外交官 第24話 近隣国の実情と日本 (その4 北朝鮮)

2016/04/27

【小川 郷太郎】
全日本柔道連盟 特別顧問
東大柔道部OB
丸の内柔道倶楽部
外交官

第24話 近隣国の実情と日本  

(その4:北朝鮮)
北朝鮮は、とてつもなく“凄い”国だ。
私は、1980年代末の旧ソ連邦末期の時代にモスクワに勤務して、ソ連共産主義体制の信じがたい人間不信の性格と驚愕するほど非効率で非合理な経済社会の仕組みを体験した。北朝鮮はその旧ソ連の制度を一層強固にしたのであるから、国民の生活を(そして外国人をも一層)厳しく監視し統制して、支配体制を揺るぎないものにしている。

国の政策の最も重要なものは「先軍政治」に基づく軍事力増強なので、国民の生活は二の次である。本来貧しい国が核兵器開発やミサイル開発に力を入れているから、民生向上に回す予算は極め乏しい。
国民が経済的不満を高めないように海外からの情報を徹底して遮断し、さらに国民間で相互に見張らせているようだ。そんな体制は長く続かず遠からず体制は崩壊するだろうと、もう40年ぐらい前から西側諸国が分析していたが、体制は崩壊どころか一層強固に固められ、いまやアメリカまで脅かすくらいの兵器開発に努めている。

遺憾なことに、その兵器が国の体制を維持する大きな力となっている。これも何十年か前のことだが、アメリカが密かに先制攻撃をして北朝鮮の核・ミサイル開発を阻止しようと検討していることが伝えられたことがある。
真偽のほどはともかく、それが起こらなかった理由の一つとして考えられるのは、米等の攻撃があれば直ちに韓国との国境線付近に配置された膨大な数の北朝鮮の大砲や短距離ミサイルなどが反撃の火を噴き、ソウルの街や韓国側にある軍事基地などが「火の海」となる危険性があるから、米、韓どちらも手を出せないのだと言われていた。

もちろん、軍事力は旧式で米韓との間で雲泥の差があっても、相手に甚大な被害を与えうる「実力」を持っていたのである。この軍事力は今日一層強化され、また、それを背景に理不尽ながらとんでもない外交術を用いて体制維持に成功してきた。

最近は核実験やミサイル開発のため、これまで北朝鮮を支えてきた中国から冷たくされてますます孤立を深めているが、それでも敢然として国を維持している。国際社会が一致して北を非難しても動じない。それどころか、テレビで北朝鮮から流される映像には国民(の一部)が熱狂的に金正恩第一書記を支持・礼賛している姿が映る。
我々の常識からは信じられない光景で、どうせ「ヤラセ」だろうと思ってしまう。ただ、頭の片隅にちょっと置いておいたほうが良いと思う事がある。彼我の間の絶大な認識ギャップの事実である。我々から見ると、北朝鮮の言動はあまりにも理不尽で自己本位で非常識であると写る。でも、北朝鮮から見ると、(自らの行動の結果ではあるが)アメリカをはじめ世界中の国が自分たちの祖国に敵対し戦争を仕掛けていると真面目に感じているようだ。だから祖国存亡の危機には捨て身であらゆる手段で国を守らなければならない、それが北朝鮮の常識である可能性がある。

指導者には世界情勢を客観的に捉えている部分もあろうが、指導者自身にも世界中が敵だと思う心理があり、それを喧伝するので、国民が「先軍政治」を支持し、核実験やロケット発射成功のニュースに狂喜する。同じものとは考えないが、日本も戦時中は「鬼畜米英」と叫んで、国家の指導者と国民が気持ちを一致させて「敵」に立ち向かい、若者が国のために特攻隊に志願した歴史もある。思うに、戦争は魔の世界で、人々の心理が狂乱錯誤する。

こんな心理状態もあるからだろうか、北朝鮮はこれまで嘘も方便に使いながら世界を相手に身を処してきた。核開発問題であれ拉致問題であれ、合意してはこれを破る。拉致のような極めて非人道的な犯罪行為を駆け引きに使うのは許しがたい。その責任を理不尽に相手に帰す。

そのため、我が国をはじめとする「飴と鞭」政策も韓国による「太陽政策」や「北風政策」も成功しなかった。核開発を始めてみせて、日米等が反対すると、それを中断することに同意して他国からの援助を獲得する。まるで、親が手に負えないバカ息子に悪いことをやめさせて駄賃をやるような愚を繰り返しているかのようだ。バカ息子はそれで増長してしまい、結局いい子にはなれない。

北朝鮮に対してどう「世界の常識」に適合するように差し向けていけるかは、本当に難しい。国際的な交渉によって、戦争を回避しつつ現体制のソフトランディングを保証して、新体制の樹立・移行に持っていければいいのだが。それができなければ北朝鮮自身の崩壊を待ち、あるいはそれを促進する政策を考える。それも時間がかかるかもしれない。
唯一、自信を持って言えるのは、戦争で解決する方法は避けるべきことだ。日本をはじめ、多くの国にあまりにも多大な犠牲や被害を与えることになるからだ。



筆者近影

【小川 郷太郎】
現在





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