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外交官 第5話「フランスという国」

【小川 郷太郎】
東大柔道部OB
丸の内柔道倶楽部
外交官

第5話 フランスという国

 最初にお断りしておくが、私はちょっとフランスを偏愛しているのかもしれない。しかし、自分の心のうちでは、本当にフランスって面白いし、素晴らしいなと思っていて、その理由にもそれなりの自信を持っている。だからこそ偏愛なのかもしれないが、まあ聞いてください。

一応、フランスという国とフランス人という人間に分けて話しますが、両者は相互に関係し合うので混じり合った議論になるかもしれません。 

フランスという国のどこが面白いかというと、その地政学的位置と歴史からくるものがある。学問的に実証する力はないが、要するにヨーロッパ大陸のほぼ中央に位置し、何世紀にもわたって民族が大移動した舞台となったことが、この国のありようを形成していると思う。

ローマ人に占領されたり、ゲルマン民族が走り回ったり、また王制がかなり長期間にわたって栄えたかと思うと、市民が実に血なまぐさい革命を起こして王制を倒した歴史があり、自由・平等・博愛の精神が強く根を張っている。近世には2度にわたった隣国ドイツとの激烈な戦争を体験した。
こうした要素が、フランス人をとてもコスモポリタンで、自己主張が明確な個性のある国民にしていると思う。

つまり、歴史を通じて異なる民族が日常生活のなかで身近に住んでいるのでフランス人は異なる考え方に接して広い視野が育まれ、あるいは異なる民族と対峙したり戦ったりする歴史を通じて、言葉を用いて立場を明らかにして自分を守っていく姿勢がDNAに刻まれたような気がする。

そのせいか、フランス人は、日本人と違って「外人」と自分たちをあまり意識して区別しない傾向がある。
卑近な例を挙げると、フランス滞在中、外見上外国人であることが明白な私がよく道を尋ねられたが、日本では外国人に道を尋ねることはしないだろうと思って興味を覚えた。

自分の地位が危なくなると断固として戦うことにもなる。だから、フランスでは多様な議論が煩わしいくらい噴出する。それも面白いという風に見れば実に面白いのだ。

日本も変化に富む独自の歴史があるが、大きな違いは、日本は島国であったことも幸いして外国に侵略され、征服された経験がない。13世紀の蒙古来襲の時は危なかったが、「神風」で救われた。だから、総じて同じ考え方や習慣を持つ国民が仲良く生きてきた。日本人はフランス人に比べるとおとなしくて融和的だ。 

地理的に見ると、フランスの国土は平野の部分が大きく、広々とした畑やゆったりとした丘陵が地平線の彼方まで広がる。ヨーロッパの中央に位置するので、気候は北欧のように寒くもなく、国土は青い空、白い雲を仰ぎながら温暖な地中海に続く。雨も適量に降り、太陽も大部分の国土で気持ちよくそそぐので、空気は適度な湿潤さを含んで土地はとても肥沃である。

だから、全国的に麦や野菜などが豊富で、そこかしこに葡萄が生育し太陽の照射や湿度・温度の絶妙な組み合わせのお蔭で世界に冠たる名酒が生まれ、広い牧場で放牧される牛たちの乳からは多様なチーズが作られる。
地中海や大西洋、ブルターニュ、ノルマンディーの恵みで海産物も豊富だ。

こうして、美味しいものが出揃い、食うに困らない環境の中で旨い物への関心が高まり、フランス料理が育まれてきた。

料理は、パリの中の名の売れたレストランやミシュランの星付きの店だけがいいわけではない。田舎に行って小さなレストランに入れば、どこでもだいたい美味く、安いので大満足する。市場に行くと山のような魚介類、新鮮な野菜、チーズなどが所狭しと並んでいる。

カキが旬となる秋から冬場には、市場に行って1ダース、2ダースと買ってきて、自分の手でそれを開けて、レモンを垂らし冷やした白葡萄酒と一緒に存分にカキを食べるのも楽しみだ。 

私は2度にわたるフランス滞在中にヨーロッパ全土を車で走り回った。その経験で言うと、フランスの風景はヨーロッパ諸国の中でもとりわけ美しい。
なぜかというと、適度な太陽の照射と湿度のお蔭か、木々や草の色が心地よい湿潤さを湛えていて他国で見る緑の色よりもずっと瑞々しく美しく見える。(また偏愛癖が!)
空から畑を見ると、肥沃な土の黒々とした色と幾分水分を含んだ柔らかい絨毯のような麦畑や野菜の緑のコントラストは素晴らしい。広い田園の奥の方には細身の教会の尖塔が凛として頭を出し、そこに街があることを示唆している。家や建物の姿かたちも実に味わいがある。

屋根や壁の輪郭線はドイツのように定規で引いたような一直線ではなく、手描きのような温もりがある。煉瓦造りで整然としたイギリスの家と違い、壁の汚れやシミなどが古さを湛え、味わいを醸し出す。あちこちに電信柱や電線が醜悪な姿をさらし、高さも向きもまちまちの建物や家屋が雑居する日本の街と違い、パリの街の中の建物は高さや色・形をそろえ、融合した優美さを見せる。

二度の大戦を戦ったがあまり大きな破壊を被らなかったことが幸いして、歴史や古さを湛える町が多い。
パリはその典型で、美しい17〜8世紀の建物がときどきの修復を得ながら昔の儘の美しさを維持している。パリに最初に行ったのは1969年だが、今でも街全体の景観や雰囲気は少しも変わっていない。感動して、「パリは永遠にパリだ!」とひとりで快哉を叫んだことがある。

都会だけでなく村や田園も、色彩的にも、そして形の上でも、楚々として美しい。印象派の素晴らしい風景画は、そうした田園の風景の雰囲気を見事にとらえている。フランスの大きな魅力の一つは風景にある。 

私は退職したらパリに住みたいという夢をずっと抱いていた。今もその夢を捨てきれないが、お金もなくなって家を買うことができない。せめて時々フランスに行って、しばらく滞在し国内を回りながら美しい風景をスケッチしたいというのが、やや後退した今の夢だ。ヨボヨボになる前に早く実行しなければと考えている。  

次回は、フランス人について述べてみたい。


筆者近影

【小川 郷太郎】
現在





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