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外交官 第29話:日本の安全保障をどう確保するか (その2) 不確実性

【小川 郷太郎】
全日本柔道連盟 特別顧問
東大柔道部OB
丸の内柔道倶楽部
外交官
2017年5月3日

第29話:日本の安全保障をどう確保するか  

(その2)不確実性が増大する世界と日本の選択
冷戦終結後の1990年代末以降世界は混とんとしてきたが、最近の10数年間で不確実性は一層高まってきた。世界各地での紛争は収まらないどころか拡大または持続する傾向にあり、テロの拡散、難民の増大などにも繋がり、対応は一層難しくなっている。
さらに悪いことに、最近の4〜5年、日本の安全保障が損なわれる危険性がより現実なものになり、また、将来の経済発展への障害も増大してきた。

安全保障の面では、中国の高飛車な姿勢や北朝鮮の異質で奇怪な行動などで脅威や緊張が増してきた。これに対してトランプ大統領の強気の政策が実施されると、日本近隣での軍事衝突も排除できない情勢になって来た。集団的自衛権行使容認に伴う日本の新たな政策のもとで、日本が軍事的衝突の一部に関与する事態も覚悟しなければならない状況になった。

経済面から見ると、英国のEU離脱やトランプ大統領によるTTP(環太平洋パートナーシップ協定)離脱、NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉政策などは、日本にも実質的に多大な不利益をもたらす。
英国やトランプ政権のこれらの政策は誤った政策と考えるが、それらが他国にも大きな影響を与える点で深刻である。とくに、地球温暖化対策として重要な「パリ協定」の合意をトランプ大統領が破棄したことは、世界にとって極めて不幸であり、実に愚かで嘆かわしい政策だ。

しかし、このような状況が現実のものとなり覆すことができないとしたら、日本は今後どのような政策を進めるべきかを考えてみたい。ただ、名案があるわけではない。名案があるなら、すでに多くの国が実施していたであろう。私にできることは、方向性を模索する材料を提示することぐらいであろう。


北朝鮮にどう対応すべきか
深刻で喫緊の問題は北朝鮮だ。北朝鮮が核やミサイル開発推進の姿勢を変えないことに対し、トランプ政権は軍事作戦などの強硬策を含めたあらゆる手段をちらつかせ、実際にも空母「カールビンソン」を朝鮮半島近海に派遣して「本気度」を示している。このような姿勢は、軍事力を重視する北朝鮮にとって脅威を与えるものであり、一定の効果がある。

しかし難しいのは、北朝鮮の軍事力が決して侮れないものであることに起因する。大量の大砲や戦車を38度線近くに配置して直ちに韓国を攻撃できる態勢をしいていることや、近年のミサイル開発によって日本や米国にも届く兵器を保有するに至っていることも留意しなければならない。米軍が圧倒的な軍事力で叩いたとしても、北朝鮮が反撃すれば韓国や日本にも甚大な被害が生じる。
北朝鮮は、世界中が自国を攻撃しようとしている戦争状態の中にあるとの認識なので、アメリカの「本気度」もさることながら、北朝鮮の「本気度」の方がもっと凄いのである。

オバマ政権の「戦略的忍耐」政策はもちろん、それ以前のクリントン政権時代からの北朝鮮との対話や融和的政策も結局成功しなかった。
だから、北に対しては強い姿勢を堅持することは重要だが、強硬姿勢一辺倒では軍事衝突に進みかねない。強い姿勢を堅持して表向き喧嘩をしながら、他の方法も模索するべきだ。すでにいろいろ試みが行われているかもしれない。水面下で、というよりもっと地中の奥深くに穴を掘るぐらいの秘密接触(「モグラ作戦」?)をやって、ギリギリの接点を探る努力が必要だ。

北朝鮮が核やミサイル開発を進めるのは、内心強く恐れているアメリカの軍事力によって自分たちの体制が潰されるのを防ぐための対抗策である。北朝鮮の体制を潰さないことが保証されたと信ずれば、北朝鮮は政策を変える可能性がある。
北朝鮮と日米中韓との間の接点を探る高度の「モグラ作戦」での秘密交渉では、金正恩指導部の生存保証と引換えに核ミサイル政策の放棄を含む体制の転換などが核心となろう。

北朝鮮との関係では、よく中国の役割が大きいと言われる。中国は北朝鮮の生殺与奪の権を握っているからだ。北朝鮮の貿易相手国は、輸出でも輸入でも中国が90%以上を占めている。中国が北朝鮮からの石炭の輸入を完全に止めたり、石油や重油などの戦略物資の提供を完全にやめれば、北朝鮮は体制維持が難しくなる。
しかし、実際には中国はその役割を果たせないでいる。それは、北朝鮮が中国の言うことを聞かなくなっていることと、もうひとつの重要な理由は、北朝鮮の体制が崩壊した場合に生じる大量の難民流入や混乱が中国の政権が最重要視する国内の安定を乱してしまい、中国自身の体制維持に困難が生じるからである。
だから、中国の役割行使に大きな期待はできないが、今まで以上に対北朝鮮石炭輸入や原油等提供の大幅な削減を求めることは重要である。

北朝鮮に対処するに当たっては、米だけでなく韓国との連携も不可欠だ。現状では日本と韓国の関係は良くないのでやりにくいが、むしろ対北朝鮮対策が喫緊の重要課題であることを活用して関係改善を図る努力をすべきである。

今後北朝鮮の情勢がどのように展開するかを予測するのは難しいが、当然さまざまな事態を想定して検討するべきである。北朝鮮の崩壊に伴う混乱は回避すべきであるが、非軍事的な解決が実現する場合に北朝鮮の経済社会の建て直しには国際社会による支援態勢が不可欠である。日本の担うべき役割についても考えておかなければならいない。


日米同盟関係堅持と米国への助言的役割
北朝鮮の軍事的脅威が現実のものになっている状況に、我が国だけの防衛力では対応できないのは明らかである。日本は日米同盟の当事者として行動するしか自国を守れないし、集団的自衛権行使容認もやむを得ないと考えるが、集団的自衛権行使にあたっては日本が攻撃を受けることも覚悟しなければならない。
今後トランプ大統領のもとで米中関係がどのように展開するかは予断を許さない。軍事的衝突が起これば日本は甚大な被害を受ける。そうした事態を極力避け、あるいは被害を最小限にするため、常に我が国の利害を踏まえ日本が持つ情報や分析を米国との間で共有し、必要と思えば軍事力行使をためらわない米国の行動に対する助言も含め、緊密な協議を維持することが不可欠だ。

日米同盟強化は中国との関係からも日本にとって必要である。中国は、資源確保の必要性や大きな戦略構想に基づいて、尖閣諸島や東シナ海・南シナ海での領有権を主張して軍事力を強化している。これらが自国の核心的利益であると一方的に宣言して譲る姿勢が見えない。
中国が軍事戦略としていわゆる「第二列島線」を超えて太平洋で米に対峙しようとしていることを念頭に、日本は常に米との間で政策を綿密に調整していくことが肝要である。

朝鮮半島の事態や中国の行動によって我が国の安全保障上の脅威が増大している現在、我が国は日米同盟に頼らざるを得ない。ただ、この場合でも日本が過度に軍事的に攻撃的側な面に協力するのではなく、適切な役割分担を模索すべきである。

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【小川 郷太郎】
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