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「古武士(もののふ)番外編 ボルドーの古武士 5/5」



「古武士(もののふ)番外編  ボルドーの古武士 5/5」


■まな弟子が変節、長い間疎遠に
■「心」忘れた柔道家に懸念
■己を鍛え他に尽くす。それが武士道精神

【ヘーシンクは東京五輪で優勝、祖国オランダで英雄扱いされた。映画出演やプロレス入り。武士道精神を理解していたはずの愛弟子の”変節”を心配した】

 1961年、世界選手権に初優勝し、ヘーシンクはオランダのヒーローになりました。大会後は市がオープンカーを手配し、凱旋(がいせん)パレード。しかし、この時は優越感に浸っているようには思えませんでした。

 市から無償援助で自宅を大きくする話まで持ち上がると、彼は驚き、戸惑い、私に相談してきました。「せっかくの話だから、改築してもらえばいいじゃないか」と言ったのですが、周りがあまりに親切なので怖くなったようです。本来はそういう男です。

 ところが、東京オリンピックに勝ち、引退すると変わっていった。映画出演にも反対でしたが、それはまだいい。しかし、次はプロレスに行くと。「これは完全な”商売”で、日本だったら柔道を教える資格がなくなるのだ」と止めたのですが・・・。それから長い間、彼と疎遠になりました。

 しばらくして彼は柔道の世界に戻り、今は国際オリンピック委員会(IOC)委員を務めています。最近は、時折、手紙が届いたり、大会の時など会うこともある。年齢を重ねて、あの時、私が言いたかったことをわかってくれたのだ、と願っておりますよ。


【ヘーシンクは、日本が反対したカラー柔道着導入の急先鋒にもなった。】

 カラー柔道着導入については、競技上、私はいいことだと思っています。どちらが投げられたか、審判がすぐ分かりますから。日本は従来の白のみを主張したようですが、変えていい伝統もあるわけですよ。

 実際、明治から大正時代にかけて、柔道着のパンツは、ひざの少し下くらいまでが主流。今のように長くなっても、悪いとは多くの人が思わない。外国の意見も聞き、よい提案なら受け入れればいいのです。

 逆に本質に関わる部分で、譲ってはならないものを譲ってしまった。柔道の醍醐味を損なう細かく分けた階級制、指導や注意で勝負がついてしまうようなルールの採用など。こうした肝心の試合方法について、日本は弱腰でした。


【柔道家にとって一番大切という「心」の部分も置き去りにされているのではと危惧する】

 とかく欧州には試合に勝つと、有頂天になってガッツポーズをしたりする者がいます。私はそういう人間を弟子と認めない。来日の折に全日本選手権などを見ても、これが柔道家の態度なのかと目を覆いたくなる者がいる。非常に残念なことです。昔は試合に勝っても、「次は君が活躍するだろう」と相手に敬意を示していました。

 海外で教えるにあたり、私は「心技体」という言葉を使ってきました。技術習得には努力が必要。努力すれば、体が自然とできて、合理性も分かる。合理性が分かると、人生に自信が生まれ、結果として立派な人間になるという意味です。

 私の弟子にフランス王者になりながら、国際大会に出ようとしない男がいます。昇段にも興味を示さない。八段の実力ですが、三段のまま。柔道は本来、オリンピックに出るとか、メダルをとるとか、そういう目的でやるものではないと私は思っています。己を鍛え、他に尽くす。それが武士道精神なのです。

(聞き手は 運動部 岩本一典)
日本経済新聞(夕刊)/2002年7月26日(金)掲載


【 道上 雄峰 】
幼年時代フランス・ボルドーで育つ。
当時日本のワインが余りにもコストパフォーマンスが悪く憤りを感じ、自身での輸入販売を開始。
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