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外交官 第25話 混迷を深める世界 (その1)世界にはどのような変化が起きているか

【小川 郷太郎】
全日本柔道連盟 特別顧問
東大柔道部OB
丸の内柔道倶楽部
外交官

第25話 混迷を深める世界  

(その1)世界にはどのような変化が起きているか
世界は常に変化する。73年も生きていると、10年、20年の単位で日本も世界も随分大きな変化を遂げているものだと実感する。

世界の変化については、第23話で述べた加速するグローバリゼーションや深化・拡大する世界の相互依存関係がある。これらの現象はどちらかというと世界を結びつける要素であるが、他方で近年世界を混迷させるような新しい要素が目立って増えてきた。どんな現象があるか。

例えば、問題が顕在化して久しい地球温暖化、感染症など地球的規模の問題がある。温暖化は世界各地で予想しない時期に予想しないような大雨や洪水をもたらす。間もなくオリンピックを迎えるブラジルを中心に広まっているジカ熱も不気味だ。

自然現象だけではない。人間に起因するテロやサイバー攻撃、大量の難民発生などの問題も深刻化してきた。テロはどこで起こるか予想できないところで突如発生して多数の犠牲者を出し、観光、交通、行政に多大な影響を与え社会生活をかく乱する。
日本人7人が犠牲になった7月1日にバングラデシュのダッカで起きた人質テロ事件では、信じられないような残虐非道なものであり、テロの脅威が我々日本人にも無縁でないことを改めて示した。

世界や社会がますます広くインターネットで繋がれ、工場や発電所や機械・車などあらゆるものがインターネットで繋がる「IoT」が現実になった。
しかし、そこにサイバー攻撃を掛けられると社会が大変な混乱に出遭う危険が身近にある。生活がとても便利になった一方で、新しい脅威が隣に同居しているかのような生活には不安が付きまとう。

個別の国に目を向けると、中国、インド、ブラジルをはじめとする新興国の勃興とその副作用ともいうべき現象があげられる。
これら新興国の勃興は経済が成長し発展している段階では世界全体に好ましい影響を与えるが、最近のように世界の成長を先頭に立って引っ張っていた中国の景気が減速すると世界全体に大きな負の影響が出る。

さらに第24話でも見たように、目覚ましい経済発展で力を得た中国のような国が軍事力を強化し南シナ海や東シナ海を自国の領域と宣言して近隣国に不安を与える政策をとるようになると、これも世界の波乱要因にもなる。
中国だけではない。ロシアもクリミア半島を併合するなど、国際法に反した行動をとり国際社会の懸念や反対を全く意に介しない。軍事力によって自国の意志を通そうとする中国やロシアの行動を「新帝国主義の時代」と懸念する声もあるが、深刻で大きな問題だ。

(出所:bing.com/images

先進国でもまさかの重大な事件が起きた。6月23日に行われたイギリスのEU 離脱の国民投票の結果は、今後10年余り世界に計り知れなく多大な混迷をもたらすに違いないが、現時点ではそれがどのように展開していくかが実に不透明なのである。

世界全体をマクロ的に見ると、「国家の変貌」ともいうべき現象が見られ、それがこれまでの国際秩序を大きく変えつつある。
先ほど挙げた中国やロシアが、国際法や国際社会の批判をものともしないで軍事力や政治力で自国の目的を実現していく「新帝国主義」的行動をとるようになった。
これまで世界の秩序維持に主要な役割を果たしてきた唯一の超大国アメリカが「もはや世界の警察官ではない」と自ら宣言して中東などから兵力を削減しようとすると、そこに生じる「力の空白」にすかさず他の国やISのような過激なテロ組織の勢力が入り込んでくる。シリアの状況はまさにその典型的事例だ。

まずいことに、こうした動きとほぼ並行して世界の多くの国の政権の統治能力が著しく弱体化している。多くの主要国で政権の支持率が低下し、生き延びようとする指導者や政党が世論迎合型の政治を展開し、本来推進すべき政策から離れていく現象も見られる。
「ポピュリズム」という傾向で、いったんポピュリズムに落ち込むとそれを反転させるのは一層難しくなる。ポピュリズムがはびこる背景には、多くの国で国民間の経済的格差が生じていることがある。それまで中間層と呼ばれる人々の中のかなりの割合の人の生活が苦しくなり、不満層が増えていくわけである。

アメリカの「トランプ現象」にもそうした背景がある。数年前は毎年のように首相が交代していた日本は、安倍首相になってようやく政権基盤が安定してきた。ポピュリズムに陥ることなく、本来あるべき政策について国民各層を説得しながら進めてもらいたいものだ。

国家に注目した変化とは別に、世界共通の、あるいは国を超えて進行している現象もある。その例として、脱化石燃料化の動きと「プラットホーム化」と言われる流れに触れてみたい。

読者の皆さまご存じのとおり、昨年12月、パリに国連気候変動枠組条約加盟国が参集しCOP21と呼ばれる会議を開いた結果、この条約に加盟する196ヵ国を拘束する地球温暖化に関する重要な条約(パリ協定)が採択された。
この条約は産業革命前からの世界の平均気温上昇を2度未満に抑え、さらに1.5度未満を目指すという画期的なものである。

これに基づいて各国が排出量の削減目標を提出する義務を負う。このため、これから世界的に脱化石燃料化が進むことになる。日本は原発を巡ってまだ世論がまとまらないが、脱原発を決めたドイツは、再生エネルギー重視政策を進め2050年には電力の80%が再生エネに転換することを目標にしている。
再生エネのコストは世界的普及により低下し、原子力より安い価格で取引が始まるだろう。そうなれば脱原発の加速も進む公算が高い。日本も世界の流れをよく見て対応していかなければならない。

もう一つの流れは、総合研究開発機構(NIRA)が2015年10月に発表した「プラットフォーム化の21世紀と新文明への兆し」と題する研究報告が指摘するものである。この報告は、今後起こりうる様々な現象とそれへの対応の必要性を指摘している。

プラットフォームとは何かという点について私の理解を申し上げると、大きな課題に対応するための社会的仕組みのようなものらしい。この報告書は、これから起こる変化の現象と留意すべき点について、「超国家化」(環境破壊、サイバーテロ、経済のグローバル化などに対応するための超国家的な統治機構が必要になる)、「超産業化」(ビジネスの電子化・機械化が加速、人工知能などで人間を「無業」にする)、「情報化」(「超国家化」、「超産業化」で、国民としてのアイデンティティと勤労の価値を消滅させる危険もある。

「情報化」により、ネットワーク化された仲間たちや「人間化した機械」と共同、共生する。そのために適応する必要がある)などと指摘している。 ちょっと抽象的で難しいが、そういう変化が起こるだろうことはなんとなく理解できる。

筆者近影

【小川 郷太郎】
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