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外交官 第15話 アロハシャツで話そう:ハワイの心(その2) ハワイの自然とアロハの心

【小川 郷太郎】
全日本柔道連盟 特別顧問
東大柔道部OB
丸の内柔道倶楽部
外交官

第15話 アロハシャツで話そう:ハワイの心
(その2)ハワイの自然とアロハの心

ハワイは何と言っても素晴らしい自然環境に恵まれ、それによって育まれた優しくて温かい心を持った人々が住んでいます。
しばらくそこに住んでみると、環境が人間や生物を形成することが納得できます。

植物学者の先生から聞いたことですが、枝に多くの棘を持った木がハワイに植えられた後、何万年ぐらいたったか忘れましたが、その木は徐々に進化して棘がなくなったそうです。その木を襲う動物や害虫がハワイにはいないので棘が必要ではなくなったのだそうです。

一年中心地よい貿易風が吹いているので、ゴルフをやっても暑さをあまり感じさせません。私は走るのが好きでしたが、ホノルルにいるといつも「走りたい」という強い衝動にかられ、仕事が早く終わった日や週末などはすぐランニングシャツとパンツに着替えて走り出しました。

あまり大きくない街の中を走り抜けていくと目の前に海が見えます。海岸の建物沿いにしばらく走ると大きな海浜公園に出ます。心を躍らせる碧い海が眼にしみます。沖でサーフィンをする人、穏やかな内海で悠然とひとりで泳ぐ人などを見かけます。

ヤシなどの木々のある公園の陸地部分ではTシャツ・短パン姿の男女がウォーキングを楽しんでいます。夕方になると夕日を眺めながら岩に腰かけている人がいます。
私もたまらなくなって、ランニングシャツと靴を脱いで、そのままひと泳ぎします。泳いだ後ちょっと体を乾かし、パンツは濡れたままですが靴を履いて再び走って家に戻ります。

ある時は、ダイヤモンドヘッド下の広いカピオラ二公園でサッカーをしている子供たちを眺めながら走り抜けて、そのあとはアラモアナ運河沿いに走ります。運河に泳いでいるたくさんの魚たちを横目に見て走ります。アロハタワー近くの港に来ると、黄や青や赤の綺麗な魚が泳いでいて、思わず立ち止まって楽しむこともあります。実に快適です。
大きなバニヤンの木(ホノルル・カピオラニ公園 2002.9.17 )
【 大きなバニヤンの木(ホノルル・カピオラニ公園 2002.9.17 ) 】


ワイキキの浜辺には多くのホテルが並んでいますが、私は紺碧の海が目の前に広がるホテルのレスランが気に入ってよく使いました。そこは窓もないので風はいつも自由に入って心地よく抜けていきます。
風だけでなく小鳥がときどき入ってきてテーブルの下に落ちた小さな食べ物をつつきに来ます。スズメもいますが、真っ赤な冠をしたカージナルスという鳥も見かけます。
誰かが追い払うこともなく、鳥たちも逃げないでこちらを見たり、あるいは無視したりしています。あたかも、人間と小鳥たちが温かい空気に包まれて何の屈託もなく共存している状態です。

ゴルフをやっていて昼食用のホットドッグや「スパムむすび」をカートに置いておくと、マングースが来て持って行ってしまうことがあります。でもゴルファーたちは寛容で、「ああ、またやられたか。あいつはさぞかし満腹だろうな」などと言って諦めます。

シュノーケリングも楽しみましたが、ときどきウミガメに出遭いました。ウミガメの泳ぎ方は実に優雅です。両手というか前肢をゆっくりと前後に動かして泳ぎます。
ウミガメに出遭うと嬉しくなって暫く一緒に泳ぎます。ふたり(一人と一匹?)で海中散歩です。時たま甲羅に触らせてもらったりします。何か浦島太郎になったような気がして、龍宮城に連れて行ってもらいたいなあと思ったこともあります。

ハナウマベイという美しい湾には浅瀬にまで大小、色とりどりの魚たちが水中眼鏡の目の前で歓迎してくれ、また、楽しい踊りを見せてくれます。ちょっと陸地に近すぎますが、これが龍宮城かも知れません。

モロカイ島という小さな島の鄙びた海岸に行った時のことです。海岸に2頭のハワイアン・アザラシが寝そべっているのを発見しました。
そっと近寄って3メートルほどの距離になったとき、そのうちの1頭がちょっと首をもたげて私の顔を見ましたが、数秒ほどでまた頭をもう1頭の背中に乗せて眼を閉じました。ちょっと待って動かないのを確かめてから、さらに近寄りました。

近くなったせいか、さっきの1頭がまたこちらを見て今度は犬のような声で何回か吠え声を発しました。アザラシ語がわからないので私は日本語で、「ねえ君、別に何もしないから安心してくれよ」などと言いながらちょっと話をつづけました。相手はそれでも逃げません。首をかしげてこちらを見ています。
遠くからカメラを構えて見ていた妻が、私とアザラシ君の会話風景を写真に収めてくれました。

動物だけでなく、珍しい植物もあります。
海岸の砂浜に生えて小さな黄色い花を咲かす可憐な植物が絶滅の危機に瀕しているとのことで、The Nature Conservancy というアメリカの大きなNGOが丁寧で熱心な保護活動をしているのも見学しました。植物を慈(いつく)しむように自然を守ろうという強い気持ちが伝わってきました。

このように、ハワイでは自然や人間が一緒に仲良く暮らしているという感じがします。青い空と海、爽やかな風、さらにはよく現れる綺麗な虹なども、人間と動植物が共生する空間の風景や空気となっているとも言えそうです。そうした空気の中で暮らす人々の心は実にゆったりとして、誰をも温かく迎えるように開けています。

比喩的に言えば、暖かい風が家の中だけでなく、人々の心の窓に入って心と心を通わせながら通り抜けていくような感じもします。

それを象徴するようなものとして、「アロハシャツ」を挙げてもいいかと思います。ハワイでの仕事は通常は背広ネクタイは着用せず、いつもアロハです。
州知事や米軍の司令官に会う時もアロハシャツです。夕食会などでも、だいたいはアロハの上にジャケットを羽織ることで足ります。そういう形で話をすると気持ちの上でお互いに随分と心を開いて自由に語り合えます。日本のように格式をととのえて背広にネクタイでいるとどうもも心も四角張ってしまいます。

ハワイでは初めての人に対しても、友人同士でも、会った時も別れる時も、いつも「アローハ」と声を掛けます。顔はいつもにこやかです。この言葉には相手に対する思いやりや愛情を感じさせる雰囲気があります。親愛の情をこめて、来訪者や友人に花びらや木の実でつくったレイを首にかけてくれます。

ハワイには多くの民族が共存しています。南からやってきてこの島々に住み着いたハワイ系の人々、移民の末裔などの日系人、その他中華系、韓国系、フィリピン系など諸民族が仲良く住んでいます。お互いに相手を思いやる心があります。

ところで、オバマ大統領も幼少時をホノルルで過ごしました。現在のオバマ大統領の政策についてはいろいろ見方はありますが、オバマさんの言動を見ていると、ハワイで育まれた人々との融和の心が背景にあるように思えてなりません。

アロハの心など、この楽園で学んだことは少なくないし、とても有意義でした。


筆者近影

【小川 郷太郎】
現在





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