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改訂版 新・スラム街の少女 ―灼熱の思いは野に消えて― 第九話 「第4章 タニヤの才女ニン」

女剣士小夏-ポルポト財宝の略奪
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梗概

カンボジアから日本に留学中の少女サヤは、ポルポト軍クメールルージュの 残党に突然襲われた。サヤが持つペンダントには、ポルポトから略奪した 数百億の財宝のありかが記されているからだ。絶体絶命の危機を救ったのは、 偶然に居合わせた女剣士の小夏(こなつ)だった。

ポルポトの財宝を略奪するため、小夏はカンボジアに渡る。 幼い頃の記憶を失っている小夏にとって、記憶を取り戻していく旅となった。 ほんのちょっと前にカンボジアで起こった20世紀最大の蛮行。 ポルポトは全国民の1/3にあたる200万人以上を殺害し、 それまでの社会基盤を破壊した。教育はいらない。ポルポトはインテリから 粛清を始めた。

メガネをかけている、英語が喋れるだけで最初に粛清された。 破壊された教育基盤を立て直すため、サヤはカンボジアのかすかな希望の光だ。 カンボジアの子供たちが日本のように誰でも教育をうけられるようにするため、 日本に送られたサヤ。 小夏、サヤは立ちはだかる悪魔の集団を打ち破り、 ポルポトの財宝を奪えるのだろうか。 その鍵を握っていたのは、カンボジア擁護施設を立ち上げた関根であった。

愛は国境を越えてやってきた。
不思議な力を持つスラム街の少女プンとともに、
日本人駐在員は愛と友情をかけて、
マフィアと闘う。
女剣士・小夏 ―ポルポト財団の略奪―

第4章 タニヤの才女ニン

唄いながら、ニンとの約束が、俺の弱い脳に電撃的に走った。
「ぎんぎん ぎらぎらって歌っている場合じゃあねぇぞ・・・・・・」
俺は、ニンちゃんと夕飯の約束をしていた。
約束の時間は7時でもう30分は、過ぎている。
「オーマイゴッド」って、でも俺には信じる神様はいないかも。
(どうしよう?とりあえず、待ち合わせのデパートまで行ってみるか )
というわけで、モータサイで待ち合わせの場所まですっ飛んで行った。
モータサイとは、オートバイの後ろに人を乗せて走るオートバイタクシー。
渋滞を縫って走って行くモータサイは、バンコクの万年渋滞では遺憾なく力を発揮する 。
値段は距離にもよるが近いところは20バーツで乗せる。
待ち合わせ場所のデパートの正面入口までモータサイで10分。
40分の大遅刻だ。
あきらめていた俺の目に、デパートの正面入口の脇でにこにこ笑って
木村を見ているニンの姿が映った。
白のワンピースに襟元にオレンジ色のスカーフをしている。
肩よりちょっと長めの髪は緩やかにウェーブがかかっている。
おっかなびっくりニコッと、
「サワディー クラップ」(こんばんは)
「サワディー カー」(こんばんは)にっこりと返事。
「待たせたね、ご、ご飯行こうか?」
「そうね、お時間ないから屋台でグワイッティヤオ
(米で作ったラーメン、一杯二十~三十バーツ)でいいよ」
ぐさぐさっと胸に突き刺さる言葉だ。
「そ、そんな・・・・・・せっかくだからもっとおいしいもの食べに行こうよ。
日本のお鮨なんかはどう?」
「マイ ペン ラーイ。(気にしないで)屋台でグワイッティヤオ食べて、
お店に行こう。その前にデパートで買い物があるから
ちょっとだけ一緒に付き合ってね」
デパートの一階に高級化粧品が並ぶ化粧品コーナーがある。
ニンはデパートの中を勝手を知った感じで高級ブランドの化粧品売り場まで
迷わずに行き、普段に使っているのであろう、
高級化粧水、口紅、マスカラを注文した。

全部で4千バーツを超えている。
「出そうか?」 言わなきゃ良かったと思ったが遅かった。
「コックン カー」(ありがとう)
電光石火のような返事だった。

ニンの勤めているお店までは、渋滞も緩和されていて、
タクシーで20分だった。
タニヤ通りに入ると
「ちょっと時間あるからお鮨食べてもいいよ」
ご機嫌の直ったニンが言った。
化粧品の出費があったので屋台にしたかったのだが、
ここで屋台にしようと言う勇気は、残念ながら無い。   
タニヤ通りの中央にある鮨屋に入った。
カウンターの板前さんはタイ人だが日本語が通じた。
「いらっしゃいませ」威勢のいい声で迎えてくれた。
カウンターに座ったところ和服を着たタイの女性が飲み物の注文を
聞きにきたので、冷酒を注文した。
「木村さんは、一人暮らし?」
「うん」
「タイに来たばかりよね、タイ人の恋人はいないの?」
「タイの恋人はいないし、日本人の恋人もいないよ」
「私も一人、彼氏はいないわ。タイの男性は嫌い、
無責任で働かない人が多いから」
「ほんとにいないのかな?」
「ほんと。今晩お店終わったらアパートに来ていいよ」
いきなりの言葉にうろたえた、
口に運びかけていた鮨を鼻の穴に突っ込んだ。
ニンの手がいつの間にか太腿の上にさり気なくあった。
(あまりに、上手く行き過ぎている。
何か恐ろしいことにならないといいのだが・・・・・・アーメン)

彼女の勤めているセプテンバークラブに同伴で9時過ぎに入り、
カウンターに座った。着替えと化粧をして来るまで別の女の子が来て
水割りを作ってくれた。
「ニンさんって売れっ子だからなかか同伴できないのですよ。
ラッキーですね」水割りを作りながら、女の子が言った。

十分もしないうちに紺のロングチャイナドレスに着替えて来た。
隣に座ると腰の近くまで入ったスリットから形の良いすらっとした足が見える。
ニンは斜めに顔をかしげて目を見ながら甘えるように言った。
「私も同じの飲んでいい?」
「ニンちゃんと出会えたバンコクに乾杯」
俺は日本の四季、故郷仙台の話をした。
「山々に雪が降り、真っ白の世界になるのだ・・・・・・」
酔って喋る故郷仙台の話しに目を輝かせて聞いてくれた。
一緒にいた2時間があっと言う間に過ぎた。バンコクのクラブでは、
ホステスが入れ替わらない。11時を過ぎるとニンが店を出ようと耳打ちしてきた。
閉店前でも11時を過ぎると、早帰りが出来るとニンが言う。
ホステスのお持ち帰りができないマリコポーロやセプテンバーのような
高級カラオケクラブでも、客が5百バーツを勘定に上乗せすれば
ホステスは早帰りが出来るそうだ。ニンに促されて
11時でチェックをすると同伴料・早帰り料を入れて3千バーツだった。
ボトルが入れてあるのでそれほど高くはない。
着替えを済ませたニンとタニヤ通りの駐車場まで行った。
車は駐車場の地下2階に止めてある。ホンダの黒のシビック、
タイでは当時80万バーツ以上はしただろう。
「へー、これニンちゃんの車、新車じゃない」
助手席に座るとニンはエンジンをかけた。
何故か緊張した顔のニンであった。
「アパートどこ?」
「サトーンの近く」
「へー近いね。ところで運転は長いの?」
「1週間くらいかな」
今度は俺が緊張した顔になった。

かなり上手なハンドルさばきで車はスタートした。
1週間は洒落だろうと安心した。
助手席で前任者の佐々木の言ったことを思い出した。
(木村、おまえ硬派だったから、あまり女性の扱いを知らないだろう。
タニヤには海千山千の女性がたくさんいる。気をつけろ。
仮にお前がもてたら、もてるのはお前じゃなくてお金だと思えよ。
1億パーセントもお前がもてる確率はないってもんだ。
知っているだろうが、罠にはまるなよ。 俺はお前が知ってのとおり、
もて過ぎの軟派だから教えてやるよ。女の身体が目的で日本でも2股、
3股はあたり前だった。タニヤの女も俺と同じだ。
タニヤの女は、いかにもその男が好きなようにみせて金がお目当てだ。
その男があまり困らないよう何人かに分散して金を狙う。 よく覚えておけよ。
2股を見分けるチェックポイントは、 まず外でのデートはあまりしたがらない。
週に1回がせいぜいだ。「忙しいでしょうからなるべく身体休めて」
なんてやさしいこと言うけど。これは他に付き合っている男性と逢わせない、
見られないためだ。それと他にも付き合っている奴がいるから逢う時間もないのだ。
昔からどこの国も一緒だ、本当に好きなら三日も明けず逢いたくなる。
次ぎに約束のキャンセルが時々ある。
これは他に付き合っている奴が無理を言うことがあり、無理を聞かないと
金蔓を手放すことになるからだ。まあ他にもあるけど自分で考えろ)

シッシッ、ああいやな野郎だ。俺は頭から佐々木の顔を追い払った。
あたりの景色を見ると車はニンのアパートのあるサトーン方面には向かっていない。
この辺は、深夜の危険地帯と言われているカオサン地域のあたりだ。
「お、おいニンちゃん、どこに向かっているの?」
「・・・・・・」ニンは答えずアクセルを踏み込んだ。



泰田ゆうじ プロフィール
元タイ王国駐在員
著作 スラム街の少女 等
東京都新宿区生まれ




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