外交官 第24話 近隣国の実情と日本 (その3 韓国)

2016/04/13

【小川 郷太郎】
全日本柔道連盟 特別顧問
東大柔道部OB
丸の内柔道倶楽部
外交官

第24話 近隣国の実情と日本  

(その3:韓国)
昨年末、ここ2~3年続いていた日韓の難しい対立関係に漸く変化の兆しが出てきた。両国関係の喉に刺さったトゲともいうべき従軍慰安婦問題について、両国外相間で「最終的かつ不可逆的解決に合意」したからだ。

日韓間では、これまで幾度となく首脳間で未来志向の関係を築くことが合意されたものの、常に過去の問題が蒸し返され、「未来志向」は持続的には実現できていない。だから、今回の「最終的かつ不可逆的解決」が守られるかどうかにも大いに不安はある。

それでも、不正常な状態が続いていたなかで両国政府の意志として解決への合意が成立したことは短期的には重要な前進である。 日韓関係については以前にも書いた(第12話)ので繰り返さないが、ここでは日韓関係を持続的に良好に維持するために日本としてどうしたらよいかについて所見を述べたい。

第一に考えなければならないのは、日韓関係がうまくいかないことによって損をしている度合いは韓国より遥かに日本の方が大きいことだ。これまで繰り返し述べているように、国際社会の中での日本の評判は全体として非常に良いし、大多数の国の信頼を得ている。

しかし、韓国が世界的に展開してきた歴史問題についての日本非難や従軍慰安婦像設置などによって、アメリカをはじめとする多くの国の日本に対する評価が傷ついたことは否定しがたい現実だ。歴代首相の靖国神社参拝についても、世界の大多数の国が批判している。日本の言い分に理がないわけではないとしても、韓国などとの対立により、明確に日本に不利な状況が生じてきた。

だから、こうした問題を今後も引きずらないよう、日本としては何らかの方法で韓国と妥協や調整を図らなければならないのである。なお、誤解なきように申し上げるが、何でも韓国の言い分を呑めということではない。言うべきことを言うのはいいが、それは国際社会の衆人監視のもとでやるのではなく、2国間だけで冷静に議論することが需要だ。それが外交である。韓国も日本との対立が長引いたため、韓国にとっても必要な日本との協調が実施出来ず困ってきたことも事実だ。修復を図る時期に来ている。

韓国雪嶽山(ソラクサン)風景
【 韓国雪嶽山(ソラクサン)風景 】


次に考慮すべきことは、日韓関係の「過去の問題」においては、日本は加害者側であり、韓国は被害者側にあることだ。一般論として、加害者側は自己の行為を忘れがちで、被害者はいつまでも苦しい思いを忘れない。日本人は、「もう何度も謝ったではないか、しつこいぞ」と思う。それも事実であるが、他方で、日本国内の政治家や知識人がときどき歴代の首相や天皇陛下のお詫びの気持ちに反することを言うので、被害者側の気持ちは収まらなくなる。さらに、日本人全体として過去の歴史的事実への知識や認識が不十分であることも否定できない。

だから、加害者側である日本としては、執拗な韓国からの批判にも耐え忍びながら、「大人になって」妥協に務めるべきである。そうでないと、日韓関係はいつまでも改善しない。
日韓関係が悪化していた最近の3年ぐらいの間に日本人の方に嫌韓感情が強まって韓国への渡航者数が相当減少したが、反日感情を繰り返し表明する韓国人の日本への渡航者数は大幅に増えている。韓国の日本への関心は本来強いのである。今日強まっている日本側の嫌韓感情を改善するためにも、韓国側の対日感情をより親日的にするにも、やはり両国間の人の交流を増強すべきだ。

日本人は嫌韓感情をしばし棚上げして韓国に行き、韓国の面白いところを探求して、韓国の文物や韓国人に一層触れてみることが良い。韓国人と触れてみると、巷間騒がれている激しい「反日感情」は実際にはそれほど強くないことや、逆に韓国や韓国人の魅力を発見することになる。イメージと現実はしばしば異なるのである。まず行って見ることだ。知らないことを見たり聞いたり、向こうの人たちと話してみるといろんなことが分かり、発見もある。とても面白いし、経費的には日本国内旅行より安上がりの場合が多い。日本人も肩の力を抜いて自然体でもっと韓国に遊びに行けばいい。

日韓関係を改善することは、国全体の立場からも極めて重要だ。日中関係と同様に、日韓にも切っても切れない密接な経済の相互依存関係がある。だから、関係改善を図ることは両国にとって好ましい効果をもたらす。経済だけでなく、政治や安全保障との関係でもきわめて重要だ。

北朝鮮の核開発への対応や軍事力を強化しアジアへの影響力を高める中国への対応などにおいて、韓国と協力することは我が国の安全保障にとって死活的に重要な要素である。日韓対立でこのように大事な対応ができなくなることはぜひ回避しなければならないのである。

日韓の良好な関係はアメリカにとっても重要で、日韓関係が改善することによって日米同盟関係の行使が一層円滑になる。

日韓関係はぜひ改善すべきで、政府だけでなく国民のレベルでも、双方が努力しなければならない。

韓国木浦(モッポ)儒達山(ユーダルサン)から海を臨む?
【 韓国木浦(モッポ)儒達山(ユーダルサン)から海を臨む】




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【小川 郷太郎】
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