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名人のこだわり「生ものの熟成」について


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名人のこだわり
「生ものの熟成」について

良く言われているけれども、はっきりしないというのが「生ものの熟成」の話です。

まず熟成については、区別をして考えないといけません。
「塩蔵品の熟成」、と「生ものの熟成」では、同じ「熟成」という言葉で括られていますが、
それぞれに違う物です。

「塩蔵品」は生ハムやチーズのような、
塩で腐敗を止める事により、長い時間をかけて熟成をさせる物です。
この「熟成」ははっきりしています。
生ハムやチーズ(特にパルメジャーノなどのハードタイプ)では、
ここまで熟成をさせるとその特性、風味が出てくる、というのが分かりやすい物です。
新巻鮭などもそうで、最初は塩っぱいだけの物が、時間を置くと甘さが出てきます。

からすみと平目、小柱
からすみと平目、小柱


対して、肉や魚などの「生ものの熟成」と言われている物となると、
途端に微妙で難しい話になります。

塩蔵品の熟成では「塩」で腐敗を止める事により緩やかに熟成が進みますが、
「生ものの熟成」は歯止めが利きません。
塩蔵品のように「3年で出てくる風味」と、塩を使わず「1日2日で出てくる物」は違いますし、
短時間で状態が変化していきます。
極端な話、お店でその日の夕方6時に出した肉と9時に出した肉の状態が違うという事もありますし、
魚になるとその変化がさらに早いのです。
昔のお店では、刺身は夜の8時までしか出さない、という所もありました。

また、別の問題もあります。
「特徴が出ない時の美味しさを認めるかどうか」という事です。
良いヒラメやマコガレイなどの白身の魚の場合、
最初の、甘みがあり旨みが出てきた頃と言うのは、大変美味しいのですが、
魚の差、特徴はあまり出ません。
これを良しとするのかどうか、お客様は勿論、店側でもそれぞれに考え方が違うのです。

知り合いの漁師さん達の中では、特徴が出る前の方が好きな方が多く、
生でもそうですし、煮魚であっても、新鮮でないと美味しくないと言います。
確かに煮魚の場合は特に新鮮な物が良く、ここでは分かりやすい差が出ますし、
塩蔵品の熟成についても、元の食材の鮮度が重要となります。

普段の生活の中では、塩をしない生ものを置いておいて
「熟成」という物に触れる事はそう無いのではないでしょうか。

「カレーを一晩置いておくと、熟成して美味しい」と言いますが、
それは「おでんに味が染みこんで美味しい」と言うのに近い話です。
一晩置くと、具材に味や香りが染み込んでくる。香辛料やルウが落ち着いてくる。
それがこの変化の大部分で、熟成とは違う話です。

「肉の熟成」と言いますと赤身のお話ですが、
「A5ランク」のような霜降りのお肉は、どちらかと言うと脂の酸化の方が出てしまいます。
本マグロでも、酸味が出て渋みがあって「癖が出たのが良い」というか、
「無い方がいい」というか、分かれる所でもあります。
肉でも「癖が出てきた肉が旨い」とするかどうかは、何とも言えないところがあります。

このように、「熟成」という言葉で語られる事の多い「生ものの熟成」ですが、
「生ものの変化」という表現の方が、より適切なのではないでしょうか。
そして、魚や肉はそれぞれにお店が思う、
「変化の中での食べ頃」を見計らって提供されるものです。

今後は隔週にてお送りします。
次回は「血と肉について」です。



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