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「古武士(もののふ) 第77話 土曜日夜7時のNHKテレビ・ニュース。」



「古武士(もののふ) 第77話 土曜日夜7時のNHKテレビ・ニュース。」

2015年8月7日


道上の存在が日本では抹殺されていた。

愚息の道上を日本で公にしたいとの思いは止まらず、今度は道上が親しくしている人に何とか日本のテレビに道上を登場させることは出来ないかと頼み込む。

その彼は出来るだけやってみると言ってNHKの友人にお願いしてくれた。
その友人がパリ支局に連絡を入れ、パリの支局長とプロデューサーがカメラマンを引き連れてボルドーまで来てくれた。
非常に紳士的な人達であった。 礼儀正しく知性教養に溢れていた。

丁度道上の第40回国際講習会が例年の様に一週間開催された。
世界中から高段指導者が集まる、しかも40回で最後となる国際講習会であった。
その講習会の水曜日に打ち合わせに来ていただいた。

「NHKの夜7時のニュースに流せるなら流したいと思っていますが、
ニュースと言う以上、レギュラーな事では駄目です。 画期的な事でなければ」。 
これは40年毎年続いた最後の講習会と言うことでまさに絶妙のタイミング。
「しかも政治的ニュースが入りますと取材しても、放映されない場合があります。」

早速道上に紹介したが、NHKの人達は道上に無視されてしまった。

大変な事になった。このままだと道上はインタビューにも答えてくれそうにない。
困ってしまった。こちらからお願いして来てもらった人達なのに。
まさにどうにもならないところであった。

愚息は考えた。
丁度木曜日の夜40回記念パーティーを弟子たちが道上の為に企画していた。
そこで愚息はNHKフランス支局長に
「今晩、道上を祝う会がありますが出席して頂けないでしょうか?」
「いや我々は会社から食事代が出ていますので頂くわけにはいきません。」
愚息「道上は一緒に食事しないのならインタビューは受けないと言っています。」
と嘘も方便。
これを聞いたNHK、「仕事の為なら仕方ない」。
二人は道上の方に赴き「先生おめでとうございます。御馳走になります。」
と言ってくれた。 上機嫌のところに、甘えられると弱い道上は、もうインタビューに答えないわけにはいかなくなった。

この講習会の受講生の殆どがパーテイーに出席。大変な盛り上がりを見せた。
弟子の下手な司会、下手な歌には喜んでいたが、
途中プロが演奏しだすと、道上はいやな顔をしていた。

翌日のインタビューも道上は嫌がらず受けた。
しかもカメラの前では見せない模範演技まで見せた。
きっと、どうしようもない愚息の為に仕方ない、という思いだったのだろう。

NHKのプロデューサーは弟子たちにもインタビューしてくれた。
期待していた有識者と言われている弟子達はろくな話をしなかった為カットだったが、 ベルギーから毎年通ってくる数学の女性教師は素晴らしかった。
彼女は今回試合中 膝を痛め電車で帰ったが、毎年講習会の為ベルギーから歩いて通っていた。 最後の数回は自転車だったが。1,000キロある道のりをまるで巡礼者の様に通った。

彼女は道上を表して「まっすぐな精神、誠実さ、類いまれなる品格の持ち主」と言っていた。 NHKは彼女のインタビューと、後に道上道場の後継者となったブルノ・ロベールを偶然にも取り上げてくれた。絶妙の選択である。

しかも愚息ではなく、ブルノ・ロベールさんの方がまるで本当の息子のようだと言っていた。人間を見る目があった。
約2分弱の長さだが金曜日の夜 衛星で日本へ送った。
その時、既に日本では土曜の朝だったが、当日の夜7時のニュースに間に合わせたのだ。 2,000万人とも言われる視聴者数であった。
中には正座して視聴された往年の柔道家もいたようだった。

インタビューのなかで 「武士道とは何か」 の問いに
道上は「武士にはイエスかノーしか無い。」
愚息は意味がよく分からなかった。
「メイビーは無い、交渉は無い」と言う意味だろうか?
そう言えば道上は愚息に向かって君は商人だ、と言った事がある。
決して褒め言葉ではない。

商人と言うのは 我欲の為に交渉事を得意とするということだろうか?
士と言うのは一国に使える身であって、崇高な目的の為に常にいかに生きるかを自覚している身なのだろうか? と愚息は思った。
ただ今の日本は「一億総商人」と言われている時代だ。
士はもういないのか?

「その武士道をどの様に皆に伝えましたか?」
「毎日の生活で、身をもって伝えました。 (5~10年は騙せるだろうが、20~30年は騙せない?)」
「生涯をかけて伝えました。(日本の文化を大和魂を)」

道上85歳の熱い夏だった。


【 道上 雄峰 】
幼年時代フランス・ボルドーで育つ。
当時日本のワインが余りにもコストパフォーマンスが悪く憤りを感じ、自身での輸入販売を開始。




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