RSS

ソムリエの追言「人にシャトーに歴史あり、名前に意味ありあり」



ソムリエの追言
「人にシャトーに歴史あり、名前に意味ありあり」
※外国の方の読者も多くいらっしゃるので、漢字にふりがなをつけてお送りしております。

ある日のMICHIGAMI展示販売での出来事。
「おっ、シャルルマーニュだ!」
POPに書かれた文字をみたのでしょう。

え、知っているの、このレアなスパークリングワインを?

「あれ、これ、普通の白ワインでなかったけ?」
そう、その方は、仏ブルゴーニュの 
「コルトン・シャルルマーニュ」のつもりだったようです。

ワインの名前って、結構複雑(ふくざつ)。
シャトーがあったり、産地名だったり、畑があったり、歴史上の人物の名前だったり・・・ フランスワインの名前って難しい。
その仕組みを話すと、大変なことになりますから・・・

今回は、 シャトーの名前についてちょっとした、お話を。
フランス を代表するワイン産地ボルドーの象徴(しょうちょう) シャトーの名前って、実はいろいろあるんです。

【昔の名前で出ています・・・】

1855年の格付けで有名なメドックのシャトー。
日本人にとっては、なじみにくい名前も。
というより発音しづらいし、その前に原語では読めない・・・
そんな名前にも由来はあり、 個性的な由来もいくつかあります。

シャトーの前身が、中世の「要塞(ようさい)」」であることをそのまま残したものや 海軍の表敬(ひょうけい)の掛け声からきたものなど。 しかし、メドックの格付けシャトーのほとんどは、やはりというか、人や名家の名前です。 創設者(そうせつしゃ)の名前や、後に変わった所有者の名前を くっつけたりなど。もうパズル状態。

日本の今の大手銀行・保険会社・製薬会社の感じです。
シャトーを持てるというステータスを前面に押し出している感じでしょうか。

【単なる名前だけでは・・・】

ただし、いくつかのシャトーは、奥ゆかしくも? 産地に敬意を払っている事実が!
共通するのは、土地

ピンクの花に染まる山の色合いを表した モンローズ Montrose
モンローズ

小石を表す ボーカイユ Beaucaillouなど。

また 名前に「丘」が付いているシャトーの多いこと。

「丘」といっても、その表記は時に 小高い丘を意味する ラフィット Lafite
ラフィット

小石の多い丘(坂)を意味する コス Cos

その土地の丘の名前 ピュイ  Puy
ピュイ

などなど、 山にしろ、小石にしろ、丘にしろ。
こ、これは、水はけの良さをアピール、
ひいては、ブドウの出来が良いことをアピールしてるんではないだろうか。
結局は 自分のところのワインは良いぞ! 
と言っているのかも知れません。

名前で差をつけるなんてのは、熾烈(しれつ)な競争社会では当然です。

【後ろ盾は・・・】

名前に特徴があると言えば、ポムロール。
シャトーの名前はキリスト教にちなむ名前が多いんです。
聖堂のレグリーズや十字架のクロワなどが含まれています。
そうこれは、この地がかつて巡礼地だったことの影響が強く出ている 証です。
実際ラベルにも 十字が描かれているのを良く見かけます。

メドックのシャトーと違い、小さなシャトーが多いので、
実際にそのころから キリスト教と関係があったかは判りませんが。

【昔々、その昔・・・】

となりのサンテミリオンはさらに興味深い名前の由来に出くわします。
この地の2大シャトーは、双方偶然にも逸話から名前が 付いています。

アンリ4世の白い馬の伝説や ローマ帝政末期の詩人アウソニウスからとったものなど たいそうな、いやロマンチックな名前が目につきます。 そこまではいかないまでも、日本語にすると「威勢(いせい)のいいおばあちゃん」というシャトーもあります。
こんな名前やその由来のほうが、
私たちにとってはシャトーをより親しみやすくするのかもしれません。

何にしても、名前には意味や歴史があるものです。
それをすこしづつ何かの機会で知ることができると、
またフランスワインの楽しみが 増えると思います。

え、当店の主力ワインのシャトー・ラ・ジョンカードについてですか?
それは、また別の機会に!



▲ページ上部へ


前号へ | 次号へ

ソムリエの追言「ワインも疲れる?到着したワインはすぐに飲んでよいの?」


ソムリエの追言
「ワインも疲れる?到着したワインはすぐに飲んでよいの?」

【世紀の発明ならぬ特許?】

1800年代後半のフランスである奇妙な特許が次々に誕生したといいます。

その名も、「ワイン揺すり機」? バター攪拌機(かくはんき)のようなものや、 曲がりくねったレールの小型環状鉄道(こがたかんじょうてつどう)に、樽に車両をつけて走らせるといったものまで。 今聞くと何をばかげたと思いますが、当時作った人たちは、真剣だったでしょうね。

何をしたかったのかというと 樽の中のワインを、様々な方法で揺らして美味しく熟成させようというものです。 船で海を越えたワインが、まろやかで飲みやすくなっていて、
「きっと、海で揺られたせいだ」という話しから、この騒ぎになったようです。

単なる個人の発明にとどまらず、特許というところがスゴイです。
ワインの味わいの変化である、「熟成」については、 当時「振動」が影響していると考えられていました。 果たして、「振動」や「移動」がワインの味わいを美味しくするのか。
それは、判りません。

【炭酸ガス】

しかし、「振動」や「移動」がワインに影響を与えることは事実です。
とりわけ、ある特定のワイン!にはです。
たとえば、当店からのワインは配送でお届けします。
そのワインをすぐに飲んでいいのか?
なんですが、 気軽に考えれば何の問題もないと思います。

その中でも、すぐに飲まずに少し休ませた方がいいワインがあります。

特定のワインの一つ目は、 スパークリングやシャンパーニュ。
こちらは炭酸(たんさん)ガスの溶け込みが味わいに作用します。
気の抜けたサイダーやコーラが美味しくないように、
炭酸ガスが大量に抜け出てしまったスパークリングやシャンパーニュは 美味しくないものです。

到着後はまさに炭酸ガスが活発になっている状態。
その証拠に、到着当日であればたとえ冷えている状態でも コルク栓を空けるときに感じる、コルクへの圧力はいつも以上で、 気を抜いていると、コルクが飛び出したり、ワインが吹き零れたりします。 弾ける炭酸

特に、シャンパーニュの炭酸ガスの気圧は、スパークリングよりも高いです。 また、シャンパーニュはその造り方において、長い期間、地下の静かな蔵で ボトルで熟成をさせます。 その目的の一つは、発生した炭酸ガスを出来るだけワインの液体の中に 取り込ませるためなんです。

そうです、到着したシャンパーニュも1週間くらい置いておけば、 きっと、炭酸ガスが落ち着いてワインに溶けこんでいくはず。 そうすれば、あのグラスの底から湧き上がる泡沫が、途切れることなく続くのです。

でも、開ける前に刺激を加えたり、
「ポン!」という勢いの良い開け方をしてしまうと 意味ありませんが・・・

【赤ワインの澱】

もう一つは、熟成した赤ワインです。

ボトルの中に、大抵、澱【おり:色素などの成分が、結合して固まりになったもの】 が発生しています。 通常静かに保管している時には、底になる部分(ボトルを横にしてれば胴体部分) にその澱がたまります。
【ちなみに、高級レストランでこの手のワインの納品は 一旦、ボトルを立て、底に澱を沈めます。 それから静かに横にして、セラーに積んでいくのです。
こうすることによって、澱がある範囲を狭めることができます。】

しかし、輸送で上下逆さまになったり、振動することによって、 澱は、ワイン中を舞うこと確実です。 澱をワインの味の一部として捉えるならその日でも結構です。
ちょっとした苦味がありますが・・・。

デカンタージュただ、1週間なり落ちつかせるだけでも、澱がほとんど沈んで、 より澄んだ味わいを楽しめることも事実です。 その後、飲む数日から前日にかけて、ボトルを立てておけば、 更に熟成ワインの旨味を堪能できます。

「到着したワインはすぐに飲んでもいいの?」と訊かれることがありますが、 答えは「もちろん、OKです」 ただし、時間に余裕があるのなら、発泡性のワインと熟成したワインについては 少し休ませた方が、より美味しく楽しめます。

【その他のワインは?】

若い赤、白ワインやロゼワインなどの フレッシュな飲み口が特徴のタイプは、
あまり気にしなくてもいいように思います。

ワインの輸入と違い、国内での移動であれば、 長くても1週間程度。 2~3ヶ月常に船の中で揺られているのと 違い、配送に関してであれば、大きな問題ではないかと思います。 ワイン到着イメージ

若い赤ワインにしても、白・ロゼにしても、はっきりとした 澱などはなくても、ワインとしての様々な成分が液体中にあるわけです。

そう考えれば、到着後、一旦 ワインを落ち着かせておくのがベターではあります。 ただ、ワインに絶対の決まりごとはありません。 今日、到着したのを飲みたいなら飲めばいいんです!

大きな味の違いはないと思います。

到着後は、箱を開封してワインに異常がないかを確認!
速やかに、40度の高温にならないところ、日光など当らないところに保管する!
それが、一番大事だと思います!


【道上より】
ただし古いワインは1週間から10日寝かせた方が良いですね。
勿論飲む1週間前から立てて置いて欲しいものです。
これは澱の問題だけではないようです。

又、作り手によって船旅をした方が美味しいワイン(シャトー・ラ・ジョンカード)と
船旅をすると不味くなる(シャトー・タランス)ワインがあります。
基本的に昔のワインは強かったと言う事でしょう。


▲ページ上部へ


ソムリエの追言「今までのボックス入りワインが美味しくなかったのは何故?」


ソムリエの追言
「今までのボックス入りワインが美味しくなかったのは何故?」

【かつてのバッグ・イン・ボックス】

バッグインボックスイメージ グラスに注がれた色鮮やかな赤。 白地のパッケージには、 これでもかとアピールする大きさのグラスの写真が 映っています。

初めて触れたバッグ・イン・ボックスは ホテルでのパーティでした。 その色鮮やかな透明感とあいまって、 飲みやすさとバランスのとれた味わい。 ワイン通以外なら、満足はしなくても 納得する味わいです。

バッグ・イン・ボックスのワインが誕生してはや60年。 その誕生の目的は、気軽にワインを楽しめること。 気軽さとはやっぱり安く手に入ることが大事。

そのためには、低コストで大量に生産することが必要。生産者と消費者の目的が一致するわけです。 とにかく、アルコールがある前提で、ある程度の味わいであれば良い。 ヴィンテージや、細かい産地や、ブドウ品種、そんなもの名乗る必要がない。 多くのブドウをより安く仕入れて、混ぜ合わせて 味の均一化を行なって、市場に出すことが使命なのです。

それが、これまでの時代のニーズにも合っていたのです。
ブドウが原料の工業製品的な面。 大量生産の機械的処理が当然になってきます。

【美味しいワインはエネルギーの結晶】

樽 ワインは農産物であり、エネルギーの結晶なのです。

太陽エネルギーと土壌のエネルギー。 その2つをもとにブドウの葉で植物のエネルギーがつくられ、蓄えられていく。 やがて、そのエネルギーはブドウの実となって、形になる。

ワインの作り手は、そのブドウに人間のエネルギーを加えていく。 こうして時間とともに出来上がるのがワインです。コストを下げて、大量生産することはエネルギーを拡散することです。 トップ・ブランドのワインを造る生産者は、エネルギーを濃縮をさせて、より「美味しい」と評価されるワイン造りを目指します。

美味しいワインが多いのは当然といえば当然。 サン・テミリオン地区のクロ・サンヴァンサンは、その銘壌地でありながら 収穫量を4年かけて落としてエネルギーを濃縮させて、 自分の理想とするワインつくりを目指したほどです。

初期のバッグ・イン・ボックスを含む、大量消費用のワインは、 拡散させて薄まったエネルギーのワインで個性はなく、品質も基準を満たすだけのものにしか過ぎません。 目指しているものが全く違うのです。

【新しい時代へ】

ワイン生産大国であり、消費大国であるフランスも 徐々にではありますが、ワインの消費量が減ってきています。

実は、「量から質」の転換がきているとも、分析されています。 ワインなら何でもいいという時代から、出来るだけ美味しいものを 楽しみたいというわけです。 エネルギーの薄まった水のようなワインから、よりワインらしいワインを 飲み始めているのです。

バッグ・イン・ボックスは、1980年代からフランスに広がっていきました。 今では、バッグ・イン・ボックスを購入する人々の関心は、大容量販売による割安感よりも、 質の良いワインをグラス一杯、二杯味わいたいという関心に移ってきています。 その影響を反映させたのがヴィンテージ入りのワイン、 AOCの原産地統制呼称入りのワインがバッグ・イン・ボックスなのです。

ブリヤ・サヴァラン そう、バッグ・イン・ボックスの為に造られた 大量消費用ワインではなく 美味しく、長期熟成したもの、エネルギーの濃縮したワインがバッグ・イン・ボックスに生まれ変わる時代になったのです!

これからの日本でも、そういう時代に。

「ワインのない食事など、太陽の出ない日のようなものだ」
ブリヤ・サヴァラン【Brillat Savarin 1755~ 1826】

新しい、「美味しい」バッグ・イン・ボックス があれば、 200年前のブリヤ・サヴァランの気持ちがわかるかも?

ワインは樽で熟成し、ボトリングしてから違ったレベルで熟成させます。 バッグ・イン・ボックスに入ってからは、酸素が無いので、酸化もしづらいですが、 それ以上熟成もしません。

当店のシャトー・ラ・ジョンカードはAOC(原産地統制呼称)で。
Mis en Bouteille au Cahteau (シャトーでの瓶詰め、混ざりけなし)です。

▲ページ上部へ


ソムリエの追言「甘口ワインって、いつ飲むの?」



ソムリエの追言
「甘口ワインって、いつ飲むの?」

【ソムリエもビックリ?】

橋 無限に広がる料理とワインの世界。
ニューヨークで行なわれた14人の晩餐会。

生牡蠣に合わされたワインはドイツ産甘口のリースリング。 時に西暦1883年。 当時の人々は、後に「生牡蠣にシャブリ」という組み合わせが定番になるとは、誰も知らない。

ニューヨークだけではなく、 これはヴィクトリア朝のヨーロッパ諸国も認める公式な組み合わせ。 もちろん、シャブリもあわされていたようですが。

今、日本のレストランでこの組み合わせを行なったら ソムリエにビックリされるでしょうねぇ。というか、止められるかも?

その後、生牡蠣とワインの組み合わせも、甘口から、 徐々に辛口ワインへとどんどん変わっていったようで・・・。 しかし! 現代でも、バルサックという甘口ワインの産地では、 生牡蠣に貴腐ワインをあわせているとか。

みんな造り手は自分のワインに誇りを持っています。
そのワインがこの料理に合わないなんて考えませんから。
他の産地のワインを進んで飲むはずがないです。
まずは自分のワインから!

【貴腐ワインと○○○】

貴腐ワイン 1833年の晩餐会メニューには、更に ロブスターの網焼き、鶏のブイヨンとクリームソースに、 シャトー・ディケム。 と、豪華に続いています。

ところで、現代の貴腐ワインの組み合わせといえば 「フォアグラのソテー」でしょう。

もはや貴腐ワインとの定番の組み合わせになってます。 最近では 「北京ダック」と貴腐ワインの相性もいいと聞きます。 これまた高額な組み合わせでしたね。 どちらも脂があり、味付けに甘味を伴うソース・たれが使われているので 相性バッチリです。

日本の伝統料理「おせち」にあわせてもいいですね。
日本のワイン研究家によれば 貴腐ワインにはカズノコがあうとか。
貴腐ワインのグルコン酸が数の子の苦味を消すという性質がいいらしいです。

おせち料理 でも想像するには、甘さが合うというより、 甘さの中にある酸味がうまく料理とワインを取り持つのではないでしょうか。 特に貴腐ワインの甘味以外の旨味やミネラルも、料理を引き立てていると思います。

決して高額なもの同士だから合うということではないと思います。

【開拓者たち】

こうした伝統や、 甘口ワインと料理の組み合わせがあるということ、知っておいてもいいと思います。 もちろん貴腐ワインだけでなく、陰干ししたものや、 ブドウを凍らせてつくる甘口ワインにも当てはまるでしょう。

以前、このメルマガでも言及したことがありますが、 甘口ワインの消費量が減ってきているそうです。 通り一遍の組み合わせではなく、 昔のような、開拓精神あふれた甘口ワインとの組み合わせを探していくことが、 甘口ワインがより身近に感じられると共に、甘口ワインの未来をつないでいくように思います。

→当店で根強い人気を誇る高品質貴腐ワイン シャトー・ペイブラン1998年


▲ページ上部へ


ソムリエの追言「ヴィンテージについて 同じ畑で同じ造り方なのに・・・毎年味が違うのか?」


ソムリエの追言
「ヴィンテージについて 同じ畑で同じ造り方なのに・・・毎年味が違うのか?」

【1946年イナゴの襲来】

イナゴの襲来 「酔っぱらいよ。目をさまして、泣け。すべてぶどう酒を飲む者よ。泣きわめけ。 甘いぶどう酒があなたがたの口から断たれたからだ」

「かみつくイナゴが残した物は、イナゴが食い、イナゴが残した物は、バッタが食い、 バッタが残した物は、食い荒らすイナゴが食った。」
ヨエル書1-3章 「主の日」より。

ボルドーのヴィンテージ・チャートをさかのぼって見ていると、 まさにこんな聖書のような出来事が発見できました。 1946年 ボルドーの畑はイナゴの襲来を受けて大打撃を受けました。
天候不良の悪いヴィンテージは、たまに聞きますが、これはビックリです。

前年の1945年は、世界大戦終戦の年で、天の賜りものと称されるほどの 偉大な ヴィンテージでした。20世紀でも最高のヴィンテージの一つです。 ただし、戦争の影響があって、収穫量は少なかったようです。

こんな、極端な例はさておき、 ワインのヴィンテージというのは、
同じ畑で同じ造り方をしているのに、年ごとにそんなに味が違うのでしょうか?

【ワインは農産物そのもの】

ブドウブドウの収穫は、過去の実績もありますが、糖度、酸度、果実の重さを測定して決まります。

なので、毎年収穫日が違う。 ボルドーなどは、県知事が許可日を発令します。 つまりは、成熟の度合いが違うということ。 植物の1年は、同じ繰り返しでありながら 太陽の日照量によって、サイクルのスピードが替わるのですから。

生成される成分も成熟度合いによって異なり、出来るワインも異なってきます。 熟して、糖度が高くなれば、それだけアルコール度数の高いワインが。 一方、熟せば熟すほど、酸味が減っていきます。

若木と古木のつける実も、根の深さなどの影響で違うといわれています。
ブドウの樹も、人間と同じように歳を重ねていくわけです。

忘れがちですが、ワインはブドウそのものから出来る農産物なのです。 ですから、 「二度と同じワインはつくれない」と造り手はいいます。 一方で、 「あの年に似ているから、こう造ったが、もっと違うやり方 があったのではないか・・・」 教訓や経験上の対応、そして、新しい技術の導入。 常に、より良い方法はないかと、模索しているわけです。

こうしたことで、毎年違った味わいのワインが出来上がります。

【ヴィンテージなんかどうだっていい?】

ヒュー・ジョンソン ただし、「ヴィンテージなんかどうだっていい」と著名なワイン評論家の ヒュー・ジョンソンが2007年に問題発言(?)しています。 長年、ワインのガイドブックを執筆し、個々のワインの紹介、 ヴィンテージの紹介をしてきた人物です。

彼いわく、栽培技術の進歩により ある程度の天候不良や病虫害に対してブドウが 大きなダメージを受けたりすることはなくなっている。 という意味合いを、大げさに(?)に発言していると思われます。 そして、それを補う醸造技術もあるわけです。

そう考えると、例えば2006年、2007年、2008年の差は さほどないように思えます。

【熟成したときに判る】

確かに、近いビンテージを同時に比べて飲んでみてやっと判る味わいもあります。
しかし、一番の違いは、良い年と悪い年の差における「熟成」でしょうか。

良い年と悪い年の差は一言で表せば、味わいの濃淡(のうたん)。 味の系統は同じで、良い年は濃厚、悪い年は淡い。 良い年は成分が濃厚なため、酸化に対して強く、ゆっくりと熟成していく。 対して悪い年は、成分も淡いので、酸化に対して強くなく、 熟成のスピードがより速い。

はじめに差がないと思われた味わいも、時間の経過で熟成の差がつきます。
熟成した段階では、味わいの差は歴然です。

この点をうまく利用すれば、悪い年「オフ・ヴィンテージ」で、早く熟成した旨味のある ワインを楽しめるわけです。 先の3つのヴィンテージなら、2006年よりも2007年が早く熟成するでしょうか。

【均一化?画一化?】

結局、ワインが市場に出た時点では、 昔ほどヴィンテージの差がなくなってきているというのが現状です。

そればかりか、栽培技術・醸造(じょうぞう)技術の進歩もさることながら、 「売れる」ワインつくりを目指すことから、最近は 似ているワインが多くなってきているともいわれています。

でも、よく見れば、必ず味の違いはあるわけで、その違いは マニアックなワイン通にとって興味深いところでもあります。 そして、ワインにそれほど詳しくない人にとっては、 買ったワインがいつも味わいが安定しているほうが、安心できるのかもしれません。

ワインが農産物から、加工農産物に変わってきているのかも知れません。


▲ページ上部へ


これを読めばあなたもソムリエ?ワインメルマガ ソムリエの追言 メールマガジン

■コルクを抜くまでの保存方法や温度管理は?

ワインセラーは保存に適していない?
窮屈すぎるワインセラーの空間、その理由は・・・。

■ワインの上手な購入方法を教えて!

よくある質問の一つ、ワインはどんなお店で買うのが良いのか。
コストパフォーマンスの良い仕入れとは?
沢山種類を置いてあるお店のワインは高い?その理由とは・・・。

■ワインはご飯のようなもの?

フランス人は多くの日本人が毎回違ったワインを首をかしげながら飲む姿を見てびっくりしています。
日本人は毎回毎回違うお米を買うでしょうか?多くの方はお好みのお米があります。
同じようにワインも同じものを飲み続けることでワインに対する基準ができるようになります。

■ボルドーとブルゴーニュ

日本ではボルドーとブルゴーニュはフランスの2大生産地として、ワインの双璧のように言われていますが、実際のところは?ヨーロッパでのブルゴーニュの赤ワインの評価は?

■ワインは栓を開けてからどのくらいの時間美味しく飲める?

ワインや好みによりますが、一般に売られているワインなら30分位といったところでしょうか。しかし、カベルネソーヴィニョンの割合が高いものは2時間位経ったほうが美味しい場合が多く、何と開けてから翌日の方が美味しくなっているワインも??

■ボルドーの赤ワインは他と何が違うのでしょう?

ワインの歴史、生産量、どれをとってもボルドーは世界を圧倒しています。
フランスにとってそしてヨーロッパの歴史においてボルドーは大変重要な都市です。
フランス史上2度もボルドーに首都が置かれたことをご存知ですか?

ソムリエの追言「大丈夫かな?」 ボトルの個体差 その2 保管によるもの



ソムリエの追言
「大丈夫かな?」 ボトルの個体差 その2 保管によるもの

ラベルがワインで汚れている。 ボトルの先端部分やキャップシールがワインでべたつく。 そんなワインに出会ったことはないでしょうか。

これが、液漏(えきも)れ。俗に「ワインが噴()いている」なんて呼びます。
ワインを取り扱っているプロは、納品されたワインが、液漏れしていないか、コルクが 飛び出したり、へっこんでたりしてないか、必ずチェックします。
キャップシールが、手で廻せるかどうかで、液漏れしてないかもチェックします。

余談ですが、フランス産ワインは、キャップシールが廻るのですが、イタリア産ワインは 液漏れしてなくても、廻らないことが多いです。そういえば、コルクも全体的に固くて抜きづらいですね。

なぜ、液漏れなんてことが起こるのでしょう。

ボルケーノ (火山:VOLCANO)
コルクの寿命(じゅみょう)もありますが、主な原因は急激な温度変化によるものです。 夏の暑さで、人間が熱中症にかかるように、 暑いということはやっぱりワイン自体にも影響があります。

特に厄介なのは、コルクが持ち上がるポップアップと呼ばれるものです。 温度が上がるとボトルの中の空気やワインの体積が膨張してコルクが押し上げられてしまうんです。

ほんの2~3mmのコルクが持ち上がることによって、隙間ができワインがゆっくりと漏れていきます。 その動きを観察したことはないですけど、考えてみると、まさに、火山の噴火のようです。 コルクのポップアップが山頂の隆起、流れ出るワインが溶岩でしょうか。

火山

ダメージ
こうした状態が長く続くと、隙間から酸素が入り込み急激に酸化が進みます。 一方で、ボトルの中からは、酸化防止剤の二酸化硫黄が抜けていき、酸化に対する抵抗力がなくなります。

すると、余韻にバランスの悪い苦味が残ったり、突出した酸味が目立ちます。 こうしたダメージの味わいが残るリスクがあるので、噴いたワインは、基本的に避けられます。

特に白ワインや軽い赤ワインなどは、そのダメージをもろに受けることが多いようです。

ボディ・カード
ただ、噴いたワインだからといって、全てのワインが飲めないわけではありません。 あらためて実感したのが、前回もお話した、シャトー・ラ・ジョンカード 赤ラベル 1985年 でした。
39年経っていて、コルクの状態も悪く、液もれをしているワインでした。

コルク

でも・・・。美味しい。確かに2本を同時に比べて飲むと、それぞれの味わいは似てはいますが、違います。 それでも、1985年のグレート・ヴィンテージとして飲めるのです。 いや、グレート・ヴィンテージだからこそ飲めるのです。

さらに、言うのであれば、この状態だからこそ、今飲んで美味しい。
もし、完璧な状態なら、飲み頃を迎えるのはまだまだ先のこと。 良いヴィンテージとは、ブドウの出来が良いことを指しています。 それだけ、ブドウが成分的に優れていること。
グレート・ヴィンテージならば、ブドウは計り知れないパワーを持っているわけです。

そう、ボルドーなどのタンニンを多く含むカベルネ・ソーヴィニヨン種が使われているワインは、 もともと、酸化に強い性質をもっています。また、その能力は、時に100年を超える熟成に耐えることができるのです。 そういったワインは、ちょっとやそっとでは、大きな味の変化に至らないようです。 まさに、カベルネ・ソーヴィニョンなどの強めのタンニンや酸といった成分は、ワインを守るものなのです。

逆に、白ワインや、繊細なブルゴーニュなどは非常に影響をうけやすいです。 古酒と呼ばれる40~50年の熟成したものは、さすがに、ワインの体力、抵抗力も弱くなってきますので、 ワインも熟成のスピードがあがったり、時にはダメージを受けることにもなります。

真実の瞬間
しかし、ワインは、開けてみるまで、飲んでみるまで判らない。
そんなことを1985年のワインで改めて実感させられました。 また、もう一ついえることは、たとえ噴いたワインであっても、その後の保管状態が大事であるということ。

今回のワインは、ご存知、シャトーからの直輸入したものを、当店の倉庫の保管していたものです。
シャトー

人も風邪をひいても、安静にしていれば治るように、 ワインもよりよい状態にすれば、ダメージを回復する可能性があるということです。 そういう意味では、休まる間もなく、仲介業者(ちゅうかいぎょうしゃ)などをはじめとする多くの人達の手から手へ 移り渡るワインは、移動も多く、保管場所の状態も一定しないため、回復は難しいかもしれません。

そればかりか、このような移動の多いワイン(高級ワインにありがちです)は、もともと、生産者の手元にあるものと熟成の進み方が違うので味わいもきっと異なると思います。
また、今回の例は、39年経ったワインです。それでも、しっかりとした味わいを保っていたということは、 若いワインについては、余り気にしなくてもいいのかも知れません。

とかく、保存や、温度など事細かに話をすればするほど、気軽な飲み物ワインが、難しくなってきます。 確かに、20年、それ以上の古酒と呼ばれるワインや、何万もするようなワインには、より美味しく飲むための こだわりがあっていいと思います。

ただ、全てのワインに対して、そのこだわりを当てはめるのはどうかと思います。
スーパーで売っている¥1,000もしない赤ワインに飲み頃の温度 16~18度なんて書いてあります。 でも、この温度にするのって難しいですよね。ワインセラーがあるなら別ですが。
12月の東京なら、陽のあたらないベランダなどに2,3時間出しておけばちょうどいい温度になります。

そういった決まりごとを、実行すれば、より美味しくはなりますよ程度に考えてもらえばいいのではないでしょうか。 ですから、逆に「噴いたワイン」であっても、もう飲めないなんて 勝手な思い込みを することも、ワインの本当の力に目を向けていないのです。
ボトルを開けて、グラスに注いだ瞬間から、そのワインの真実の瞬間が始まると思います。

ワインを注ぐ


▲ページ上部へ


ソムリエの追言 解除ページ

※現在メルマガが配信されているアドレスを入れて、解除ボタンをクリックして下さい。
確認画面がございませんので、解除ボタンを押される前にお間違いがないがご確認の上、押して下さい。






ページトップへ