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「古武士(もののふ)番外編 講道館柔道への爆弾宣言 6/6」



「古武士(もののふ)番外編 講道館柔道への爆弾宣言 6/6」



祖国の識者よ、私は日本柔道界、否、現在の講道館から授与されている昇格方式を批判しようとするものではない。しかし、世界の実力者であるヘーシンクに六段を与えることが無理な料簡であるとは思われない。むしろ六段を与えないところに、一抹の割りきれないものを感じざるを得ないのだがー。  

翌年(つまり昨年)一月、オランダ柔道協会の昇段審査委員会が開かれた。ここに出席した私は、人事をつくした後の二者択一の決定をせまられたのである。ヘーシンクに六段を授与すべきか否か?  

最高技術顧問としての私の責任範囲は、技術面のみならず、協会へいろいろアドバイスする責任を負わされている。その私が協会へアドバイスすることは唯一つ、ヘーシンク六段昇段は、伝統を重んずる日本柔道界の六段とくらべても遜色はないであろう、ということであった。  

こうしてヘーシンク六段は誕生した。決して私が授けたものではなく、オランダ柔道協会が決定したものなのだ。(国際柔道連盟第一回の総会で、各国の協会の出す段は、その国の段として認めるという決定があったという。そして、講道館の段でなければ、世界に通用しないなんて馬鹿な話はない、と当時ヨーロッパのある責任者から直接きいたこともある)  

第三回世界柔道選手権大会を中心に、経験し、直接に見、そして聞いたことを、ここに腹蔵なく私は記した。果たして不必要な点にまで触れたきらいがあるのではないか、と私はおそれる。しかし、日本の柔道をこのままにしておいてはいけない、という私の心にある至上命令がこれを記させた。もはや柔道は伝統の名の上にあぐらをかいて、安眠をむさぼっている時ではないのである。講道館内におかれているときく国際柔道連盟には人がいないのであろうか。館長のお気に入るばかりが能ではあるまい。  

祖国が世界の柔道を指導し経営してゆくためには、もはや講道館長の側近政治家だけでは不可能であることが証明されたのは、一九六一年末の第三回世界柔道選手権大会前の総会においてであった。
会長は大嘉納の嗣子であるという意味で今期だけ重任を認められたが、事務総長のポストは、投票の結果、大きい差をつけられて欧州柔連事務総長のボネモリ氏に奪われてしまった。これが日本の柔道界の苦しい現状なのである。  

そして、現在、国際柔連の事実上の実権は、このボネモリ氏に握られている、といっても過言ではなさそうだ。世界の、早く、強い時代の勢いの前には、”伝統”などというものは、ほとんど無意味なのである。
(「文芸春秋」1963年3月号掲載)

【 道上 雄峰 】
幼年時代フランス・ボルドーで育つ。
当時日本のワインが余りにもコストパフォーマンスが悪く憤りを感じ、自身での輸入販売を開始。




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