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外交官 第15話 アロハシャツで話そう:ハワイの心(その1)総領事の仕事

【小川 郷太郎】
全日本柔道連盟 特別顧問
東大柔道部OB
丸の内柔道倶楽部
外交官

第15話 アロハシャツで話そう:ハワイの心
(その1) 総領事の仕事

ハワイというと多くの人が楽園というイメージを思い浮かべます。私も住んでみて、やはりそうだと思っています。日本にいる友達は、「お前はいいな、極楽で遊んでばかりいて」と羨ましがられました。

極楽ではありますが、総領事として過ごした2年半は実はとても忙しかったのです。忙しくても楽園の中での忙しさですから、幸運であったことは認めます。なぜ忙しいかというと、ハワイという場所柄の特色に関係がありますので、その点について話してみます。

まず、総領事として大事な仕事は日本人旅行者などの邦人保護があります。事故などに出遭った日本人への支援はすべての大使館や総領事館の基本的な業務ですので、この点は省きます。
もっとも、2001年に起った「えひめ丸」の沈没事故は私の離任後でしたが、後任の総領事は事故後の対応に昼夜を問わず懸命の努力をしたことを付言します。

ともかく、ホノルル総領事特有の仕事のひとつは、日系人とのお付き合いです。ご存じの方も多いかと思いますが、明治時代に多くの日本人がハワイに移民しました。当時は国内に仕事がなく、海外に職を求めての移住でした。

移民1世の人たちは、主としてハワイのサトウキビ畑で厳しい労働に従事しましたが、その子孫たちが現在日系人4世、5世、6世としてハワイで活躍しています。

サトウキビ畑での過酷な労働で苦労した1世の人たちは子供たちに教育を受けさせようと努力した結果、今日では多くの日系人の子孫が政界、経済界など各界で活躍しています。

長年ハワイ州知事を務めたジョージ・アリヨシさん、米議会上院議員の重鎮として活躍したダニエル・イノウエさん(1昨年12月逝去)、米陸軍参謀総長に上り詰めたエリック・シンセキさんなどはその顕著な例です。

私がホノルルに勤務した1990年後半の時点で、ハワイ州議会議員の約4分の1が日系人でした。多くの日系人はその出身地ごとに県人会を作っています。

熊本、沖縄、広島、岡山など様々な県人会があって、ハワイ社会に貢献する活動をしたり、祭りのような行事をしていますが、沖縄県人会は特に活発でした。総じて、日本の良き伝統を守っており、今日の日本人以上に日本的です。

私は、多くの県人会からお招きをいただいて、行事に参加したり、スピーチをしたり、ときには海岸のゴミ集めのボランティア活動にも参加しました。

ホノルル総領事の仕事の二つ目の種類は、太平洋のど真ん中にあるという地政学的特色に由来します。地図で見ると、ハワイ諸島は広ーい太平洋の真ん中近くに浮かんでいます。

ということは、アメリカ本土とアジアを結ぶ位置にあって、人々が行き交う中継の地であります。

ホノルルに有名な「東西センター」があります。そこには、東方のアメリカ、カナダ、中南米から、あるいは、西方のアジアやオセアニアから人が集まって来て、様々なテーマについて議論したり、研究したり、交流をしています。

米太平洋軍司令部に所属するシンクタンクがあって、そこでも太平洋を中心とする地域の安全保障に関連する問題についてシンポジウムを開いたり共同研究や研修などを実施しています。

印象的だったのは、ロシア、インド、モンゴル、日本、中国、韓国、東南アジア、南太平洋、南北アメリカから軍人や研究者が来て何か月か一緒に研修をして、本国に帰ってからもお互いに連絡し合っていることです。

そうした活動を通じて安全保障の問題について相互理解が進むと同時にそれらの人々の間で信頼感が形成され、人脈が構築されます。
長期的にみるとそれは地域の安全保障にとってとても有益なことと言えます。ハワイ大学も含め、様々な研究機関やシンクタンクが幅広い「知的交流」を展開していて、総領事として私も様々なシンポジウムに参加して発言したり、議論を拝聴しました。

もうひとつ、ホノルルに米太平洋軍司令部があります。これは、米本土西海岸からインド洋までの広大な地域を管轄する米最大の軍司令部です。多くの情報を持ち、様々な活動を展開しています。

北朝鮮が日本列島を超えてミサイルを発射した時やアジアの重要な国で国内の騒擾がある時などは、司令部には緊張感が走ります。

司令部を訪れると、アジア太平洋の安全保障に責任を持っていることについての臨場感を覚えます。日米安保条約に基づく協力の一環として陸海空の自衛隊幹部や艦船・航空機がハワイを訪れます。

総領事として司令官はじめ米軍幹部や自衛隊幹部とよくお会いします。演習を見学させてもらうこともあります。米軍や自衛隊幹部とのお付き合いから、日米同盟の重要さを実感することができます。

日本の状況や立場を任国で広報することはどこにいても外交官の当然の仕事です。ホノルルでは「総領事レター」を作成しました。ハワイの人々の関心の深い日本の経済政策や経済情勢、日本の外交政策、あるいはアメリカの政策に対する日本の考え、またはそれらに対する私自身の見解などを折に触れて書いて、州内の政治家、経済人、ジャーナリスト、有識者など数十人に送っていました。

時にはアメリカに対する辛口のコメントも書いたりしましたが、ときどき反響がありました。前述の有名なハワイ州出身のダニエル・イノウエ連邦上院議員は、「いろいろ参考になるのでワシントンでの議員活動に使わせてもらっている」などと言ってくれました。

こうして「楽園」での仕事も忙しかったですが、お蔭様で充実したものになりました。


筆者近影

【小川 郷太郎】
現在





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