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ソムリエの追言「進化するワイン」



ソムリエの追言
「進化するワイン」



ネットでワインを検索していると、
「最新の醸造技術を駆使した~」という言葉をよく見かけます。

ワイン造りに限らず、あらゆる「物造り」は技術開発や生産のオートメーション化、
科学的な分析・管理によって品質も生産効率も目覚しく発達していると思います。
昔のワインよりも今のワインの方が「美味しい」という事でしょうか?

ワイン業界において最近取り入れられた醸造技術を紹介すると、

クリオエキストラクション(Crio-extraction)・・・
ドイツのアイス・ヴァインと同じような果実を人工的に作るため、 収穫した葡萄を凍らせて濃縮した氷結果汁からワインを仕込む方法。 甘口の白ワイン造りに用いられます。

逆浸透膜(Osmose inverse)・・・
もとは海水から真水を得るために開発された技術ですがワイン造りにも応用されるようになりました。分子レベルの浸透膜で果汁に含まれる水分を除去してエキス分を凝縮させる方法。

常温減圧濃縮(Concentration sous vide a basse temperature)・・・
気圧を下げると常温でも水が沸騰し蒸発する現象を利用して16~20℃の低温で果もろみから水分を飛ばして濃縮させる方法。

設備投資ただしこれらの技術には設備投資も必要で、 広くどのシャトーでも行なわれているものではありません。 一般にフランス人すら知らない、一部の生産者しか知らない話です。 どちらかと言うと裏技に近いものかもしれません。

この他にもクローン選抜された葡萄品種や人工培養の酵母によって 細かい個性や特徴を表現することが人為的に出来るようになりました。
科学の力で、昔に比べてより造り手の目指す味わいが表現しやすくなりました。

また我々消費者には直接関係のない事かもしれませんが ワイン造りという実は大変な重労働が、 機械化によってそこで働く人々の 肉体的負担や危険性が軽減されていると思います。

だからと言って昔と比べて今のワインが美味しくなったかどうかは別の問題です。
良いワインは年数を経る事で「熟成」というまったく違った品質向上を辿ります。

10年前の携帯電話と最新のスマートフォンを見比べて 「こんなに進化した!」というように 単純に新旧ワインを飲み比べて評価出来るものではありません。

その上でニューワールドをはじめ元々ワインが作られていなかった地域や 作っていても高い評価を受けてこなかった国の品質向上は確かにあります。 この最新技術が目指すところはどこなのでしょう? キーワードは鮮度を保った果汁の「濃縮」と品質の「均一化」にあると私は思います。

もちろん国によって様々な規制もあり、ワインという自然の産物に対してどこまで人為的な介入が許されるのかという問題は議論の分かれるところです。また、これらの醸造法によって水分と一緒に果実味も失われてしまうと言う学者もいます。いずれにしても醸造技術によってたとえ薄い果汁からでも一見ボルドーのような濃いワインを作る事が可能になります。


【空飛ぶアドバイザー】
ミシェル・ロラン生産地の現状を見ると、 ワインの都ボルドーでさえほとんどのシャトーは田舎の農家です。 最新技術や科学的な分析と言っても中々理解して受け入れられません。

そこで50年程前からミッシェル・ロランをはじめとする 醸造コンサルタントと呼ばれる人達が活躍するようになりました。 北半球と南半球では季節が異なるため、彼らは自らの経験と最新の醸造技術を引っ提げて 世界中を飛び回る「フライング・ワインメーカー」としてワイナリーにアドバイスをしていくのです。

彼らの技術が国境を越え世界中で実践されることにより いままで並級のワインしか造れなかったワイナリーも より質の高いワインを造れるようになりました。 技術を通して、世界全体でワインの質の底上げが進んだのです。


【直感からデータ化へ】
ボルドーのトップシャトーでも当り年とオフヴィンテージ(あまり良くない年)の味の差は以前よりも小さくなったと言われます。それは仮に天候の悪い年でも、ある程度人為的に補える栽培技術や醸造技術が備わってきたからです。 ボルドーでは味の決定で最も重要とされるセパージュの比率も オーナーやブレンド責任者が熟練した経験と舌の勘だけを頼りに決定する時代から 科学的な分析を経て天候などのデータとともに最終的な判断をくだす時代へと変わっていきました。

5年に1回、「今世紀最大のヴィンテージが訪れる」というのは表現が過ぎますが、 オフヴィンテージと評される割合が2000年代に入って極端に少なくなったのも、 このような生産技術の向上や科学的な数字分析と無関係ではないでしょう。

こう言った技術の進展や国際的なアドバイザー達の活躍は 一方で「ワインから様々な個性を奪いさる行為」と批判される事もあります。 私個人としては、濃厚で樽由来のバニラ香にこだわるミッシェル・ロラン的なワインを美味しいと思うので、そういうワインが世界中に増えて、しかもそれが安く手に入るのであれば嬉しい限りなのですが。


【道上の独り言】
常温減圧濃縮を行なう設備は値段が高いので
自社でこの機械を持っている所は少なく リースしたとしても結構高いのです。
人工的な気もしますが。

それよりも最近、やたらと寝かさないで売る生産方法が流行り、 高級ワインでは90年代の物が70年代80年代の物に負けない 値段がついています。どうもぴんと来ません。




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