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ソムリエの追言「価格は100倍 美味しさは何倍? 〜盗まれたワインの価値〜」



ソムリエの追言
「価格は100倍 美味しさは何倍? 〜盗まれたワインの価値〜」


フランス政府からアメリカ大統領に贈られた、超が付くほどの高級ワイン。
ところが、ある窃盗団によって安物ワインとすり替えられてしまいます。

晩餐会でワインはそのまま大統領のテーブルへ。
舌も肥えているであろうアメリカ大統領、 しかしそのワインを飲み干すと・・・
「ブラーボー!」
満面の笑みで何一つ疑いの様子すら見せません。

一方、その様子をテレビで見ていた窃盗団は腹を抱えて大笑い。
本物の超高級ワインで祝杯をあげます。

・・・と、今度はその窃盗団が、 口に含んだワインを不味くて飲めないと吐き出してしまいます。 そのワインは古すぎて、飲める状態ではなかったのです。

実はこれ、アニメ「ルパン三世」でのお話なのですが、
ワインとその「価値」に関して、寓話的とも言えるエピソードではないでしょうか。


値段の差はどこから?
数ある消費財の中で、ワインほど1本の価格に差がある商品も珍しいと言えます。 同じ産地で同じ形のボトルに入っていれば、アルコール度数も同じ12度前後。 それなのに、数百円のワインから数百万円のものまで、驚くほどの価格の差があります。

このような値段の違いには、主に3つの理由が考えられます。
1、ワイン自体の品質や生産コスト、保管コストの違い
2、希少性、ブランドによる違い
3、ワイン自体が投機の対象になっている

グリーンハーベストフランスでは1へクタールあたりの最大収穫量が決められており、 高いワインになるほど単位面積当たりの収穫量が少なくなります。
さらにグリーンハーベスト(間引き)を実施したり、 手摘みで良い房だけをを選別したり、 毎年新樽を購入してワインに強い樽の風味をつけたり、 樽やボトルを温度・湿度が安定した蔵で保管したり・・・。

要するに、美味しいワインにはそれ相応の手間とコストがかかっているという事です。
その分、販売価格に差が生じてしまうのは納得できるのですが・・・。

しかし!!
樽熟成 ワイン評論家、葉山考太郎氏の研究によれば、 原料のブドウ、瓶、コルク、樽、借地料、設備費、広告代など、それに利益率30%を乗せたとして計算すると、どんな超高級ワインでも現地での取引価格は3,000円以内で収まるのだそうです。

「生産コストの違いだけで、販売価格に数千倍の価格差は生まれない」と断言しています。

そこで出てくるのが、「希少性、ブランドによる違い」、
さらに「投機の対象」です。


「美味しさ」以外の価値
超高級ワインの代名詞ロマネ・コンティや、ガレージ・ワインの先駆者ル・パンは、 多い年でも6,000 本ぐらいの生産量しかなく、圧倒的に生産量が少ないというのが、 高価格の原因にもなっています。

さらに古いワインともなると、世界のどこかで消費される度にその希少価値は高まります。 オールドヴィンテージは、一概に熟成して美味しいから高いという訳ではないのです。 またワインは消費財としては珍しく、それ自体が投機の対象になる事があるため、 将来値上がりが予想される銘柄には、 本来の品質に対する値段とはかけ離れた値がついてしまうのです。

シャトー・ル・ピュイ漫画「神の雫」で紹介されたボルドーワイン「シャトー・ル・ピュイ」の2003年は、 もともと現地で15ユーロ(約1,700円)で販売されていましたが、 「神の雫」が出版されてからというもの世界中から注文が殺到。 値段はみるみる高騰し、香港ではなんと1,000ユーロ以上で取引されていたとか。

この状況に対してシャトーの当主ジャンピエール・アモローさんは、 「ワインは投機の対象ではない、誰の手にも届く値段で抑えておきたい」 と、2003年ヴィンテージの出荷を停止したほどです。
世の中、そういう誠実な生産者ばかりだとありがたいのですが・・・。


価格は100倍、美味しさは・・・
例えば、デイリーワインの場合、酒販店で売っている500円と1,000円のワインでは、品質に明らかな違いがあります。さらに、1,000円と2,000円のものを比べても、2倍美味しいと言えるかどうかは別として、その差は歴然です。 大体3,000円台くらいまでは、価格に合わせて、 品質の違いが分かりやすいように思います。
ところが、それ以上の価格帯になると、価格と比較して、品質の違いが分かりにくくなってきます。5,000円と10,000円のワインの違いといっても、その品質の差は僅かであり、場合によっては、逆転していることさえあります。価格が大きくなるのに反して、品質の差は小さくなっていく。この品質の差は、味の面ではあまりないように感じます。 香りの複雑さが違うぐらいです。

1,000円と10万円のワインを飲み比べた時に、そこに100倍の美味さ、喜びがあるかと言えば、そんなものはないと思います。少なくとも私には感じられません。


群雄割拠の1,000円台
「安くて美味しいワインを探す事」は、ワインの醍醐味の一つです。 とはいえ、いくら「安い」といっても限界はあります。 実は1,000円台のワインの100円の差は、5,000円超の1,000円単位の差にあたる、と言うほどシビアです。
シャトー・ラ・ジョンカード
個人的な経験からですが、赤ワインでは1,500円辺りが一つのポイントであると感じています。この価格を下回るとクオリティがグッと落ち、なかなか満足のいくワインには出会えません。

もちろん、美味しいから高い値段が付いているワインも多いので、 美味しいワインを求めて、高いワインを飲んでみたくなる気持ちもよく分かります。 ただ、10,000円を越えるようなワインは、 飲み始めの頃は選ばなくても良いように思います。
運転免許取り立てで、いきなりフェラーリに乗ってもその性能を100%使いこなせないように、初めから高価なワインを飲んだとしても、 その素晴らしさや奥深さを理解することは難しいと思うからです。

もちろん、美味しいワインは誰が飲んでも美味しいと感じられるものです。
しかし、そのワインから発せられるメッセージをたくさんキャッチするには、 色々飲んで経験を積む必要があると思います。

ここでまた、冒頭のルパンの話に戻ります。
インポーターの私としては盗まれた高級ワインよりも、 大統領の舌を満足させた安物ワインの方が興味をひかれます。 「実はすごくコストパフォーマンスの高い、良いワインなのでは!?」と。

ワインは、リーズナブルな価格帯で特性や奥深さを楽しみ、
時にはちょっと高めのワインでスペシャル感を楽しむ。

あくまで「気軽に美味しく」が一番の基本だと思うのです。




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