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改訂版 新・スラム街の少女 ―灼熱の思いは野に消えて― エピローグ

女剣士小夏-ポルポト財宝の略奪
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梗概

カンボジアから日本に留学中の少女サヤは、ポルポト軍クメールルージュの 残党に突然襲われた。サヤが持つペンダントには、ポルポトから略奪した 数百億の財宝のありかが記されているからだ。絶体絶命の危機を救ったのは、 偶然に居合わせた女剣士の小夏(こなつ)だった。

ポルポトの財宝を略奪するため、小夏はカンボジアに渡る。 幼い頃の記憶を失っている小夏にとって、記憶を取り戻していく旅となった。 ほんのちょっと前にカンボジアで起こった20世紀最大の蛮行。 ポルポトは全国民の1/3にあたる200万人以上を殺害し、 それまでの社会基盤を破壊した。教育はいらない。ポルポトはインテリから 粛清を始めた。

メガネをかけている、英語が喋れるだけで最初に粛清された。 破壊された教育基盤を立て直すため、サヤはカンボジアのかすかな希望の光だ。 カンボジアの子供たちが日本のように誰でも教育をうけられるようにするため、 日本に送られたサヤ。 小夏、サヤは立ちはだかる悪魔の集団を打ち破り、 ポルポトの財宝を奪えるのだろうか。 その鍵を握っていたのは、カンボジア擁護施設を立ち上げた関根であった。

愛は国境を越えてやってきた。
不思議な力を持つスラム街の少女プンとともに、
日本人駐在員は愛と友情をかけて、
マフィアと闘う。
女剣士・小夏 ―ポルポト財団の略奪―

エピローグ

翌月曜日、事務所に朝から顔を出すと
「所長、どうしたのですか、頭がおかしくなったのですか?こんな早く出勤するなんて初めてですよね」アップンは笑って俺の顔を見つめた。
早いと言っても、もう9時30分を回っている。
「慣れないことはしない方がいいですよ、不吉なことが起きますよ」
アップンが冷やかした直後に、事務所の電話が鳴った。
アップンは電話をとり、
「東京本店の人事課長の大熊さんです」
「木村です・・・・・・はい、承知いたしました。それでは、後任の氏名、今の配属と着任日と便名を教えて下さい。・・・・・・私の帰任はいつからになりますか?二週間後ですね。承知いたしました」

電話を切ってからしばらくの間、アップンと目を合わすことなく沈黙した。
「そういうことだ」元気そうに両手を上げ、伸びをしながら言った。
アップンは急に席を立ってハンカチで目を押さえてトイレに走った。
「急げ、もらすなよ」
いつものようにアップンの背中にデリカシーのない言葉を投げた。

帰国日の前日まで、タイの友人には自分の本帰国を知らせなかった。
ニンにもプーにもプンにも誰にも。
あれから3年も経ったのか・・・・・・。
帰国日の前日の夜、ニンとプーとプンを日本食に誘った。
4人一緒の食事は初めてである。
「明日のお昼になったら開けてね」
封筒を3人に渡した。

帰国便はバンコク発、早朝の8時55分である。
朝6時過ぎに後任者の小林とプラモートが迎えに来た。
渋滞も無く、車はどんどんと容赦なく空港に近づいて行く。
昨日、3人に渡した封筒の中には、タイ滞在中に貯まったお金を入れ、添えた手紙には、
「日本に行ってくるね。しばらく会えないけどまた来るよ。
それまでみんな元気でいてね。
やさしさを思い出させてくれてありがとう」
と書いた。

とうとう車は空港のデパーチャーに着いた。
数年前には想像もしなかった人達との出会い。
タイでいろいろな人達との出会いがあり、そしてそこで学んだものは日本では失いつつある大切なことのように思えた。
お袋が言っていたような俺は人の役に立つ男になったのだろうか・・・・・・皆の顔が浮かんできた。

車を降り、見上げたタイの空は灼熱の太陽が輝き、どこまでも深く青かった
・・・・・・さようならバンコク。
また新しい誰かと会うために、出発ロビーに向かって歩きだした。

その時、懐かしい歌声が風に乗って聞こえてきた。
大合唱だ。

ぎん ぎん ぎら ぎら 
夕日が沈む
ぎん ぎん ぎら ぎら 
日が沈む
まっかっかっか 
空の雲
みんなのお顔もまっかっかっか
ぎん ぎん ぎら ぎら 
日が沈む

ニンとプーとプン、アップンとビッグベアと彩夏とマイ、そしてスラム街の仲間がたくさん。  
みんなの涙の笑顔がそこにあった。
                
                     終わり


ご愛読ありがとうございました。
「スラム街の少女」を書き直すにあたり、新井晴彦先生(脚本家、映画監督)の本作品の脚本を文章、ストーリに随所引用させていただきました。
この場を持ちまして御礼申し上げます。



泰田ゆうじ プロフィール
元タイ王国駐在員
著作 スラム街の少女 等
東京都新宿区生まれ




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