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2012年2月 頒布会レポート 2/3 「スィニアテュール・デュ・クロ・サンヴァンサン2009年」


新・ソムリエの追言
「新入港ワインテイスティング
スィニアテュール・デュ・クロ・サンヴァンサン2009」



前回のメルマガで紹介した新入荷ワインを、一週間後にさっそくテイスティングしました。 今回はサンテミリオン・グランクリュ・スィニアテュール・デュ・クロ・サンヴァンサンの2009年です。

スィニアテュール3本 当店では以前から2005年と2007年を扱っていました。 ヴィンテージによる違いや今後どのように熟成していくかを比較するため、 2009年、2007年、2005年の順に、違う年代のワインと合わせて飲み比べしていきます。

テイスティングに限らず、一般に複数のワインを楽しむときは白から赤へ、軽いものから重たいものへ、ヴィンテージの若いものから古いものへと飲み進めていきます。

道上曰く、「テイスティングの場合、一般とは逆で古いものから新しいものへ飲んでいく方法もある。それは若い新しいワインが今後どのように熟成していくか、古いワインを参考に味わいのタイプを予測し、実際にその香りへと繋がる要素が若いワインに感じられるかどうかを見るためだ。」

テイスティング例えば熟成を経たワインからは、およそブドウ果汁からは想像も出来ないような様々な芳香が漂ってきます。
赤ワインではチョコレート、トリュフ、コーヒー、タバコ、腐葉土、なめし革、獣の匂い、麝香・・・。

若いワインでは、フレッシュな果実味とアルコール香が前面に出ているため、これらの香りをストレートに知覚することはまずありませんが、カシスやラズベリー、スミレなどのブドウ以外の果実香、樽香由来の木や燻したような要素、これらの香りを強く感じられれば、そのワインは熟成を経て大きく成長する可能性を秘めているのです。

普通にワインを楽しむ場合、順番にたくさんの銘柄が出てきて最後に一番高級な古いヴィンテージのワインが出てくる事がありますが、日本人的な飲み方をする私は、ついつい最初のワインから飲みすぎてしまい、後半になると酔っ払ってしまってせっかくのワインをきちんと味わいきれない事が多々あります。
(日本人にはお酒がメインで料理をつまむという感覚がありますが、ヨーロッパには食前酒のとき以外その感覚はない。赤ワインで料理をつまむという感覚がないのです)

ソムリエとしてではなく、あくまで個人的な意見としては最初に古いワインから味わいたいと考えていました。 この話を道上にすると、「お前はそれでもソムリエかーッ!!?」とこっぴどく叱られてしまいました。

道上曰く、
「酔っ払うのは最後の食後酒でも良いだろう。食事と一緒に酒を楽しむ時、和食のような軽い食事をする時には飲む量も少なめで、お肉などのしっかりした料理を食べる時には、自然と飲む量も多くなる。だからと言って食事中に酔っ払ってしまう・・・それは非常に貧相な食事の仕方だ。
フランスでの食事で、酔っ払っている人を見た事はない。あくまでもワインは料理を補佐するものであって、日本酒ではありえてもワインではありえない話だ!
偉大なるメインデッシュには、偉大なるワイン。勝負のメインデッシュには熟成されたワイン。しかし、テイスティングの際には熟成した古いワインを先に飲んでみて、新しいワインがどこまで熟成のレベルに到達するか、またそれを超えるのかを見極めるのである。」

さて、テイスティングに話を戻します。

外観2009年の外観ですが、エッジ(縁)に紫色を強く残し、全体は赤みを帯びたルビー色をしています。エッジに紫の色調が強いのはワインが若い証拠で、熟成を経てアントシアニン(ぶどう果皮に含まれる赤や青、紫の色素)とタンニンが澱となって沈殿していくと、だんだん赤→ピンク色→オレンジと色調は薄くなっていきます。

2007年と比べて色合いの違いはあまり出ていませんでしたが、2005年とではかなり違いが見えました。 2005年の方が濃縮した濃く黒い色合いをしています。その年による色合いの違いでしょう、エッジの部分には若干ピンクやオレンジの色調も見られ、熟成が始まっている事を予感させます。

香りと味わいですが、まず驚いたのは2009がすごくしなやかな口当たりでバランスがとれているという事。前回のメルマガで到着してすぐのワインは味わいのバランスが悪いと書きましたが、入港後一週間でこれだけクオリティーの高い味わいが出ているという事は・・・将来の熟成が本当に楽しみです。

カシス、すみれ、杉の木、ハーブ・・。さまざまな香りのニュアンスを感じさせます。タンニンはしっかり感じるのですが、ギスギスした感じがなく味わいとして完成されている。

スィニアテュールボトルとグラスいずれのヴィンテージもメルローを100%使用しており、メルローは早飲みタイプのワインを造ると言われますが、単なる若いうちから美味しく飲めるというのとは明らかに違う、芳醇な複雑性を持っているのです。

サンテミリオン・グラン・クリュの卓越した品質の高さを改めて実感させられました。

2005年には、さらにエキスを煮詰めて凝縮させたようなリキュールやジャムの印象が強く、カシスとハーブの香りが強く出ています。2007年、2009年には感じられない生肉やチョコレートミントといった熟成による特殊な芳香を放っています。漢方薬のような複雑な苦味も感じられますが、飲み口はあくまでもシルキーでなめらか。

2007年はいまいち、味わいに力強さを感じられません。2009年と同じような香りは感じるものの、どこかおとなしい印象です。あまり良い年ではありませんでしたが、早くもピークを過ぎて味わいが下がってきているようです。

現段階で、味わいに順位をつけるなら、個人的には2005年が一番味わい深く、その次に僅差で2009年、少し間が空いて最後に2007年といったところでしょうか?

テイスティングテイスティングに参加した他のスタッフの意見では、「むしろ2009年の方が2005年より美味しいんじゃないか?」という意見が多数派でした。

道上曰く、「2005年は買った当時素晴らしい味わいで、もっとたくさん買っておけば良かったと後悔していた。しかし今日、飲んでみて2005年もすこし力が落ちて飲み頃のピークを過ぎているようだ。」

道上商事では、そのワインが今後どのような熟成を経ていくのか、どれくらい熟成に耐えられるのかを予想するために、ワインを開栓して30分後、3時間後、さらに翌日と3回に分けてワインの味わいの変化を見ています。

ちなみに2009年は翌日に飲んでも十分に香りが漂い、後味もしっかりとしていました。さすがにフルーティーな果実味は薄らいでいますが、鉛筆のような木と炭素の香り、松ヤニのように苦味と清涼感を伴った香りが出ています。味わいも、バランスが整っていて、長期の熟成に耐えうる高いポテンシャルが伺えます。

ワインの飲み頃やピークを見極めるのは、大袈裟に言えば未来を予見するという事に近く、非常に難しいところです。しかしお客様に美味しく熟成したワインを安く提供していくには、この見極めが大事なのです。



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