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改訂版 新・スラム街の少女 ―灼熱の思いは野に消えて― 第七話 「第3章 対決」

女剣士小夏-ポルポト財宝の略奪
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梗概

カンボジアから日本に留学中の少女サヤは、ポルポト軍クメールルージュの 残党に突然襲われた。サヤが持つペンダントには、ポルポトから略奪した 数百億の財宝のありかが記されているからだ。絶体絶命の危機を救ったのは、 偶然に居合わせた女剣士の小夏(こなつ)だった。

ポルポトの財宝を略奪するため、小夏はカンボジアに渡る。 幼い頃の記憶を失っている小夏にとって、記憶を取り戻していく旅となった。 ほんのちょっと前にカンボジアで起こった20世紀最大の蛮行。 ポルポトは全国民の1/3にあたる200万人以上を殺害し、 それまでの社会基盤を破壊した。教育はいらない。ポルポトはインテリから 粛清を始めた。

メガネをかけている、英語が喋れるだけで最初に粛清された。 破壊された教育基盤を立て直すため、サヤはカンボジアのかすかな希望の光だ。 カンボジアの子供たちが日本のように誰でも教育をうけられるようにするため、 日本に送られたサヤ。 小夏、サヤは立ちはだかる悪魔の集団を打ち破り、 ポルポトの財宝を奪えるのだろうか。 その鍵を握っていたのは、カンボジア擁護施設を立ち上げた関根であった。

愛は国境を越えてやってきた。
不思議な力を持つスラム街の少女プンとともに、
日本人駐在員は愛と友情をかけて、
マフィアと闘う。
女剣士・小夏 ―ポルポト財団の略奪―

第3章 対決

次の日、日本からの客3名を夕方、空港に迎えに行った。
親会社の幹部と取引先の2名の計3人は定刻にご到着でバンコクに一泊し、
翌日にはミャンマー連邦共和国に投資調査に行く。
一行は、トランジットのバンコクで一晩、羽目をはずそうと言うわけだ。
市内の宿泊先のホテルに案内し、チェックインをすますと5時を回っていた。
この時間だと観光名所の王宮(エメラルド寺院)もタイシルクで
有名なジムトンプソンの家も閉まっている。
まず、旅の疲れを癒す目的で古式マッサージ屋に行くことにした。
タニヤ通りの突き当たりのスリオン通りにあるカフェを曲がると別府温泉、
クイーンズボディなどのマッサージ屋が並んでいる袋小路がある。
タイ古式マッサージは、タイ族最初の王朝のスコータイ王朝
(13世紀~15世紀)のころからあり、インドヨーガのマッサージの影響を
強く受けたものだ。バンコク市内に巨大な涅槃仏が安置されている
ワット・ポー寺院がある。  
この寺院内に、古典医学校や古式マッサージ習得コースが置かれている。
マッサージ店には、この寺院で古式マーサージを習得した人がいて、
地方から出てきた10代の若い子に教える仕組みとなっている。
マッサージは1時間単位で通常のコースは2時間。
2時間で、4百バーツから5百バーツ。日本にくらべるとすこぶる安い。
足のつま先からゆっくり揉まれ、頭までくる頃にはあっという間に
極楽の2時間が過ぎ去る。  
終わると女の子にチップを払うのがルールだ。
このチップが ここで働く女の子の主な収入となる。
地方から出稼ぎに来て貧しい収入から家に仕送りする子が多い。
チップをはずむとうれしそうな笑みが返ってくる。
マッサージの強さを聞かれたら、弱めというと若い女子が来る。
強めというと、見ただけで体が強張るような強そうな方が来る。

マッサージを終え、夕食に向かった。
夕食は宿泊先のホテルのタイ料理店ベンジャランだ。
ベンジャランは高級タイ料理屋の代名詞ともいえる。
そこには庶民が食べるグワイッティヤオ(米麺のそば)、
ソムタム(青パパイヤのサラダ)などはおいていない。
洗練された外人向けの西洋風王室タイ料理だ。 
前菜に伊勢海老の刺身とシャコのガーリック炒め、
飲み物はシャルドネの白ワインを注文した。
冷えた白ワインがタイの辛しのせいで甘く感じられ、
タイ料理によく合う。
メインはグリーンカレーを注文し、本場のタイ料理を堪能してもらった。
外人向けに辛さを抑えているのだがそれでも辛い。
デザートはサモウ、マンゴ、西瓜のフルーツの盛り合わせと
ココナッツミルクの入ったアイスクリーム。
たいていの日本人にはタイ料理は合うようだ。
腹が満たされた後、予約しておいたマリコポーロに一行を案内した。
エレベーターを降りると、小ママが満面の笑みで迎える。
「こちらへどうぞ」案内してくれた女の子の控室は、
ざっと15名程の女の子が待機していた。
どの子もモデル級だ。俺は女の子たちに笑いながら、
「日本語ができる子、手を上げて」と質問する。
全員が手をあげた。
「それじゃ彼氏がいない子、手を上げて」これまた全員が手をあげる。
「処女の子、手を上げて」女の子たちは、
またまた勢い良く笑いながら全員が手を上げる。
「今日だけね」木村はニヤリと笑う。
女の子達も勢い良く笑った。
マリコポーロでは、こんな日本語は通じる。
それぞれ気にいったホステスを指名してカラオケルームに移った。
マリコポーロに限らず、タニヤのカラオケクラブの女の子たちは、
日本語の歌を上手に唄う。それも、日本で流行りの歌を唄う。
日本の流行とほとんど同じスピードでタニヤでは流行する。
「皆さんチークタイムです。踊って下さい」
ヤーちゃんとデュエットを始めると、待っていていましたとばかりに、
客たちはホステスを誘ってチークダンスを始めた。
2時間ほど遊んでチェック(勘定)した。
チェックはボーイを呼んで部屋でする。
4人で約9千6百バーツ、チップを含めて1万バーツを払って店を出た。
客を無事にホテルに送り届けた後、アテンドした疲れを癒すために、
セプテンバークラブに寄ることにした。
残念ながらニンちゃんに指名が入っていたので
カウンターで一人グラスを傾けた。
カウンターで流れている曲は「いつか王子様が」って曲だ。
マイルス・ディヴィスのトランペットの響きが、心の奥に忍び込む。
タバコの煙の先にプンの笑顔が浮かび、 事故で死んだ妹のみゆきの顔と重なる。
・・・・・・プンとそっくりな瞳で
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」って俺の手を引っ張り、
色々なことを聞いてきた。
プンはみゆきの生まれ変わりなのだろうか・・・・・・
グラスを上げてカウンターのボーイに水割りのおかわりをしようとした、
その時、携帯がなった。
彩夏からだった。
「プンのお母さん、戻ってきてないの。私、お店に行ってみようと思って」
「昨日、行くと言っていましたが・・・・・・じゃあ、30分後にお店の前で」

彩夏が到着するのを待って、大和に入った。
小ママのミィアオが近づいてきて、二人をボックス席に案内した。
「やるね、キムラサンさん。美人と一緒だね。こっちへどうぞ」
「マイはいる?」
「キムラサンさんはマイにお熱ですね。マイは今日は休みだよ、
あたしじゃだめか?」
ミィアオは、両手でバストを持ち上げてウィンクする。
「小ママじゃあ、ずっとだめ。本当はかなり日本語できるなおぬし。
からかいやがって。さんは、ひとつでいい。マイはどうした?」
「この次はドンペリだったね?」嬉しそうにミィアオは言った。
「何かボトル入れてもいいよ。マイはなぜ休みなのだ、風邪か?」
「ボトル何いれる?」
「何でもいいよ」
「ほんとか?レミーのルイ13世、50万円大丈夫か?」
俺は殴りたい衝動をぐっと押さえて、
「バレンタイン17年ある?」と作り笑い浮かべながら小ママに言った。
「バレンタイン17年なら20万円でいいよ」
「ほー、安いね、じゃあ5本ほど」
本気で殴ろうとしたのがわかったのか、ミィアオは慌てて、
「うっそよ、3千バーツでいいよ」
ノーブルな顔立ちをした小ママは、ボーイを呼びボトルと
水割りのセットと果物を持って来させた。
この小ママの日本語はまことに顔に似合わない。
ほっそりとした顔立ちで眼は涼しく切れ長、鼻筋がとおり
貴婦人を思わせるような美人である。
おまけに細い体からは想像も出来ないドレスのあいた胸元から、
はちきれそうな胸が見える。
黙っていれば相当な美人なのに。  
2人のやり取りを呆れて聞いていた彩夏が、  
「マイさんは、なぜ休んだのかしら?」
 「美人だね、うちで働かないか?」  
キッと彩夏が睨むと、
「冗談、冗談、マイは一週間くらい、休むかもね」
2人に、水割りを作りながらミィアオは、ポツリと言った。
木村はあせらず煙草を1本取り出し、火を点けてもらいながらに聞いた。
「1週間は長いね。旅行か?病気か?」
「わからないよ」わかっている顔をしている。
マネークリップから、5百バーツを抜いてミィアオの手に握らせる。
「あと5百バーツですべてがわかるよ」
「返せよ、5百バーツ」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ、わかったよ。マイは顔を殴られたよ。
顔の腫れが治ってから、来るよ」
「えー、どうして?」彩夏がびっくりして聞いた
「ちょっと言いたくないけど、キムラさんのあげた3千バーツのせいね。
マイきたらマイに聞くといいね」
「らっしゃいませー」ミィアオは、店に入って来た3人グループの方に逃げて行った。
小ママの替わりに別の女の子が来る。
「ナン ドゥイ ダーイマイ?(ここ座っていい?)」
「ダーイ カー(いいよ)」彩夏が答えた。
彩夏がマイのことを聞くと、女の子は名前をソム(オレンジ)と自己紹介し、
ビールを注文して飲みながら話し始めた。ソムはマイの友達で
同じアパートに住んでいるそうだ。
ソムは一昨日の晩にあったことを話してくれた。
俺は話を聞き終わると、彩夏が止めるまもなく、
カウンターにいるボーイに近づいて行った。

カウンター越しにいる女性のようにほっそりとした顔立ちの
整ったボーイに、怒鳴りつけた。
 「お前、マイを殴って3千バーツとったそうだな」
 彩夏が通訳すると、ボーイはびっくりする様子でもなく、
にやついて俺を見て、
「俺の女を殴ろうとお前の知ったこっちゃあない」
ミィアオは、焦って走って来た。
「キムラさん、店の中ではだめ。喧嘩なら外でして」
ボーイは、平然とカウンターから出てきた。
俺を促してドアに向かうボーイは、顔に似合わず意外とがっしりした体型で
腕には自信があるようだ。
ボーイの後から俺はドアを出た。
ドアの外には階段の踊り場とエレベータホールあわせて
5~6平米のスペースがある。
外に出ると、ボーイはいきなり殴りかかった。
スピードの乗ったいいストレートパンチだ。
俺は顔をそらせ、なんとか拳をかわした。
かわされてもボーイの体勢の中心が崩れていない。
ムエタイか、次は足だな・・・・・・瞬時に判断した。
俺は1メートルほど横に飛んだ。
案の上、太腿めがけて回し蹴りが飛んできた。
半歩引いて軽くかわし、飛び切りの笑顔でハンサムボーイにやさしく
「コトートッ クラップ(すいません)」と頭を下げた。
マネークリップから千バーツ紙幣を素早く取り出した。
ボーイの顔が嬉しそうにほころび、近づいて来る。
誰でも好きなものには弱いものだ、油断をする。ボーイが近づいたその時、
いきなりボーイの喉を掴んで思いきり体ごと壁にたたきつけた。 
喉に食い込んだ俺の握力は75キロ。
掴んだままもう一度、ボーイを壁にたたきつけた。
かなりの衝撃だがムエタイ経験者なら大丈夫だろう。
次にボーイの脚を払い、床にたたきつけ、倒れた顎に手加減して
けりを一発お見舞いした。
まともに戦っても、勝てた奴だろうが面倒くさかった。
今日はまだやることがある。



泰田ゆうじ プロフィール
元タイ王国駐在員
著作 スラム街の少女 等
東京都新宿区生まれ




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