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外交官 第19話 ODA大国 (その2)

【小川 郷太郎】
全日本柔道連盟 特別顧問
東大柔道部OB
丸の内柔道倶楽部
外交官

第19話 ODA大国 (その2)

日本が「人間の安全保障」という考え方を主導
近年になって、日本は「人間の安全保障」という概念を導入して援助政策を実施するとともに国際社会における政策論議をリードした。
世界の途上国を見ると、人間の尊厳が冒されるような厳しい貧困状態がある。民族紛争や戦争などで大量の難民が発生する例も多い。一人ひとりを保護し人々の能力を強化することにより、恐怖と欠乏からの自由を確保し、一人ひとりが幸福と尊厳を持って生存する権利を追求できるようにしなければならない。
「人間の安全保障」が、援助の目的の一つとなって国際社会で認知されるようになっている。

【プノンペン孤児施設の子供たち】

援助は大いに役立っている、日本の国益にも貢献
よく、「援助はムダが多い」と言われる。私の実感はそれとは違い、「援助は非常に役に立っていて、相手国から大変感謝されている」というものである。それだけではない。国益にも大いに貢献している。
日本がODAで造った道路や橋や病院、上下水道、あるいは人材育成などの支援は、全体として人々の生活を確実に改善し、相手国の経済を発展させている。それらは、例えば、乳幼児や妊産婦の死亡率の減少、伝染病の低下、教育の改善、経済成長率の向上などの具体的数字で示されている。

なぜ、「援助はムダが多い」とのイメージができるのかと言えば、メディアの報道の仕方が大きく影響をしていることが多い。メディアは一般に事故や事件が起こると大きく報道するが、物事が正常に動いている場合には報道しない。
私を含め援助関係者が、援助の効果や現地の人々の喜びなどを具体的に説明して資料を提供しても、メディアの人はほとんど報道してくれない。援助案件の大多数は成功し効果をあげているが、少数の失敗例や問題点が出ると大きく報道されてしまう。だから物事の全体像が歪められてしまうことになる。とても歯がゆい思いがする。

【バグダッド市内にも装甲車が走る(2008年)】

日本が長い間世界中の途上国にODAを提供して開発支援を行ってきたことにより、日本への感謝の念や好感度が高まっていることは幾多の世論調査などで明らかになっている。また、昭和天皇がお亡くなりになったとき世界中から多数の元首や首相が大喪の礼に参列してくれたが、途上国からの参列がかなり多かった。日本の援助などに対する感謝の気持ちの表れである。
4年前に東日本大震災が起こると、貧しい途上国からもたくさんの支援金や物資をいただいた。「今度は自分たちが日本を助けたい」という気持ちが現れていた。
先ほど話した日本の援助による東南アジアの発展は、日本企業の進出を促進し、東南アジアとの貿易や投資を通じて日本経済の発展にも寄与してきている。援助は国益にも確実に貢献しているのである。

【イラク復興支援担当時代(バグダッドにて警護陣とのスナップ、2008年)】

ODA削減が意味するもの
日本政府は60年余りにわたるODAを通じて世界の途上国の発展を支援してきた。これによって、国際社会からODA大国として高い評価を得てきた。しかし、ODA予算は1997年(平成9年)にピークの1兆1687億円を記録したあと、財政難を理由に削減が続けられ、2015年(平成27年)には約半分の5422億円に落ち込んだ(一般会計当初予算ベス)。

政治家などは、予算削減を余儀なくされたのだから援助を戦略的に選択して配分すべきだと主張する。私は、「いや、援助予算を減らすこと自体が戦略の誤りです」と反論してきた。
日本が援助削減を続ける中で、他の主要先進国は貧困の継続、難民の増加、環境問題の深刻化など国際社会の様々な課題に対処するためODA予算を増額し、新興国の中国も援助予算を顕著に増やしたため、ODAによるかつての日本の影響力や評価の声は相対的に低下しているのが現実である。
その結果、重要な国際問題で日本を支持してきた国が支持の対象を中国に変更する例もある。

財政難だからODA予算を減らすというのはわからないではないが、ODAの何倍もの予算を使う公共事業費などの削減率はODA予算の減少率より小さい。同じくODAの数倍もの防衛費はこの間、削減どころか微増している。
ODA予算の絶対額はこれらの予算規模よりずっと小さいので、ODAを減らしても財政赤字削減へ寄与度は小さい。防衛費を1%削減すれば、ODAを10%ぐらい増やすこともできる。ODAの効果などを考えると、政治家も財政当局も戦略意識に欠けていると言わざるを得ない。

筆者近影

【小川 郷太郎】
現在





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