方は辞めてしまった。
    新人だけ3人が残った。

    すると、これまで頼んでもやらせてもらえなかったような事も、
    今度は逆にやらないといけなくなってしまった。
    そのあとはもう大変でしたが、その分何でも好きにやれた。
    自分で高いサーモンを買ってきては調理したり・・・
    色々な事を試せましたね。

    ただ、オーナーが店の奥に麻雀部屋を作りまして。
    雀卓を置いてそちらの客を、お店のお客より優先させてしまうんです。
    そしてあれを作れ、これを作れ、とやるわけです。
    仲買からでは無く、寿司屋から丸々ヒラメを一匹買ってきてしまったり。
    寿司屋からですよ!

    そこでは週に3日は泊まり込みで・・・もう帰れない。
    だんだんと、もうどうにもならなくなってしまって。
    そこでは3年勤めましたね。

    次回は「魚について〜寿司と刺身の違い」
    「FONDの歩み④ 日本の『フレンチ』の苦労」です。


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    名人のこだわり 「魚について 〜寿司と刺身の違い」

    FOND

    名人のこだわり
    「魚について 〜寿司と刺身の違い」


    お寿司というのは
    人肌のシャリの上にわさびがあり、その上にネタがある。
    醤油やツメを塗ったりします。
    その魚の個性が出た方が美味しい、
    味と言うよりも、香りが立った方が美味しく感じるんです。

    お寿司で美味しい、と思ったマグロでも、
    それを刺身で食べると受ける印象はまた変わってきます。

    お寿司屋さんによっては
    刺身のつまみをあまり出さない店もありますね。
    寿司に合せた魚を揃えるからです。

    勿論、刺身を出すお店でもお寿司と刺身の魚を完全に分けている、
    という事もあります。雲丹でもそのように分けるお店もあるくらいです。
    お寿司屋さんでいろいろと考えあわせたうえで判断をされているかと思います。

    白身の魚を出すタイミングですが
    置いておくと旨みは増しますが、甘みは抜けてしまいます。
    この事なども、どちらが良いと言い切れない部分ですね。

    白神山地の銀鮎

    白神山地の銀鮎



    「FONDの歩みぁ‘本の「フレンチ」の苦労」

    次に勤めたのは銀座の店です。
    35,6年前くらいですのでフレンチも今と当時とでは大違いでした。

    「エシャロット」ってありますよね。
    今はその辺りのスーパーでも買えますが、当時では手に入らなかった。
    今でいえば味噌をつけるようなラッキョウの若いの・・・
    それが「エシャ『レ』ット」などと言って売られていました。

    と、例えば、レシピに「エシャロット」、
    と親方のメモがあってもそれは「玉ねぎ」の意味なんです。
    元のレシピにある物、それが入れられないんですよ。
    当時では仕方ない事でもあったんです。

    その頃、友人が大学の卒業記念で
    ある有名なホテルで何か食べたい、という事で行ってみたんです。
    「ピジョン」が食べたいと、頼んでみた。
    一人前の皿がいくらだったと思います?
    当時で2万円です!
    ピジョンも輸入されるのは冷凍のみ、というような時代だったんです。

    「ソースを作るのにクリームでやるんだって」と。
    ある店から広まっていきましたが、
    それまでみんな小麦粉で作っていた。

    「バター」と言っても高級ラードやホテル仕様のマーガリン。
    良い所ではその上澄みだけ使う、などという事もありましたが、
    当時はそんなだったんですね。

    そういった、物自体が中々手に入らない事で苦労も、
    勿論その中での工夫もありました。

    次回は「魚について〜鮮度・甘みについて」をお送りします。


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    名人のこだわり 「魚について 〜鮮度と甘み」

    FOND

    名人のこだわり
    「魚について 〜鮮度と甘み」


    築地で直接仕入れをしていますが
    仲買さんとの関係というのは、大変重要な部分です。

    ですが、単に「いいお客さん」になる、という事では無く、
    買った魚については、良い事も悪い事もきっちり仲買さんに
    フィードバックする事で良い関係が築ける、という事があります。

    仲買さんも話を伺っていると、本当に利益目的では無く
    「良い魚を扱いたい」という気持ちが見えてきます。

    こちらもそういう部分では真剣に向き合う事で
    信用を頂けるのかと思います。
    表面上の、どこどこ産であれば良い、というくらいの話であれば
    やはり胸の内ではがっかりされてしまうのでしょう。

    更に、ここの物が良い、というのが分かって買っていても
    物がおかしい時もあります。

    そういう時にでも、しっかり正直にその事を戻してみると
    仲買さん自身もふと気付いて、
    「あ、今回はこうだった」と思い当たる部分が出てきたりします。

    そのように、関係性を造りながらも、
    一緒になって良い物を見つけていけます。

    伏見の甘長唐辛子 佐島と横須賀の間のカワハギと肝

    伏見の甘長唐辛子
    佐島と横須賀の間のカワハギと肝


    魚の「甘さ」と一口で言ってしまいますが、
    実は「身の甘さ」、「脂の甘さ」という物は
    別の物で、質も違う物です。

    余り脂ののっていない様な白身の魚の刺身に関して言えば
    身がいかっている方が、「身が甘い」ですね。

    そういった魚では、
    置いておいた方がいい物はあまり無いかと思います。
    ただ、早すぎても良くない事もあります。

    逆に脂ののった魚というのは
    寝かせないと「脂の甘み」を感じない、という場合があります。
    シマアジなどはそうです。
    アジの仲間や鯛の中でも脂ののったもの、ですね。

    「脂が甘く感じる」という事では、置いた方が感じます。
    かといって、脂が無い魚を置いたからといって
    甘くなるという事ではありません。

    締める時には「神経抜き」というやり方があります。
    それで持ちが良くなります。
    「神経抜き」と言っても
    しっかりとそれがなされているかで効果も変わって来るのですが
    朝締めても夕方くらいまで動いているんです。

    ただ、動かなくなってからおろすのでは
    変わらなくなってしまいますので、
    動いているうちにおろさなくてはいけません。

    もちろん、ここでお話しているのは
    ダメになってしまう、食べられなくなってしまうというお話では無く、
    味の「質」の部分でのお話です。

    その部分で言えば、魚の獲り方の差もあります。
    全然違ってきます。
    一番違う点は、網で獲った魚は身が緩いです。
    持つのは獲った日かせいぜい次の日くらい。

    これが困った事に、
    包丁を入れた時には、はっきりと差がわかるのですが、
    見た目だけではその違いが分かりません。
    なので、そこを区別している仲買さんから購入しています。

    次回は「料理へのアプローチについて」をお送りします。




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    名人のこだわり「料理へのアプローチ」

    FOND

    名人のこだわり
    「料理へのアプローチ」

    「ワインに合わない料理は作らない」

    「FOND」で大事にしている事です。
    フランス料理はワインがあっての料理、と捉えています。

    そして、料理は「材料は8割、残りが調理」
    調理の部分はそれくらいしか入れないものだと思っています。
    材料が良くなければ、やりようが無いのです。

    フランスのソムリエと生産者を見ていますと、
    ソムリエは「このワインはこう、この品種はこう、飲み頃は」
    など、よくそんな事を覚えているな、と言う事まで覚えています。
    一方の生産者は、「何年の何がどういう味だった」という事は
    意外と覚えていない。
    ただし、「こうすればこういった味、香りになる」という部分は
    しっかりと見ているのです。

    私の料理の作り方のベースですが、
    「どう味や香りを整理していくか」と考えているうちに
    ワインと料理でも「この香り」「この味」に
    どのように合せるか、合せるようにどう作っていくか、
    という感覚になってきました。

    ワイン作りと似たようなところがありますが、
    「香りはこうしたい、味をこうしたい」という
    完成した料理が先に頭にあって、
    ではそれをどう作る、と調理法を考えていくのです。

    調理法から料理を作るのではなく、
    完成した料理の「味と香り」からさかのぼるのです。
    反対のアプローチですね。

    もちろん「ソムリエ的」な、この味がどうだった、香りがどうだった
    という事も整理する上では手掛かりにするのですが、
    実はそのやり方を調理に持込んでしまうと、失敗する事が多いのです。
    あくまでも調理は「生産者」の視点で行っています。

    淡路島由良の鱧とハモンイベリコ 丹波黒豆の枝豆

    淡路島由良の鱧とハモンイベリコ
    丹波黒豆の枝豆



    道上の独り言
    以前、西村さんの言葉に
    「修行は意味が無い物ではないか」
    とありましたが、
    それは「作業」を覚える事の無意味さでは無いでしょうか。

    このレシピのこの料理をいかにうまく作るか、という事は
    詰まる所、如何に「作業」をうまくこなせるか、という事になってしまいます。

    「フランス帰りのシェフ」が人気が出ても2、3年で廃れてしまったり、
    「以前は美味しい料理を作っていたシェフ」が
    めっきりと美味しい料理を作らなくなったりします。

    その根本は同じ部分で
    「フランス帰りのシェフ」はフランスで、一定の「作業」を覚えてきただけ。
    「優秀だったシェフ」も、クリエイティブに料理を作り出していたのに
    いつの間にか自分で作った物の「作業」をこなすだけになってしまう。

    「作業」、「コピー」の料理という物は、だんだんとずれていきます。

    西村さんは、
    「作業」を「修行」しても意味が無い
    と仰っているのかもしれません。



    次回は「器具について」をお送りします。



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    名人のこだわり 「器具について」

    FOND

    名人のこだわり
    「器具について」

    鍋の良し悪しは、火にかけた時にわかりますね。
    じわじわと泡が出てくる物が良いです。
    ミジョテ(mijoter)という
    弱火でゆっくり長時間、というのがフランス料理の基本です。
    じわ〜っと熱が入ってくれるのがいい。

    銅鍋以外でもかなり良くできた物も出てきましたが、
    銅鍋が基本ですね。

    包丁は頭で思ったように切れる、という事が大事です。
    切り方というのも大変重要なものです。

    一番はっきりしているのは、肉でしょうか。
    肉を切る時はフグ引きを使って切っているのですが、
    普通の包丁を使うと肉汁が出てしまいます。
    それで大分味が変わってきてしまうのです。

    野菜で言えば、キュウリなどは分かりやすいと思うのですが
    綺麗に切ると青臭くなりません。

    魚も差が出ます。かなり違いますね。
    包丁も、炭素鋼の包丁で切ると匂いがついてしまいます。
    本マグロの赤身や、タコには特に
    匂いが付いてしまうんです。

    銀三の包丁が良いので
    それを刀鍛冶の方に作っていただいて使っています。

    鍛造の様子

    鍛造の様子です。
    簡単にやっているように見えますが、
    「難しい事でも簡単に見せるようになってこそ、熟練の技」
    を地で行っておられます。
    1mm単位での仕事をされています。

    今、包丁は
    実際に使っている物で20本程です。

    砥石は天然の物を使っています。
    一時、「天然ものの砥石は良くない」という誤解が
    広まってしまった事もありましたが、
    一部良くない商品が出回ったことがあった、というだけですね。

    次回は「日本での「フランス料理」について」をお送りします。



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    日本での「フランス料理」について

    FOND

    名人のこだわり
    日本での「フランス料理」について

    日本での「フランス料理」というくくりには
    独特のものがあると思います。

    高級なイメージがある一方で
    例えば、魚を仕入れようとしたときに
    こちらが「フランス料理」の店と言うと、一般的な物が出てきます。
    決して悪い物ではありませんが、質にこだわったものではありません。
    そういう位置付けでもあるんです。

    「フランス料理はソースが命」
    というのはどこで言い出したかわかりませんが、
    「濃い味付けの、ソースやバターの掛かった、こってりとした料理」
    のイメージが付いています。

    魚でも野菜でも、
    素材の味が活かされる種類の料理とは考えられていないのです。

    先日、予約をいただく際に
    「最近はちゃんとしたフランス料理を食べていないんです。」
    というお客様がいらっしゃいました。
    そこでどうしようかと少し迷いました・・・。

    大分前の話ですが、フランスからのお客様に
    いわゆる「正統派」のフレンチを作ってお出ししたことがありました。

    するとその方は
    「こういった料理なら、パリでも食べられる」
    とおっしゃったんですね。

    その事は非常に印象に残っていまして、
    「日本で採れて美味しい物を使って作るべきだ」と
    考えるようになりました。

    そういった事もあってか、最近では
    日本の方で「フランス料理」を目当てに来て頂く方より
    フランスの方が「フランス料理」を、と来て頂く方が
    反応が良い事が多くなりました。
    日本的な「フランス料理」という固定化されたイメージが
    無い為かもしれません。

    という事で先程の、
    「しっかりとした「フランス料理」を」というお客様には
    それでは、と「フランス料理」らしい料理を出そうかとも
    少し考えたのですが
    私だってあとどれだけ、好きな物を作れるのか分からない。
    やはり自分で一番良いと思える物を、とそういった料理を
    お出ししました。

    すると、かえってそちらの方が、喜んでいただけました。

    ただ、その逆に
    「こんなのはフランス料理じゃない」
    と言われてしまう事もあります。
    「フランス料理」はこう、と決めている方には合わない事もあるようです。

    スコットランドの赤雷鳥と松茸

    スコットランドの赤雷鳥と松茸


    今の、「フランス料理」としてイメージされる料理ですが、
    実は100年くらいの歴史では無いでしょうか。
    それより前の物では無いのです。

    それ以前のフランス料理は、クリームやバターをあまり使わない物が多く昔の京都の料理、それに近い物があります。
    そのまま、おばんざいとして出せるのでは?
    というような物もあるんです。

    そこで「ワイン」なのですが、
    「ワイン」という物は長らく変わっていません。
    流行の、一時代の物を追うのでは無く、
    「ワイン」という変わらないその価値観に寄り添って料理を作る事で、
    芯のしっかりとした料理を
    作っていけるのではないかと考えています。

    「ワイン」に合う料理を、
    という事を大事にしているのはそういった面もあるのです。

    次週は「野菜について」をお送りします。



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    名人のこだわり「野菜について」

    FOND

    名人のこだわり
    「野菜について」

    野菜について考える時、
    ワインの事を考え合せてみると
    分かりやすいかと思います。

    ワインであれば
    その葡萄の産地・畑、時には畝までも気にされ
    、更にその年の気温・降水量などの天候、
    収穫の時期・さらには何時頃に収穫するか、
    前後の降水など細心の注意を持って扱われます。

    もちろん野菜でも同じことが言えるのです。
    産地はもちろん、畑によって、土壌によって、気候によって
    大変に影響を受けます。

    ある農家の方にお話を伺った時に
    「今やっている事と同じ事を、他の畑でやっても結果が同じにならない」と伺った事がありますが、
    そのくらい畑により本当にそれぞれ条件が違い、
    また野菜の味も違ってくるのです。

    露地野菜の栽培では「一般論」というのが
    実はあまり通らないのです。

    スコットランドの赤雷鳥と松茸
    金沢の白茄子


    「朝採り野菜」という物がありますね。
    これは実はただ「新鮮ですよ」という部分、「鮮度」の問題なんです。

    ですので、鮮度が大事な、
    タケノコなどの野菜に関しては良いのですが
    その鮮度と、「味」というのはまた別の話なのです。

    以前、毎週野菜を採りに行っていた秩父の井上さんの畑での話です。
    その際には土壌の本を読む事から始めました。

    朝採りと夜採るのでは味が全く違ってきます。
    収穫する時間も大事なのです。
    トマトなどは特にその差が分かりやすいと思います。

    野菜は結局は植物ですので光合成していますよね。
    光が当たっていないとやはり栄養が作られない。
    たっぷり日に当たって光合成をした、
    お昼過ぎ、2時くらいに採ったものが良かったです。

    本当に畝ごとに味が違ってきます。
    日がずっと当たるようなところがやっぱり美味しいです。

    果物はさらに昼が良いと思います。
    ただ、果物は甘いだけでも美味しくない。
    酸味とのバランスはとても大事ですよね。

    葡萄などでも食べて美味しい物はワインにするとおいしくないですし
    ワインに美味しい葡萄は食べると美味しく無いと言いますが
    その部分はお菓子作りに向く果物との同じかもしれません。

    熱やクリームなどの要素が加わると
    向いている物がまた変わるのです。

    次週は「料理の「情景」について」をお送りします。



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    名人のこだわり 料理の「情景」について

    FOND

    名人のこだわり
    料理の「情景」について

    調理に際しては
    新古今和歌集の春夏秋冬の和歌
    あの中の「情景」を思います。

    山や花などの自然が詠まれていますが、
    実際に出てくるのは山や花そのものでは無く、
    その「情景」が詠まれています。

    「情景」がまずあって、
    その上で、その中で、「桜が綺麗だ」となるんです。

    料理の中での食材に関しても同じです。
    その食材を、どういった料理、「情景」にあてはめるか、
    という事をまず考えるのです。

    なので、最終的にやっている事が単純だとしても、
    どの情景のどの部分に当てはめるのか、というのが
    大事だと思うのです。

    ただ単に野菜を切っただけのところに魚介を乗っけただけでも
    これの上にこれが必要だと思ったから、
    こうする事に情感があるな、と思っているからやるんです。

    一方で、素晴しい食材が入っても、
    そのまま出してしまっても仕方がない、という事があります。
    よく「素晴らしい食材ほど、手を掛けない」
    という事を言われますが、私の場合は違います。
    素晴らしい食材ほど、しっかり手をかけています。

    ワインでも素晴らしい畑の、素晴らしい葡萄を
    そのまま潰して「はい、どうぞ」というわけではありませんよね。
    それに近いのではないかと思います。

    白神山地の鮎
    白神山地の鮎
    加賀蓮根
    ビゴール産のハム



    以前、「食材が8割、調理が2割」と言いました。
    もちろん良い食材でなければ、どんな調理をしてもどうにもなりません。
    しかしどんなに良い食材でも、
    しっかりと考えた調理をしなければ、それもまた良い料理にはなりません。

    この季節、この時期にこの食材が良い、
    というのがまずあって、食材を買い揃えますが
    そこからこの「料理の情景」を考え、
    どのように調理をするかを決めるのです。

    次回は「グードテ 〜あるいは食べ物の食べ物」 をお送りします。



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    名人のこだわり 「グードテ 〜あるいは ”食べ物の食べ物” 」

    FOND

    名人のこだわり
    「グードテ 〜あるいは ”食べ物の食べ物” 」

    食材に関しては「食べ物の食べ物」、
    その物が何を食べているか、
    という事が味を変える要因にもなります。

    例えば、オーストラリアの放牧している牛は
    草臭い、などの特徴が出ます。
    家畜の場合は特にその国毎の好みもあってそのように育てますが、
    ジビエなどはそれこそ、
    その動物が好きに食べているものが特徴に出ます。

    ピジョン・ラミエール(山バト)は主に穀類、小麦雑穀を食べます。
    鳥というのは特に毛に匂いが出ます。
    食べているものの香りが付きやすいんですね。
    ある時、大変に渋い匂いが出ているな、と思っていると
    喉の所からゴロゴロとブナの実が出てきたことがあります。

    そのように同じ動物でも、
    地方やもちろん、個体差でも食べ物が違うと
    それが味の違いを出す場合があります。

    細かい話と感じられるかもしれませんが、
    ワインの話で言えば、
    その葡萄が育った土地、土壌・・・
    そういった所は皆さん気にしますよね。
    メドックの土壌、サンテミリオンの土壌、ポムロールの土壌・・・
    土は葡萄の「食べ物」とも言えます。
    gout de terre(グードテ)「土の味」です。
    それにより、同じ葡萄の品種でも味が変わってきます。
    食材に関しても同じ事ではないでしょうか。

    そこに近い所で言えば、
    べカス(ヤマシギ)はその長いくちばしで
    土を掘ってその中のミミズなどを食べます。
    一緒に土も食べますので、そのものですよね。
    それこそ、フランスのワイン用の葡萄畑に放してみたら
    そのワインとも共通性のあるものを持つのではないでしょうか。

    先日は、吉野の鹿(ニホンシカ)とエゾ鹿が来ました。
    この二つは元々種類の違うものですが、やはり大きく味が違います。
    エゾ鹿は牧草を食べる事もあるので、
    普段は青草の匂いがしますが、その時は牛に似た香りがするんです。
    青い味がしないのです。

    ちょっと良い猟師さんがいたものの、獲る人が変わってしまって
    原因がしっかり聞けなかったのですが、
    おそらく牛と同じような穀類を食べていたのではないでしょうか。

    良い猟師さんというのは撃ってからすぐ放血をしてしまい、
    すぐに処理施設に持っていき、冷やします。
    同じ動物を獲っても、そういった部分で違いが出てきます。

    海の物で言えば、
    ウニは、北海道の昆布を食べるものが美味しい、という所は
    皆さんもご存知かと思います。
    鮪で有名な大間のウニのムラサキウニにも、とても良い物があります。
    津軽海峡の良い昆布があるからでしょう。

    余談ですが、ウニの箱詰めの際に
    ミョウバンを使うかどうかなどの事もありますが、
    実は箱に入れる人の技術で、大きく味を左右する、という事もあるんです。

    と、このような
    「食べ物の食べ物」という部分を
    調理の部分ではどのように意識するかと言いますと、

    雷鳥と松茸

    以前紹介させていただいた物ですが、こちらは雷鳥と松茸の料理です。

    この雷鳥は針葉樹を食べますので、
    それを松茸と合せてみました。
    このような合せ方で、それぞれの食材の香りが合ってきたりします。

    食材に関しても、
    ワインで土壌を気にするのと同じように、
    「どういったものを食べて育っているか」を気にしてみるというのも
    面白いのではないでしょうか。

    次週は「料理名について」をお送りします。



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    名人のこだわり 「料理名について 」

    FOND

    名人のこだわり
    「料理名について」

    料理名については、
    シェフの料理に対する考え方が出る、大事な部分かと思います。

    ステーキの「ロッシーニ」や「シャリアピン」は人名に由来します。
    ロッシーニは美食家でもあったイタリアの作曲家に由来し、
    シャリアピンは帝国ホテルでロシアのオペラ歌手「シャリアピン」用に
    作った事から、その名が付きました。
    古い料理にはそういった料理名が多かったのです。

    アラン・シャペルというシェフがおりましたが
    彼の料理名は特徴的でした。
    ずらずらと、使っている材料を全て列挙するんです。

    最近の料理名は単純になっている気がしますね。

    これまでのメルマガの料理の写真でお気づきかと思いますが、
    FONDでは特に料理名は無く、材料のお話だけしています。

    FONDでは、食材に関してのリクエストなどもいただきますが
    基本的には「おまかせ」でその時に美味しい物を調理して
    お出ししています。
    目の前に料理があって、それを食べるだけの状況ですので
    そこにわざわざ料理名をつける必要はないと考えています。

    ただ、材料と産地はお伝えしています。
    食べる側の立場に立っても知りたいからです。

    食材も勿論ですが、産地に関しては
    「あの魚が美味しかったからまた食べたい」とだけ言っても
    「シャブリが好きなので、シャブリを下さい」とだけ言うのに近く、
    美味しいと思っていた物、欲しかった物とは違う物が
    出てきてしまう事があります。
    シャブリにもいろいろなタイプがありますし、
    食材も産地によって別物くらいに違う物もあります。
    産地までがあれば、その後の「手掛かり」にもなりますので一緒にお伝えしています。

    決まっている料理名の、決まっているレシピを作る事については
    調理が「作業」に陥りやすい原因だと思っています。

    淡路・由良の鱧の薫製、みずの実、菊の花、15年物の梅干し
    淡路・由良の鱧の薫製、みずの実、菊の花、15年物の梅干し


    料理の本で、分量の書いていないレシピ本という物があります。
    材料や調理法はあっても、それぞれの分量は書いてありません。
    それは素材の味が違っていたら、
    分量を決めてしまっていても仕方がない、という事です。

    野菜や魚の部分でも述べましたが、同じ産地の同じ物でも、
    翌年になると味が大きく違ってくる事もあります。
    これもやっぱりワインで例えるとわかりやすいですよね。
    ヴィンテージです。

    葡萄があれだけ毎年違うんですから
    食材だって毎年出来が違ってくる事もあります。

    同じ鮎でも去年はこのくらいの時間焼いたけど、
    もう少し時間をかけて焼く、と調整したりします。

    もちろん同じ年でも、条件で食材は違ってきますので
    それは実際に確かめながら、
    分量や調理で調整をしていく必要があります。

    また、レシピで魚が出てきても、
    「フランスに比べて日本のこの魚は味が薄いから違う物になってしまう」
    などという話も聞きますが、別の調理をすればいい話だと思うんです。

    レシピや料理名に縛られて
    良い物を作れなくなってしまうのなら、
    それは本末転倒だと思うのです。

    次週は「料理と"情報"について」をお送りします。



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    名人のこだわり 料理にまつわる「情報」

    FOND

    シャトー・クーテ

    西村です。
    先週はお休みをいただき、京都で還暦のお祝いをしました。
    生まれ年に合わせて貴腐ワインのシャトー・クーテの1952年を
    いただきました。


    名人のこだわり
    料理にまつわる「情報」

    今は、大変便利にネットで情報を得る事ができますが、
    誤解してしまう事に、「情報を集めれば答えが出る」と思ってしまう所があるのかもしれません。しかしそもそも、ネットに全ての情報があるとも限らないのです。

    例えばレストランの評価サイトなどでは
    お店の情報、料理の写真やふれこみまでは見る事ができます。
    それは決して嘘ではありませんし、便利なものですが
    一番問題である、職人さんの技術の部分まではなかなか知ることはできません。

    フランス料理でも1970年代のヌーベル・キュイジーヌの頃には
    「情報公開」という事でレシピや技術などの情報がぱっと広がりました。
    それこそ喫茶店までもが
    キウイのソースを使った「ヌーベル・キュイジーヌ」の料理を出していたりしました。しかし、実際には核心の情報までが公開されていたわけではなく、「〇〇一派」を作っていく、と言う様な、一種政治的な側面がありました。

    ワインの話では、1997年のボルドーは非常に気温が高く、
    暑すぎた年でした。しかし、出回っていた情報は
    「完熟していてこんなに早い収穫は無い!」
    と好意的な情報ばかりでした。
    その結果、プリムール(先物買い)の値段の方がずっと高くなってしまい、
    多くのネゴシアンが潰れてしまったそうです。

    戻りカツオと万願寺唐辛子の赤と青 ピゴール豚
    戻りカツオと
    万願寺唐辛子の赤と青
    ビゴール豚



    「現実」の情報を知っているような方たちは
    あまり多くを語らない、という所もあるかと思います。

    農家の方と話していても、それを感じました。
    一見、農家の方達ものんびりした印象に見えますが、
    土の成分から何から、本当に細かく見ているんです。

    日本はどうしても多湿なので、
    うどん粉病などのカビの病気には農薬が必要になります。
    その濃度の管理も細かく、「何%を散布して、何日後に収穫」と細かく管理しています。

    ジャムや漬物を作る時ですら、
    その分量に対して何%の砂糖、何%の塩、としますし、
    畑の土壌にしても「ここは水成岩の重粘土」と言う様な事がスッと出てきたりします。

    このように、非常に細かい事までも把握してやっているのですが、
    それも農家の人達にとっては、そのような事は「当たり前」の事という認識で、わざわざ言わないんです。
    話をしているとそういう部分がぽろっと出てきて、
    こちらが知る事ができる。

    勿論、その情報こそが、
    農家の方にとって生活の礎になったりする種類の情報もあるので、
    外に出てこない物というのもありますが。

    料理人の方でも同じようなところがあります。
    「当たり前」の下ごしらえと思っている所、
    例えば、魚は身の質が変わってしまうので活けの状態の時にしか下ろしません。
    ただ、それが料理として出てくる時には、
    見た目にはどのくらいやっているかが出てこないところなんです。
    なので、あえてその部分を声高にいう事はありません。

    京都の料理人の方などでも、
    経験を積んだ方たちが段々と引退され始めており、大変残念です。
    どんなに良いお店でも代替わりをしてしまうと、
    大抵味が変わってしまいます。
    逆に良くなるお店というのもありますが、それは僅かです。

    同じ材料、レシピであっても、もちろん血を受け継いでいても、
    共有しきれない部分、伝えきれない部分があり
    実はその部分こそが、大切な部分なのかもしれません。

    そういった本当の意味での「情報」という物は
    なかなか伝わっていくものでは無く、
    簡単に「これはこうだ!」と声高に伝えられることは
    実は大した「情報」では無いのかもしれませんね。



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    名人のこだわり「2つのワイングラス」

    FOND

    名人のこだわり
    「2つのワイングラス」

    お客様によっては
    「ジビエはクセの強い肉」というイメージをお持ちの方も多く
    避けられる方もいます。
    実際には、しっかりした処理をすれば決してそうではありません。
    でなければ、昔から現在に至るまで
    これだけの食文化として残ってはいないでしょう。

    とはいっても、実際にしっかりとした処理がなされずに
    臭みのある物を召し上がった経験がある為に
    悪い印象がおありなのでしょう。
    その事自体、決して間違いでは無いと思います。

    ですが、
    「若いブルゴーニュの赤を飲んで美味しくなかった。
    ワインって美味しくないね」と言われたら、
    「ちょっとそれは待ってほしいかな」と言いたくなるような
    気持ちと似ています。

    料理や食材で苦手なものなどがあった時には
    それをもって、全てがそういう物なのだ、とは決めてしまわず
    色々と試していただきたい。

    以前お話した「料理名について」の内容とも関わりますが、
    「キジのテリーヌ」です、といった時に
    以前にその料理を食べた方が、
    反射的に「その料理は苦手」となってしまう。
    料理名をつける事にはそういった弊害もあります。

    佐島の伊勢海老とトリュフ
    佐島の伊勢海老とトリュフ


    先日、ある所から新たにキャビアを仕入れました。
    すると、「キャビア」特有の匂いが全然しないんです。
    今まで扱ってきた中でもここまで匂いが無かった事はありません。

    考えてみると
    筋子の鮮度の良い物は、イクラ臭くはありません。
    「そういう事かな?」と訊ねてみると
    やはりその生産者は相当、鮮度に気を使っているとの事。

    キャビアに関しても
    たまたまそういう物を口にしたので、本来こういう物だと分かりましたがそうでは無い物だけを食べていれば
    「キャビアとはこういう物だ」と思い込んでしまいます。

    食べ物の好みを話している時に
    それぞれに、例えば「ウニ」や「鹿肉」を「好き」「苦手」と
    話しているとします。
    実際にはお互いに全く違う物を食べているのに
    「同じ物」として比べてしまうと、
    話が平行線になってしまうのは仕方がない事です。

    シェフとお客の間でも、厳密に共有ができない部分があるんです。

    料理と言うのは、実は食べた人にしか分かりません。

    例えば絵画などであれば、
    作品を鑑賞する人も作者も同じ物を鑑賞する事ができますが、
    料理に関しては、お客様に出した物と全く同じ物を食べる事は
    出来ません。

    この食材でこのような調理で、と出しても
    作った料理人にだって、最終的にその味はわからないんです。
    その人の食べ方などでこちらが感じているだけで、
    食べた本人が全てなんです。

    シェフとお客さんでもそうなのですから、
    ここは料理の厄介な所でもあります。

    ワインでもそういう事があります。
    不思議な事に同じテーブルで同じワインを一緒に飲んでいても
    味が違う事があるんです。
    グラスを持つ指先への力の入れ方や体温、などの個人差でしょうか。

    一緒に飲んでいて自分が美味しいと思っているワインを「好きじゃない」という人がいても、それは本当にそうなのかもしれません。
    実は同じ味の物を飲んでいなかったりする。

    機会があって、グラスを交換できる相手がいる時には
    試してみると面白いかもしれません。

    次回はもう少しジビエについて詳しくお話ししたいと思います。



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    名人のこだわり「ジビエについて」

    FOND

    名人のこだわり
    「ジビエについて」

    ジビエという物は、
    家畜と比べると味の幅が大きいです。

    家畜は決まった屠場で殺され、放血をされます。
    ジビエの場合には猟師さんが撃って、処理をします。
    その事で幅が広くなるのです。

    また、季節によっても風味が変わってきます。
    例えばエゾ鹿で言えば、秋になると山が枯れてくる。
    枯葉のような香ばしい匂いが蝦夷鹿の肉に出てくるんです。

    北海道の猟師さんなどは、
    夏の鹿に比べ秋の鹿の方が香ばしくて好きという方もいらっしゃいます。
    ここはクオリティの問題では無く、好みの問題です。

    スッポンも「ジビエ」ですね。
    スッポン焼きスッポン
    スッポンの血のフラン
    焼いた間々田カブと山牛蒡


    ジビエは「どこでどのように獲られたか」が大事な部分ですが、
    猟師さんの所まで追って行く事もできます。
    蝦夷鹿の時は猟師さんを決めて、お願いをしていました。

    「今度煮込む料理に使いたいから、一歳前後の肉が欲しい」とか
    「フィレはもう少し歳が行っているものがいい」
    などと、お願いできましたし、
    「どこでどのように獲られたか」についての情報などもやり取りできたので良いのですが、普通だとそう言う事がなかなか難しいのです。
    肉の部位だけで、誰が獲ったかも分からない、となれば、
    もう仕入れ先しかなくなってしまいます。

    吉野の鹿は、吉野の鹿でブランドを保とうとしていますので、
    味には一定の安定はあります。ジビエでもそういった物はあります。

    しかし、そういった指定が全くできないジビエもあります。
    ヨーロッパから入ってくるジビエですね。
    日本にいないので、ヨーロッパから入れるしかない物としては
    ピジョン・ラミエール(モリバト)、赤雷鳥、ペルドロー(山ウズラの雛)などです。

    輸入のジビエに関しては、どういう状況で入ってくるか全くわからないんです。まあ、ある程度は輸入する所で選ってはくれるのですが、それでも誰が獲ったかなんて全くわかりませんし、どんな状況で獲ったのか分かりません。

    ただ、向こうにはドゥミ・ソバージュ(半養殖)という物もあります。
    ペルドロー、フェザン(キジ)、コルベール(マガモ)等です。
    それは、飼育している物なので
    撃つわけでは無く飼育と同様の処理になり安定していますが、
    輸入のジビエは、ものすごく良い状態で来る物もあれば
    それこそ、ボロボロの物もあります。こちらからは数を指定できるだけです。

    そうなってくると、今度は全てが店の責任になります。
    店側の処理がイコール、料理の味になるからです。
    ジビエの問題はここに帰結すると考えています。

    来た物に対してどうするかは店の判断に委ねられるんです。
    「ここは血が回りすぎているので使わない」とか
    「これはこうだから、こう処理しなければならない」と
    店側が考え、判断しなければならないんです。

    一番良くないのは
    「ジビエはこういう物なんですよ」と、
    処理の不備を、ジビエのクセのせいにして出してしまう事ですね。

    風味という点では、青魚を好きな人でも
    アジを食べる人、サバを食べる人、
    それぞれに持っている風味が違うからそれぞれ好きな方がいるんです。
    「ジビエのクセ」というのはあくまで風味です。
    血が回ってしまっている、というのは全く違う話なんです。

    生臭いサバを、「これがサバなんですよ」と出すのはおかしいですし、
    更には血が回っておらず臭みの無いジビエに
    「ジビエっぽくない」という事は、もっとおかしな話です。



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    名人のこだわり「トリュフと松茸 〜「香水」と「虫食い」」

    FOND

    名人のこだわり
    「トリュフと松茸 〜「香水」と「虫食い」」

    今の旬と言ったら、なんと言ってもトリュフです。
    トリュフは12月から2月にかけてが旬ですね。

    白トリュフであればイタリア、黒トリュフであればフランスの物が良いです。とりわけ1月中旬からが寒くなってきて香りがついてきて・・・
    と一番いい時期です。

    しかし採る側からすれば、トリュフが一番高く売れるシーズンに採って売りたい。すると、クリスマス前に多くのトリュフが収穫されてしまい、
    一番の旬の物が出てこなかったりするんです。
    そこは「高級品」という事もありますので、買い手の問題もあり、
    景気に左右されて出てきたり出てこなかったりという事になります。

    また、日本でトリュフを食べるには、どうしても難しい事があります。
    収穫からの、「日本に届く日数」です。
    向こうでの収穫後、輸出に際しては放射能検査があり、そこで数日掛かります。それを経ての輸入となりますので、日本への輸入には最低一週間程度かかってしまいます。

    トリュフの鮮度で一番の差が出るのが「香り」です。
    一度知り合いから、収穫後間もないトリュフをいただきました。
    決して強い匂いではないものの、食事を食べている所よりも、
    何メートルか離れた所に漂ってくる匂いの方が、よりにおいが濃い。
    そんな不思議な強さを持った、良い香りでした。

    日本で手に入るトリュフが本当に良い状態とは言えなくても、
    やはりトリュフは代えのない食材です。
    トリュフでしか出せない香りや、相性があるのです。

    黒トリュフは相性の良い物は多くあります。
    今で言えば、大間のマグロの赤身(時期や獲り方にもよりますが)、スッポン。黒トリュフは、そのものがワインと美味しいです。
    似た香りがワインにも含まれる場合がありますよね。

    白トリュフはにんにくに近い香りがします。
    違う部分は、食べた時の刺激臭が無い事でしょうか。
    白トリュフの特性はそれ自身よりも、
    一緒になった食材がとても美味しくなるという性質があります。
    バターとの相性はいいですね。
    玉子麺のパスタがとても良く合います。

    白トリュフと手打ち麺のパスタ
    白トリュフと手打ち麺のパスタ


    日本だからこそ、というのは松茸です。

    松茸はそのカサの部分での開き方で味や香りの強さが違ってきます。

    良く炊き込みご飯にはカサの開いた物を、と言います。
    ですが開いたマツタケですと
    きついにおいがするものの、甘い香りが出ません。

    一番良いのはカサが半分程度開き、まだカサの内側に膜が残っている状態。「半ビラ」と呼ばれるのですが、この松茸を使った炊き込みご飯は、香りがしっかりたっている上、何もいれていないのに、まるでみりんを入れているような甘みが出るのです。

    松茸で言えば、今度は別の国に行ってしまうと
    日本にいる様には味わえない。
    以前、「それぞれにその地の物で美味しい物を、それぞれに活かす調理で」と申しましたが、そういった事でしょう。

    トリュフと松茸、ともに特に「香り」が大事な食材です。

    フランス料理は「香水」文化、と例えられる事があります。
    「体臭」という香りを、ただそれを消すのではなく、
    違った香りの「香水」を混ぜる事で、また別の「良い香り」にする、
    と言う考え方です。

    一方で日本には、
    加賀友禅の特徴に「虫食い」というものがあります。
    ただ美しいばかりの物を柄にするのでは無く、
    そこに虫食いのある葉までを入れてしまう。
    そしてそれを美しいと感じる。
    そういった美意識は日本人ならではだと思います。
    この感覚は大事にしたいです。

    その「香水文化のフランス料理」と「虫食いをも愛でる日本文化」、
    両者の感覚を、どこかで上手く合せられるのではないか。
    上手く合わせていきたい。そう考えています。

    次回は1週お休みをいただきます。



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    名人のこだわり「おせち」について

    FOND


    名人のこだわり
    「おせち」について

    おせちはお重に入っているような、まとめた物としては作りません。

    お客様に頼まれて、おせち用に使えそうな一、二品を作る事はあります。
    先日、お客様から「地元の猟師さんにもらった」と
    熊の肉とイノシシの肉が持ち込まれまして「なんとかしてくれない?」
    と依頼をいただきました。

    普段自分のところで扱っているジビエであれば勝手も分かりますが
    このように来た肉はどのような物かなんてわかりません。
    だからこそ素材を活かして、なんてものではなくて、
    加工をちゃんとやる、というのを第一に考えました。

    イノシシはコウタケ(香茸)と調理をしました。
    コウタケにはタンパク質分解酵素があります。
    1時間半くらい時間をかけて、火を入れていったのですが
    ほぼ肉がパテというよりもディップのような感じになってしまいました。
    本当に溶けてしまうんです。

    マイタケにも多少そういう所があって
    パン生地にマイタケを入れて焼くと、周りにぽっかりと穴が開くんです。
    キノコによってはそういったものもあるのですが、
    それにしてもコウタケは凄かったですね。
    イノシシ肉が1時間半ほどで全部溶けてしまい、
    意図して作ったものの、パテのように作ったものが
    「イノシシ肉ベースの、コウタケ風味ディップ」となりました。

    コウタケ
    参考画像「コウタケ」 wikipediaより引用(著作権者:H. Krisp)


    次に熊ですが、この熊の肉が曲者なんです。
    イノシシはどこまでいっても、まだ豚と近いので
    特有の風味があっても、まだどうにかできます。
    熊はあくまで『熊』。固有の風味があります。
    その熊の食性によって随分違いが出る、と言われてはいるんですが
    それでもやっぱりにおいが強いのです。

    ちょうど今頃扱う物で、「数の子の塩抜き」がありますが、
    塩気が無くなるまで抜いてしまうと美味しく無くなります。
    それと同じ事で、やはりある程度肉の風味を残しつつ、
    強く出てくる部分を取って、バランス調整の処理をします。

    また、熊肉は堅いので
    ボロボロにならないようにしつつ、
    多少は柔らかくして、スライスして食べられる状態に。
    その上で真空パックをして冷凍し、
    お正月に食べて頂けるようにしました。

    普通の調理でもそうですが、
    ソースなどの前に、料理の土台である「加工」をしっかりする事が重要です。

    おせちはまさに「加工」の料理、その典型と言えます。

    おせちは加工する事で保存がきく物です。
    フランス料理で言えばテリーヌ、リエット辺りでしょうか。

    テリーヌは肉の鮮度が重要です。
    普通の料理ではある程度熟成を、という事はありますが、
    テリーヌでは鮮度が無いと、「甘くなる」という事はありますが
    旨みが無くしょっぱいだけになってしまいます。

    更に普通の料理の塩気よりもテリーヌの塩気の方が強いので
    その分肉の旨みも強くないと、ただなんとなく田舎っぽい味の、
    塩っぱくて・・・という物になってしまうのです。

    おせちは
    日本料理と言っても和食屋さんで普段出てくる料理でもないので
    通常の料理とはまた違った物です。

    おせちのような料理は一つ一つの伝統を守っていかないと、というものでしょう。
    黒豆などもいくら「甘くない方が良い」と言っても余りに薄くても良くないですし、
    伊達巻だって塩味だけの物は美味しくないでしょう。
    このような「この材料は、こういう加工の歴史やルールがある」という料理は
    そのまま守って行くのが良いと思っています。

    「フレンチだけのおせち」、のような物はちょっと無理がある気がします。
    肉を焼いた物をおせちに、と言っても、
    それはやはり、焼いた時に食べたほうが美味しいですしね。

    今年から新たに連載を始めさせていただきましたが、
    お読み頂き、ありがとうございました。
    皆様、良いお年をお迎えください。

    次週の年明けは1週お休みをいただき、「デザートについて」をお送りします。



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    名人のこだわり「デザートについて」


    FOND

    名人のこだわり
    「デザートについて」

    料理ですと、素材の加工をしっかりすれば、「料理」として出来上がって行く所があります。
    しかし菓子造りの場合には、もっと明確な「造る意思」が求められます。

    基本的には「小麦」「砂糖」「卵」「乳製品」の4つの組み合わせから造り上げていきます。
    そして基本的な「スポンジの配分」という物はあっても、
    その配合の上下で無限に近い組み合わせがあるんです。

    身近な所で言えば、コーヒーを飲む時を考えてみて下さい。
    単純なようでいて、クリームと砂糖の量の配合だけでも大きな味の違いが出ますよね。
    そのように、同じ物を作っているように見えても、大変な違いがあります。

    デザートにおいて食材の差が出るのは果物です。
    苺を思い起こす方が多いかと思いますが、決して上品な果物ではありません。
    大変に、やんちゃでおてんばな食材なんです。
    自己主張が強く、放っておくとどこにいても「私は苺」と目立ってしまう。
    苺の調理方法は、「落ち着かせて馴染ませてやる処理」となります。

    苺のショートケーキでも、本来は苺の加工をしてあげたほうが良いです。
    「ロマノフ」というデザートがありますが、
    苺に砂糖をまぶし、コニャックで軽くマリネし、
    それにクレームシャンテをつけて食べる物です。

    苺の調理としては一番美味しいものかと思います。
    苺の元々の強い部分も残っているし、ブランデーで香りはより強くなる。
    かつ融通のきかない苺の自己主張も収まり、馴染みやすくなるのです。

    ロマノフ
    ロマノフ


    加工で甘くする栗などでも、元の栗自身が良くないと、
    砂糖の甘さだけが舌に残ってしまいます。
    元々の栗の甘さ、風味がしっかりないといけません。

    フォンでは極力作りたての物でデザートをお出ししています。
    アイスクリームは作った物を一度しっかり凍らせ固めてしまうと、
    味が違ってしまいます。
    それはかき氷で考えると分かりやすいかと思います。
    ザクザク削ったものと、カンナで綺麗に削った様なふわっとした氷では大分味が違う。

    綺麗に削ったものは、あまり冷たく感じません。
    アイスクリームは一度凍らせると、含まれている空気が減ってしまうのです。
    いつも意識している事は、
    「コースの中でのデザート」としてしっかり味を清算しよう、と作っています。

    私は料理の後味が食事後も残るのは、良い事では無いと考えているからです。
    コース全体を考えて、ここがこういう味だからこうする、
    とデザートを決めたり、同じスポンジでもバターの量を変えたりして調整をします。



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    名人のこだわり「風味と画一性」


    FOND

    名人のこだわり
    「風味と画一性」

    お店の料理については
    「あそこのあの料理は、こういう味」という安定感が問われ
    「あそこは味が変わった」
    と言いますと、悪い意味で使われる事が多いかと思います。
    勿論「味が落ちた」というのは別の話ですが、
    本来は都度、味が違うものではないでしょうか。

    魚はその季節や食べ物、獲り方でそれぞれに味が違ってくる事は
    既に書かせていただきましたが、
    一匹一匹でもそれぞれに個体差もあり味が違います。
    また、違う事を前提として調理も行います。
    その際に無理に「こういう味にしよう」としても仕方がありません。
    元の味、性質を変えてしまっては本来の美味しさとも違いますし、
    無駄にしてしまう事でもあります。

    ジビエであれば、ジビエそれぞれの性質、特性とは関係の無い、
    血が回っている部分の処理などはします。
    ただし、そこでは個性やバランスを見つつの処理をしますが、
    そもそもどれも同じ味にしたいのあれば、全部除いてしまえば良いのです。

    前回取り上げた苺の話でも同様です。
    一年中痛みにくい種類の同じ苺を使うのか、旬に合わせて苺を選ぶのか。

    そういった選択は料理に限らず、ワインでも同じです。

    このように、安定した味を作っていくのか、
    風味や食材のそれぞれの風味を生かした特徴を出すようにするか、
    それぞれの店の方向性が出る所です。

    鮪とトリュフ
    鮪とトリュフ


    フォンで作りたい料理は、「作った味でない」というのが理想です。
    「大変に手をかけているけれど、自然な物」という料理。

    ワインで言えば、摘んだ葡萄をそのままかじったような味のワインでも
    実際にはそれを造り出すのに非常に手が掛かっています。

    店で食べて、飲み食いした時に、「私の作った料理」では無く、
    ただ、野にいるように葡萄の畑にいるように感じられる料理。

    そして、シェフとしてやっている以上は、新しい味の物を作りたいです。
    まだまだ料理でも「隣にあるのに手を出さない物」、というのは結構あるんです。
    これにはこれ、という組み合わせで思い込まれている物も多く
    「すぐそばにこれがあるのに」
    というのがあっても手を出さない場合があります。

    ただ「新しいから、良い」という事では無く、
    奇をてらわず自然な料理だけれど、結果として新しい物だった、
    という物がいいですね。

    「新しいけれど、自然な料理。手が掛かっているけれど自然な料理。」
    というのが理想です。

    次週は1週お休みをいただきます。



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    名人のこだわり「生ものの熟成」について


    FOND

    名人のこだわり
    「生ものの熟成」について

    良く言われているけれども、はっきりしないというのが「生ものの熟成」の話です。

    まず熟成については、区別をして考えないといけません。
    「塩蔵品の熟成」、と「生ものの熟成」では、同じ「熟成」という言葉で括られていますが、
    それぞれに違う物です。

    「塩蔵品」は生ハムやチーズのような、
    塩で腐敗を止める事により、長い時間をかけて熟成をさせる物です。
    この「熟成」ははっきりしています。
    生ハムやチーズ(特にパルメジャーノなどのハードタイプ)では、
    ここまで熟成をさせるとその特性、風味が出てくる、というのが分かりやすい物です。
    新巻鮭などもそうで、最初は塩っぱいだけの物が、時間を置くと甘さが出てきます。

    からすみと平目、小柱
    からすみと平目、小柱


    対して、肉や魚などの「生ものの熟成」と言われている物となると、
    途端に微妙で難しい話になります。

    塩蔵品の熟成では「塩」で腐敗を止める事により緩やかに熟成が進みますが、
    「生ものの熟成」は歯止めが利きません。
    塩蔵品のように「3年で出てくる風味」と、塩を使わず「1日2日で出てくる物」は違いますし、
    短時間で状態が変化していきます。
    極端な話、お店でその日の夕方6時に出した肉と9時に出した肉の状態が違うという事もありますし、
    魚になるとその変化がさらに早いのです。
    昔のお店では、刺身は夜の8時までしか出さない、という所もありました。

    また、別の問題もあります。
    「特徴が出ない時の美味しさを認めるかどうか」という事です。
    良いヒラメやマコガレイなどの白身の魚の場合、
    最初の、甘みがあり旨みが出てきた頃と言うのは、大変美味しいのですが、
    魚の差、特徴はあまり出ません。
    これを良しとするのかどうか、お客様は勿論、店側でもそれぞれに考え方が違うのです。

    知り合いの漁師さん達の中では、特徴が出る前の方が好きな方が多く、
    生でもそうですし、煮魚であっても、新鮮でないと美味しくないと言います。
    確かに煮魚の場合は特に新鮮な物が良く、ここでは分かりやすい差が出ますし、
    塩蔵品の熟成についても、元の食材の鮮度が重要となります。

    普段の生活の中では、塩をしない生ものを置いておいて
    「熟成」という物に触れる事はそう無いのではないでしょうか。

    「カレーを一晩置いておくと、熟成して美味しい」と言いますが、
    それは「おでんに味が染みこんで美味しい」と言うのに近い話です。
    一晩置くと、具材に味や香りが染み込んでくる。香辛料やルウが落ち着いてくる。
    それがこの変化の大部分で、熟成とは違う話です。

    「肉の熟成」と言いますと赤身のお話ですが、
    「A5ランク」のような霜降りのお肉は、どちらかと言うと脂の酸化の方が出てしまいます。
    本マグロでも、酸味が出て渋みがあって「癖が出たのが良い」というか、
    「無い方がいい」というか、分かれる所でもあります。
    肉でも「癖が出てきた肉が旨い」とするかどうかは、何とも言えないところがあります。

    このように、「熟成」という言葉で語られる事の多い「生ものの熟成」ですが、
    「生ものの変化」という表現の方が、より適切なのではないでしょうか。
    そして、魚や肉はそれぞれにお店が思う、
    「変化の中での食べ頃」を見計らって提供されるものです。

    今後は隔週にてお送りします。
    次回は「血と肉について」です。



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    名人のこだわり「血と肉」について(前編)


    FOND

    名人のこだわり
    「血と肉」について(前編)

    魚でも肉でも、血の事を考えると理解がしやすいです。
    血は鮮度が落ちやすく、肉の臭みの元にもなります。

    血自体を食べる、という事に関しては
    ヨーロッパではソーセージなどで血を使いました。
    日本にはその習慣はあまりありませんでした。
    むしろ血は出来るだけ抜きたい、という所があります。
    日本料理の鴨ロースなどでも、焼いた後に重しで押さえて血を抜いてしまうくらいです。

    食肉の文化自体は無かったわけではありません。
    江戸時代の生類憐れみの令などは、あれは捕って食べていたからこそ「禁止」という事ですよね。
    決して明治の文明開化の時に入って来たという事ではありません。
    表立って食べられていなかったというくらいの話です。

    以前、牛や豚のと畜の際にストレスを掛けない事が大事だ、というお話をしましたが
    それは、まず「ストレス」が血に混じり、成分が変わってしまいます。
    それが身に廻り、肉にも変化が及ぶと考えていただくと理解しやすいと思います。

    スッポンでも同じで、
    しめる時に興奮させてしまうと血がドロッとしますが、綺麗にしめるとサラッとしています。

    手前がスッポンの血のムースです
    手前がスッポンの血のムースです


    鰻屋さんに聞いた事があるのですが、
    九州から鰻を輸送する際に、「針麻酔」を行ってみた事があったそうです。
    すると、グッタリとして輸送の際にも鰻が暴れず、
    届いたその鰻は、割いたときに血がサラッとしていたそうです。

    ジビエで言いますと、
    鴨やピジョン(鳩)などの家禽を窒息させたものは身が甘くなります。
    その方法は、気絶させた状態で興奮させずに
    ガスで窒息させるので、ストレスがかからないのです。

    肉の部位の中で、血が多い所、すなわち影響を受ける部位といったらレバーです。
    鮮度がいいうちは生はもちろん焼いても甘いですが、
    鮮度が落ちると、すぐに味が変わってしまいます。

    まだ冷蔵庫など無かった時代の、昔のフランスでは
    城の領主などは鳥のモモ肉は使用人に食べさせ、
    自分達はムネ肉が食べていました。これも血の問題です。
    ムネよりもモモの方が血が多い為、痛むのが早いのです。
    ムネがちょうど食べ頃の時にはモモは臭みが出始めるのです。

    一度出た血が身に戻ると、一番臭みが出る、という事もあります。
    真空パックで売られている肉などでは、
    血の吸収材も一緒に入れられてはいるのですが、
    この状態は一度出た血が身に戻りやすくなってしまいます。

    お寿司屋さんでもマグロにサラシを巻いていますが、
    それも身から出た血がまた戻らないように、と言う為です。

    次週は「血と肉」についての後編をお送りします。



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    名人のこだわり「血と肉」について(後編)


    FOND

    名人のこだわり
    「血と肉」について(後編)

    前回は血と肉についてをお送りしました。

    血自体は不味い物でも、悪い物でも無いですが、
    鮮度によって悪くなりやすいので
    結果として血が原因で味が落ちている場合が多いのです。

    昔のジビエの料理法というのは、城の領主が狩りをして捕ってきたものを
    すぐに調理するというところで成立してきたものです。
    その料理法は今も残ってはいますが、
    当時の料理法だけに囚われてしまうとおかしくなります。

    今ではヨーロッパで捕られたジビエが日本にまで来るような状況です。
    そこまで食材の「経路」は変わっているのに
    「料理法」が変わらないのでは無理があります。

    血の鮮度の話というのは、詰まるところではこの経路の話です。
    その中で血の鮮度が落ちなければ、使えるという事です。

    魚の血抜きに関しては、その主な理由は「持たせる」為です。
    血を抜かない方が、身の味には厚みがあります。
    鮮度が良いうちに食べられるのであれば、血は抜かないほうが美味しいのです。
    その場で食べてしまうような、鮎の塩焼きなどは血抜きをせずそのまま焼いてしまいますよね。

    血抜きをせず氷でしめるだけ、というやり方ですと、
    弱って行って死ぬわけでもありませんので、美味しいです。
    ただ、味が落ちるのがずっと早いのです。
    身がいかっている、その時の身の甘さ、これが無くなっていきます。
    捕ってすぐの魚を食べる事はなかなかできませんので、血抜きを行うのです。

    マグロの捕り方で味の違いが大きい、という話を以前させていただきました。
    それは一本釣り、延縄、という獲り方の差が
    マグロの血に影響し、身の味に影響を与える為です。

    一本釣りでは、最近では針のところから電流を流して魚を弱らせながら釣り上げる、という釣り方をします。
    延縄は針に引っ掛けてそのままですので、マグロは息ができず、揚げる前に死んでしまいます。
    定置は大きく網に捕らえ、揚げる時に頭をガツンと叩いて瞬間的に殺します。
    これは肉のと蓄に近いのかもしれません。

    この中で、臭いが一番出ないのが定置で、FONDではこちらを使います。
    本マグロでも定置ですと、これが本マグロか、と言うくらいに癖が出ません。
    ただ、逆に本マグロの癖、酸味や渋味、独特の臭いが出ないと嫌だ、
    と定置を好まないお店もいらっしゃいます。ここは好みの問題でしょう。

    血を劣化させないという処理方法は、冷凍するしかありません。
    ですので安い、冷凍のマグロには血の臭みがないのです。
    その代わりにマグロの風味までわからなくなってしまいます。

    戻り鰹
    戻り鰹


    カツオも血の影響が大きいです。
    カツオもマグロと同じく、泳いでいないと呼吸ができない魚です。
    こういった魚は身に血が多く赤身となります。
    逆に短距離を瞬発力で泳ぐ魚は身は白いですね。

    カツオは痛むのが大変に早く、鮮度が良い状態が大変に短い魚です。
    本当に持つものでも、揚げてから3日でしょう。
    FONDでは太平洋側のカツオですと、市場から買った日にしか使いません。
    不思議な事に日本海側のカツオは持ちが良いです。
    身がマグロに近いような物があり、言わなければカツオとはわからないような物もあります。
    カツオの臭いもしません。

    カツオはたくさん出回る魚である一方で、鮮度が良い状態で売られている事が少なく、
    元々の「カツオの味」と思われている味自体が、誤解されて認識されている魚かもしれません。
    「血の鮮度が落ちやすい」という事がよく表われた魚と言えます。



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    名人のこだわり 「フグについて 〜「支え」の味」 前編


    FOND

    名人のこだわり
    「フグについて 〜「支え」の味」 前編

    フグについては、白身魚の中の一つとして捉えています。
    しかし、その中でもかなり特殊な魚と言えます。

    まず大きな違いとして、
    普通の魚は泳いでいるのを締めてから
    長く持っても3日くらいのもので、その間でも変化が大きいです。

    フグの、特に天然の物ですと
    4日は食感が変わらないままに持ちます。
    白身ですとダレて来て水が出るのも早いですが、
    フグはそれが遅いのです。

    フグの唐揚げ
    フグの唐揚げ


    フグについては、 その味についての表現も難しい魚かと思います。
    金額の面からもありますが、 その味について語られる事が少ないのは、
    フグの味の性質にもよるのでしょう。

    「だし」で考えていただくと、その感覚が分かりやすいかもしれません。
    「鰹節のだし」と「昆布だし」を考えてみてください。

    鰹節は旨味がぱっと来ますが、味の「厚み」はありません。
    一方で昆布だしは、「支え」になるものです。
    それこそ鰹節に合わせて使ったり、湯豆腐や魚にも使う。
    そういう「支えになる旨味」と言え、安定した味ではありますが、
    香りを除いてしまうと、昆布の味自体が前面に出ている料理というのは少ないと思います。

    フグはこの「昆布だし」の感覚に近いと思うのです。
    同じ白身の魚で言いいますと、ヒラメは「鰹節」に近いです。
    美味しいヒラメは旨味がはっきりとしています。
    フグはそれとも違い、味がたっぷりしている感じがあっても、
    旨味がぱっと前面に出てくるものではありません。

    そのような所から、
    「どのように表現して良いか分からない味の魚」と捉えられているのかと思います。
    鰹節のような、旨味のはっきりした味の物の方が多い事もあるのでしょう。

    一方で、フグと良く合うワインは赤です。
    かなり安定的に合いますので、「手堅い」組み合わせとして扱るほどです。
    この事からは、フグの味の「芯の太さ」をわかっていただけるかと思います。

    次回は「フグについて」の後編をお送りします。



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    名人のこだわり 「フグについて 〜「支え」の味」 後編


    FOND

    名人のこだわり
    「フグについて 〜「支え」の味」 後編

    「内湾のフグ」と言いますと 豊後水道の大分の方か、山口の方です。
    どちらも味が違いますが、値段はほぼ同じくらいで、味も安定しています。

    養殖のフグでも山口の物は、味がしっかりしていて臭みもありません。
    餌や飼育が良いのでしょう。
    他の産地の養殖はなかなか良い物はありません。
    大変安定しているので、フグ屋さんや日本料理屋さんでも
    これしか使わないというお店もあるくらいです。

    天然では静岡や愛知のフグもありますが、
    ものすごくばらつきがあって、身にほとんど味が無い物もあり、
    個体差も大変大きかったです。
    天然でも、良くないフグは身の甘さがありません。
    値段も山口の養殖のフグに比べると2倍程になってしまいます。

    山口の養殖のフグと、豊後水道や山口の天然フグは3倍は違います。
    ただ、どうしても「養殖では無い味」という物もあるので、天然フグを選んでいます。

    天然と養殖の差は、他の魚よりも微妙な差です。
    山口のフグの天然と養殖の違いで言えば、「あとくち」です。

    美味しい昆布だしというのは昆布臭くありません。
    フグも天然の物は臭いがしつこくありません。
    フグの仲買いさんに聞いた話ですが、てっちりを調理していて、
    小さな娘さんが「今晩はフグだ!」と言うときは、決まって養殖で、
    天然のフグの時には気付かず、何も言わないそうです。

    味については養殖の方が甘味が強いくらいなのですが、
    不自然な甘さとも言える感じでもあります。

    フグ刺しとフグネギ
    フグ刺しとフグネギ
    高等ネギが元の名前ですが、癖が強すぎず、
    フグに合うネギの為、フグネギとも呼ばれます。


    「旨み」というのは味としては口に入ってから割と後に来るものなのですが、
    「甘み」は最初にふわっときます。

    フグに甘みが無くても、ポン酢には醤油からくる甘みがありますので、
    旨みさえあればどうにかなってしまう部分があります。

    ワインと合わせる時にはポン酢は合わず、
    使いませんので フグ自体に甘みがある物が良い。
    そこで豊後水道か山口のフグを比べると、山口の方がほんの少しですが甘みがあります。
    そういった理由から、FONDでは山口のフグを使う事が多いです。

    このように、同じ「フグ」と一口に言っても、
    やはり大きな違いがあります。
    食感だけの食材でしたら、長くこの価格帯で取引されるものでは無いでしょう。



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    名人のこだわり「パンについて」


    FOND

    名人のこだわり
    「パンについて」

    フォンでは料理に合わせて、
    パン・ド・カンパーニュをお出ししています。

    フランス産の小麦を、石臼で挽き
    温度など季節の変化にも対応しやすくなるよう
    どの過程でも機械を使わず、手作業で焼いています。

    パンもやはり温度の変化など四季によって違いがあります。
    しかしそこは無理やり、均一の味にするのではなく、
    季節ごとの味で良いのではないかと思っています。
    大きく違ってしまうのであれば問題ですが、
    一緒に食べる肉や魚、野菜も、その季節によって味が違ってくるからです。

    そして1次発酵では18時間ほど寝かせ、
    お客様のいらっしゃる1時間ほど前に焼き上げるようにしています。

    パン作りは、菓子作りより、製麺に似ています。
    綺麗な製麺にしようと思うと、よく捏ねた方が良いのですが、
    捏ね過ぎると甘みが抜けてしまいます。
    パンも同じで、綺麗に膨らませようと思うと長く捏ねた方がいいのですが、
    やはり捏ねすぎない方が甘みが残るのです。

    パン・ド・カンパーニュ
    パン・ド・カンパーニュ

    パンの位置付けとして、ご飯と比べられる場合もありますが、
    まるで違う物です。
    大きな違いは、「発酵」です。ご飯に発酵はありません。
    また、パンが発酵する際に「酸」が出ます。この2つが大きな違いになります。

    料理とワインがちょっと相性が悪い時でもその間にパンがあれば、
    パンもワインも両方発酵しており同じベースがある為、相性が良くなります。
    そういった「仲立ち」をしてくれます。
    パンとワインの相性が良いとされるのはそこです。

    一方、ご飯は「匂い消し」になります。
    色々な味のおかずがあっても、間にご飯を食べると、
    口の中に違和感がありません。
    前に食べた味が、ご飯を口にすると一旦そこで全部終わりになるんです。
    パンにはそういった機能はありませんので、
    その意味では軽い発酵のパンでは意味が無いと思っています。

    勿論、同等の話としてはできませんが、
    強いてパンに近い物を、というなら「寿司の酢飯」が近いです。
    シャリに塩も入りますし、酢が入るので酸があるからです。

    お寿司の酢飯で美味しい物と、ご飯で美味しい物は違います。
    ご飯に酸がある物として作ったものか、そうでない物かで違ってくるのです。

    良いお寿司屋さんのシャリは「ネタ」が美味しい、「シャリ」が美味しい、と
    別々に感じるようなものでは無く、「一体の物」として美味しく感じられます。
    おにぎりであっても上手く作ったものは、中の具だけが目立つ事はありません。
    サンドイッチも同じで、反対に良くないパンを使いますと
    中の具の味ばかりが目立ってしまいます。

    しっかりとしたパンは、
    料理とワイン全体のバランスを取ってくれる大切な存在です。
    ワインをも含めた料理全体を「一体の物」として
    美味しく感じさせてくれるのです。



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    名人のこだわり 「塩について 〜味の柱」


    FOND

    名人のこだわり
    「塩について 〜味の柱」

    最近、塩についての捉え方が変わってきました。

    以前は、料理に対して調整の為に味付けをする「従」の感覚で「塩」を考えていました。
    しかし今は、むしろ塩の為にその他の物で肉付けをしているような感覚、
    塩を「主」として捉える事こそが料理なのではないかと考えるようになったのです。

    「スイーツ」という括りがあります。
    そこでは菓子やケーキ、デザートなど様々な物があっても
    「甘い」という事、つまりは「砂糖」を中心として考えられています。
    素材の香りや風味、酸味などは、全て「甘さ」の為に存在しており、
    その点が自覚的に意識され作られています。

    塩は身近すぎて意識され難いのかもしれませんが、
    「しょっぱい」という事、「塩」に関しても
    同じ様に考えて良いのではないでしょうか。

    竹岡の真鯛 本ミル貝 庄内あさつき マイクロトマト 塩漬けのケッパー
    竹岡の真鯛 本ミル貝 庄内あさつき マイクロトマト 塩漬けのケッパー


    味というのは、
    基本的にこの「塩味」か「甘味」という柱が無いと成り立ちません。

    塩味だけの物、砂糖味だけの物の場合、
    「しょっぱい」「甘い」とは思うかもしれませんが、不思議と「不味い」とはなりません。
    しかし、その他の味だけでは「不味い」と感じるものになってしまいます。

    「五味」とは言いますが、「酸味」「辛味」だけでは味が成立しないのです。
    酸味や苦みが大きく目立った料理でも、
    実際にはその裏で塩味や甘味がしっかりと全体の味を支えているのです。

    「旨味」は例外的と言え、「塩味」「甘味」に頼らなくても味が成立する場合があります。
    スープを作る時、本当に上手くフォンのとれた時には、
    塩味が無くても旨味だけで味が成立します。
    ただほとんどの場合、塩を加えた方が美味しいという物ではあります。

    このように塩味か甘味かの「味の柱」があり、
    そこに他の味や風味という彩りをつけ、味は成り立っています。
    その点で、味の構成を考えるとき、
    「塩の為に料理を作る」という捉え方が正しいのでは、と思うようになってきたのです。



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    名人のこだわり「舌の上の塩味、塩味の基準」


    FOND

    名人のこだわり
    「舌の上の塩味、塩味の基準」

    料理に使われる塩の全体量を、味覚で感じ取れる人はいないでしょう。
    人は、舌の上に乗った部分だけで塩の濃度を感じるのです。

    スープの場合、液体は全体がほぼ均一の塩分濃度となりますので、
    舌に接する部分をちょうど良い塩分にしようとすれば
    全体量として多くの塩が必要となってしまいます。

    スープの素やルーを作わず、一から作ると分かりますが
    ラーメンの汁やカレーなどでも、思いの他沢山の塩が全体量として使われているのです。

    塩分の全体量が多くなりますと、
    食事の後から身体が重くなったりと、味覚で分からなくとも良くない事があります。
    FONDでは「舌の上に乗る塩分濃度」を意識して調整する事で、
    「十分な塩分」と感じて頂きつつ、全体量は極力減らせるようにはしています。

    姫竹と蕨 四万十川の川海老 岐阜の稚鮎
    姫竹と蕨 四万十川の川海老 岐阜の稚鮎


    また、塩味、甘味は
    普段の感覚として慣れている濃さも大事な所です。

    日本の方は親しんでいる漬物やお味噌汁といった、
    実際には塩分量が多い料理の塩味は許せても、
    塩分量が多くなくともチーズの塩味、となると途端に「しょっぱい」という事になってしまいます。

    反対にフランス人の好きな濃さのスープを日本人が飲むと、
    「しょっぱい」と感じるでしょう。
    これは甘味でも同様のようで、それぞれの基準と違ってくると
    合わないと感じてしまうようです。

    FONDでは基本的に人間の体液の塩分濃度、
    「生理食塩水」を意識して全体の塩味のバランスを整えています。
    それぞれ人により好みの違いがあっても、
    人間にとってそこが塩味の一つの基準だろうと考えているからです。



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    名人のこだわり「舌が求める塩」


    FOND

    名人のこだわり
    「舌が求める塩」

    先日リクエストがあり、塩を使わないスープを作りました。

    スープの旨味だけが、ぎゅっと凝縮されていると、
    舌にはきつく感じられます。
    そのスープに塩を加えた所、むしろ味が柔らかく、軽くなりました。

    面白い事にその塩を使わないスープを飲んでいますと、
    一緒に食べるパンとバターまで不味く感じます。

    これは、普段食べている料理であれば、パンとバターの塩がほどよく感じられるのですが、
    料理に塩が無いと舌がパンやバターに塩を求め、
    結果パンとバターの塩までも「足りない」と感じ、バランスがおかしくなってしまうのです。

    塩というのは、「ナトリウム」だけではありません。
    ジビエなどでも塩を加えていなくても、ガラで出汁をとったりすると、
    塩を入れていなくても、塩を入れているように感じます。
    「ミネラル」というのは大きいのかもしれません。

    塩にもいろいろとありますが
    フランスの海の塩で言いますと、
    北の方ではミネラルが多く、南は塩だけの味に近くなっていきます。
    塩だけの味の塩は調整が難しくなります。
    少しでも入れすぎると、しょっぱい、と感じてしまう為です。

    ミネラルが多い塩はしょっぱいという味以外のものも感じるので、
    味が柔らかく、多少の幅を持たせられます。
    ジビエなどですと一匹一匹の個体差がありますので、その幅を利用します。
    ただし、ミネラルが多すぎますと今度は味が付き過ぎてしまい、
    下手をすると素材の味以上に目立ってしまいます。

    FONDではスペインのハモン・イベリコを作る時に用いられている塩を使っています。
    大変に中庸だからです。



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    名人のこだわり「塩味の境界線」


    FOND

    名人のこだわり
    「塩味の境界線」

    先日、とても微妙な差が大きな差を生む、
    塩が分けた「面白い境界線」を感じる事がありました。

    海老を天ぷらにして赤ワインで頂きました。
    大変に甘みを感じられる海老で、
    塩をつけて食べますとふわっと丸い甘みが口の中に広がります。

    しかし、塩を付けずに食べてみますと、
    塩気としても海老自体の塩味で十分で、甘さも分かるのですが、
    なんだかくぐもったような甘さと味に感じてしまいます。

    もう一つ面白い事が、一緒に飲んでいたワインとの関係でした。
    塩を付けた時には海老に対してワインが「従」となっており、
    海老の旨みをワインがより美味しく感じさせるような、良い組み合わせでした。

    しかし、塩を付けない海老の後に同じワインを飲みますと、
    今度はワインが海老の上に来て「主」となってしまい、
    バランスを崩してしまう事になりました。
    この組み合わせで海老とワインを合わせていたら、
    「この組み合わせは合わない」と判断してしまう程の変わり様です。

    このように、微妙な塩の有無だけで「合う」「合わない」までを変えてしまう事もあります。
    ワインと食事の相性を、「肉は赤、魚は白」などと単純な言葉で片付けられるとは
    とても思えません。 しかし、そこが難しくも、面白くもあるのです。

    塩が人体にとって不可欠な物である以上、
    味覚としても重要な部分であり、料理にとっても不可欠な「味の柱」となるのでしょう。



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