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改訂版 新・スラム街の少女 ―灼熱の思いは野に消えて― 第十三話 「第6章 カーオの復讐 1」

女剣士小夏-ポルポト財宝の略奪
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梗概

カンボジアから日本に留学中の少女サヤは、ポルポト軍クメールルージュの 残党に突然襲われた。サヤが持つペンダントには、ポルポトから略奪した 数百億の財宝のありかが記されているからだ。絶体絶命の危機を救ったのは、 偶然に居合わせた女剣士の小夏(こなつ)だった。

ポルポトの財宝を略奪するため、小夏はカンボジアに渡る。 幼い頃の記憶を失っている小夏にとって、記憶を取り戻していく旅となった。 ほんのちょっと前にカンボジアで起こった20世紀最大の蛮行。 ポルポトは全国民の1/3にあたる200万人以上を殺害し、 それまでの社会基盤を破壊した。教育はいらない。ポルポトはインテリから 粛清を始めた。

メガネをかけている、英語が喋れるだけで最初に粛清された。 破壊された教育基盤を立て直すため、サヤはカンボジアのかすかな希望の光だ。 カンボジアの子供たちが日本のように誰でも教育をうけられるようにするため、 日本に送られたサヤ。 小夏、サヤは立ちはだかる悪魔の集団を打ち破り、 ポルポトの財宝を奪えるのだろうか。 その鍵を握っていたのは、カンボジア擁護施設を立ち上げた関根であった。

愛は国境を越えてやってきた。
不思議な力を持つスラム街の少女プンとともに、
日本人駐在員は愛と友情をかけて、
マフィアと闘う。
女剣士・小夏 ―ポルポト財団の略奪―

第6章 カーオの復讐

 3か月くらい経ったころ、事務所に彩夏からの手紙が届いた。
(電話かけてくれば、いいのに・・・・・・最近、電話もかけて来ない。俺がニンと付き合っていることがわかって嫉妬しているのだ。まったく、女の友達ってやっかいだな)
封を切って、内容にびっくり。
なんと、手紙は刑務所からだった。

木村さんへ  
びっくりしないでください。  
今、バンクワンの女性刑務所に入っています。  
裁判で、覚醒剤販売目的不法所持で終身刑を宣告されてしまいました。
日本大使館に連絡して抗議をしてもらいましたが、確たる証拠と証人がそろっていること、現行犯逮捕ということで抗議が却下されてしまいました。
もう、どうしようもないようです。
完全にはめられました。
5年前にビックベアの娘さんのノックが誘拐されたのを聞いていますね?
当時の状況を聞いてみると、身代金目的でないのは明らかで、組織的な犯罪だと思いました、それも臓器売買が目的。
わたしは、当時の詳細な状況を確認しようと警察に行って、当時の現場に行った担当官にお話を聞いて資料を見せてもらいました。
とても親切な刑事さんで、犯人の一人が収監されているので直接、刑務所に面会に行くように勧められました。
ひょっとしたら、詳しいことがきけるかもと思い、刑務所へ面会にいくことにしました。
警察を出て、タクシ-に乗ろうとしていた時です。
親切な刑事さんが追ってきて、
「刑務所に面会に行くときにこれをもっていってあげたら、喜ぶ」
と言って包みを渡されました。
中身は、犯人の家で押収した家族の写真が載っているアルバムと言われました。
今、考えてみれば、おかしいなとは思えるのですが、その時は、親切な刑事さんが急いできてくれたので預かってしまいました。
タクシーに乗って10分も経たないところで、警察官にタクシーを止められ、持ち物と身体検査をされたの。鞄の中身より先に預かった包みを開け、アルバムを開くと、中から覚せい剤のヤーバーとヤーアイス、そして、販売先のリストが出てきて、現行犯逮捕よ。密告されていたのだと思うわ。
おかしいでしょう。完全にはめられたわ。  
化粧なしのわたしの顔でもよかったら一度、面会に来てくださいね。  
古い映画だけど、大脱走の映画を見て来てね。  
                             田村 彩夏  

 (びっくりしないでって、無理でしょ。下手に首をつっこむからこんなことになったのかも。とにかく急いで会いに行ってこよう。大脱走って確か、スティーブ、マックイーンが主演の捕虜収容所から脱走する映画だ。脱走を手伝えってことかな。差し入れに鉄格子を切るやすりでもいれていくか)
 「アップン、これからバンクワン刑務所に行ってくる」
 「刑務所ですか?何年行ってくるのですか?」
 「10年ほど。あとは任したよ、しっかり頼んだよ・・・・・・
実は彩夏さんが覚醒剤販売目的不法所持で終身刑になったらしい。罠にはまったようだ」
「タイでは覚醒剤に関する罪は重いです。密輸じゃあなくて良かった。
密輸なら即、死刑です。タニヤ通りでもヤーバー200バーツ、エクスタシー500バーツ、コカイン300~500バーツなどが手に入りますよ。所長も気を付けてください。麻薬密告制度をとっていて、密告すると報奨金がでます。売った人が密告することも珍しくないですよ。今、バンクワン刑務所に電話をして面会方法を聞きます」
アップンが電話をして詳細を確認し、
 「面会日は今日と水曜日、受付は9時からと、13時からです。面会は到着した順番ですので早く行ったほうが良いですね。カオサンからボートに乗ります。プラモートさんと一緒に行ってください。パスポートのコピーが必要です。差し入れは刑務所の中の売店で買ってください。何かご質問は?」
 「はめられたようだ」
 「よくあることです。所長も他人からけっして荷物を預からないでくださいね」
(・・・・・・今回の彩夏の場合は、明らかに警察官がかかわっている。ノックが誘拐された背景には、相当大きな力が動いているのかも。下手に動くと俺もやばいかも・・・・・・)  

刑務所に10時に着き、1時間ほど面会まで待った。
俺は、刑務所内の大きなコンビニのような店舗に入り、彩夏に渡す御菓子や化粧水などを買った。店員に受付時の紙を見せ、誰に渡すかを確認された。現物は店員に引渡し、面会時に彩夏に引き渡される。お金も大丈夫だと言われたので3万バーツを預けた。  
ガラス越しに見る彩夏は、痩せていてやつれていた。
 「おっ、元気そうじゃない。ダイエットでもやっているの?」
 「相変わらずね。そばにいたら、殴りたくなるわね・・・・・・差し入れありがとう」
 「ところで、警察と警察官の名前を教えてくれる?お礼に行ってくるよ」
 「ルンピニ警察署のピット警部補だったわ。でも、関わらないほうがいいかも」
 「うん。ちょっとかわいがってくるよ」
 「もう行くの?」  
「ルンピニ警察に行ってくるよ。こういうことは急いだほうがいいのだよ。また、すぐに来るよ。何か欲しいものは?」
 「ちょっと言いにくいけど。日本の生理用品・・・・・・面会に来てくれる人がいなくて」
 「オッケー、下着も買ってくるよ」
 「ありがとう」  
 「そんなに見つめるなよ。惚れちゃうじゃあないか。じゃあな」  
後ろ髪をひかれる思いで振り向かずにそこを出た。  
ボートを降り、  
 「プラモート、ルンピニ警察までぶっ飛ばしてくれ」
ルンピニ警察の受付でピット警部補に会いたいと言ったら、受付から内線をどこかにかけた。
すぐに、警察官が6人ほど小走りで駆け寄ってきて俺たちを取り囲み、両腕を掴まれた。
厳重な警戒の中、俺とプラモートは別々の取調室に連れ込まれた。  
部屋の入口の警官が俺を睨みつけている。
10分ほど待たされ、温和な顔をした40代の男が部屋に入ってきた。  
男はパヌワット警部と流暢な日本語で名乗った。
「警部をしていますパヌワットです。日本人ですね。身分証明になるものをおもちですか?」  
パスポートを出しながら、  
 「パスポートを持っています。拘束された理由を教えて下さい」  
警部はパスポートを立っている警官に渡し、コピーをとるように命じ、
 「まず、私の質問に答えてください。ピット警部補とはどういう関係でしょうか」
 「実は俺の友達の彩夏が・・・・・・」  
パヌワット警部に同行してきた警官がメモを始めた。  
話を終えると、メモをしていた警官が立ち上がり、部屋を出て行った。  
(裏を取りに行ったのだろう)  
 「ありがとうございました。彩夏さんはピット警部補にはめられたのでしょう」
警部の素直な言い方に思わず、  
 「えっ」
 「しかし、真相は闇の中です。ピット警部補は死にました。殺害された可能性があります。詳しくは言えませんが、今、捜査中です」
 「それで、俺たちも取り調べを受けているわけね。いつ、どこで死んだわけ」
 「言えません。ですが、ご迷惑をかけていると思いますので、一つだけ教えましょう。怪しい点があります」
 「ちっ、それじゃあ何もわからない」
 「じゃあ、もうひとつ、これは勘ですが、捜査を続けることができなくなるかも知れません」
 「それじゃあ、彩夏の無実も晴らせない」
 先ほど出て行った警官が戻ってきて、警部に耳打ちをした。
 「あなた達の身元もわかりました。事件とは関係ないようですので、お帰りになっても結構です。拘束してすいませんでした」  
「結構ですって、彩夏のことはどうしてくれるの」
 「僕は、政府留学生として日本で高校、大学を卒業しました。日本人が好きですし、日本に恩義があります。時間がかかりますが、個人的にお手伝いをしましょう」
そう言って名刺をくれた。
 (頼りになりそうもないな。優しい顔した警部じゃあなぁ。もうちょっといかつい顔して、いかにも悪そうだと何とかしてくれるのだろうけど・・・・・・)  



泰田ゆうじ プロフィール
元タイ王国駐在員
著作 スラム街の少女 等
東京都新宿区生まれ




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