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名人のこだわりバックナンバー

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2013年



2012年



    名人のこだわり「魚について ~鮎と鱧」

    FOND

    「FOND」のシェフ、西村さんと。
    フランス・ノルマンディー出身では?と思ってしまいますが、
    れっきとした日本人です!
    今回から西村さんに「名人のこだわり」をお聞きします。


    「魚について ~鮎と鱧」

    今の時期は鮎と鱧が旬ですね。

    FONDでは、「これが食べたい!」という食材やワインなど、
    予約いただいたお客様のご希望に合わせた料理をお作りしています。

    鮎は白神山地の小さな川で、お爺さんが獲っているんです。
    1週間に20匹とれるかどうかという・・・。それを日本料理屋さんで奪い合いになってしまうのですが、そういった鮎を分けていただいてます。

    鱧も、週に4尾ほどでしょうか。
    今は海がおかしいので、鱧は先週一週くらいは淡路の周りで獲れたのはゼロだったんですね。その上で入ってきたものでも、良くない物があったりする。

    鱧というのは、本当に「魚」で決まってしまうんですよ。
    魚が良くないと、どんな調理をしてもパッとしない味になってしまう。
    一度、ある料理屋さんで鱧が良くなかった事がありました。
    素晴しいお店なのですが、それでも鱧自体でそうなってしまった。

    ですので、「鱧」とお客様の指定があった場合には仲買いに頼んで2匹買っていますね。使わない方は自分達で食べて・・・そうしないと、今は海がおかしいので仕方がない。

    「海がおかしい」というのは、水温が高くなっている事もあるんでしょうね。
    台風などでは、海が荒れているように見えますが、あれは海全体から見れば、実は表面的なものです。しかし、津波は底から根こそぎ行ってしまうんです。海底の環境を含め全体に影響を及ぼしたのでしょう。
    鱧と直接関係はありませんが、小名浜なども日本一水揚げ量が多い港だったので、影響は大きいですね。

    そういった事がありますのでお客様から「鱧が食べたい」という時には、味が悪い物をお出しするわけにはいきませんので、2匹頼まないといけないのです。

    この鱧、という魚ですが、実はものすごく味が濃いものなんです。
    ほとんどの白ワインには合わないのではないでしょうか。新子よりもです。新子も小肌より味が薄いと思っていましたが、実は味が濃いんですね。それよりも、鱧の味というのは濃い。なので赤ワインの方がしっかりとして合うのではないかと思います。

    鱧と賀茂茄子



    「FONDの歩み① 幼少期 料理の世界に入るまで」

    私が育ったのは、日本橋、三越、にんべんのちょっと裏。
    親戚中が薬の問屋でした。

    もう大変に忙しいものですから、誰も食事なんて作ってくれない。
    そんな暇が無い。自分で作らないといけませんでした。

    料理は好きでしたね。
    その中で覚えている料理が一つあります。勿論自分用に作っていたのですが、固茹でにした玉子で黄身と醤油を練って味噌のようにしたものです。それを気に入らないおかずの時などに食べるのです。
    重宝しました。

    実際に料理の世界に入ったきっかけは単純で、雑誌を二十歳の頃に作っていました。 現代詩の本です。勿論当時でも、現代詩ではとても食べていけない。 では、どうしよう、となった時に「2番目に好きな物でやって行こう!」と。

    それが、今の仕事を始めるきっかけでした。


    次回は
    「肉について ~捕獲方法、しめ方について」
    「FONDの歩み② シェフは「職業」として。最初の務め先」
    をお送りします。


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    名人のこだわり「肉について ~捕獲方法、しめ方について」

    FOND

    名人のこだわり
    「肉について ~捕獲方法、しめ方について」


    「野鳥の捕獲方法」

    野鳥の鴨などは、網で獲るのが一般的ですね。
    九州の、何か所かそういった所とお付き合いがあるんです。
    他の捕獲方法は猟銃ですね。基本的にはその二つで捕まえます。
    絞め方では、フランスでは「窒息」というのもありますね。

    銃で撃った野鳥はどうしても片方の胸肉、
    弾が入った側の味が落ちてしまうんです。
    血が多くそちらに集まり、なんと言ったらいいんでしょうか・・・。
    全般に「ストレス」のような物がかかるんですよ。
    マグロなども血が回った身は美味しくない。
    臭みが出てしまいますよね。

    お客様が男女お二人、のような場合には、弾の当たっていた方を男性に、当たっていない方を女性に提供する場合が多いです。
    比較してしまうと、弾が当たっている身の方が臭みが強いので、女性の方には嫌がられる場合があるからです。

    勿論、極力出来るだけ処理をし、抜くようにはします。
    ただ難しいのは、抜きすぎてしまうと今度は味が無くなってしまうんです。
    その辺りを、なんとかバランスが良くなるように調整をしています。

    ブレス産のプーレ
    ブレス産のプーレ(生後7週から12週齢くらいに飼育した鶏)
    石川小芋
    万願寺唐辛子



    「四つ足(牛・豚など)の動物のしめ方、寝かせ方」

    屠畜する際には動物にストレスが掛からないようにする事も大事で、
    血の匂いや、叫び声が聞こえないようにするんです。

    そういったものを感じ取られてしまうと興奮してしまったりもするので、
    ヨーロッパでは完全に隔離して処理するようですね。

    また、輸送中のトラックなどでも屠畜前の四つ足は壁にぶつかるだけで人と同じように痣ができてしまいます。それだけで値も落ちてしまうので、実に慎重に運ぶそうです。

    解体後に肉を「寝かせる」という事についてですが、肉の食べるタイミングとしてはフランスでは2~3週間と言われていますね。ただ、コンソメを取る際に使う肉などはそこまで時間を置かずに、どちらかと言うとゴリゴリして、焼くと固くて食べられないような肉の方が向いているんです。

    ステーキ用の肉に関しても、個人的には以前よりもだんだんと置かない肉の方がいい、と思うようになってきました。置いて甘み、旨みが出てくる肉はもちろん美味しいのですが、結局はたんぱく質が分解される。
    その前の方が良いのでは・・・。と考えるようになってきたんです。

    ミートハンマーを使うと肉は柔らかくなりますが、組織を壊してしまうだけです。肉の「味」で食べよう、という時にはお勧めはできませんね。


    西村シェフと奥様の由起子さん
    お二人のあたたかいもてなしも、FONDの大きな魅力。
    西村シェフと奥様の由起子さん



    「FONDの歩み② シェフは「職業」として。最初の務め先」

    シェフというものは「職業」としてしか考えていませんでした。

    「修行」という事に関しては、今は特にですが、
    必要な事、意味のある事とは思えません。

    最初は、もう無くなってしまった店になるんですが、フランス料理店に勤めました。ビルの結構大きな、高級マンションのオーナーさんが住人用として、その2階に作った店です。

    その頃にしては珍しく、しっかりウェイティングのバーのあるような店でした。そしてその奥に着席の座席があるんです。私はそのウェイティングのバーで働いていました。

    最初にそこでプレートに乗ったオードブルをお客さんに提供するのです。多い時にはそこだけで、1日1万くらいの売上はありましたね。
    40年以上前になるので、結構な額ではありました。
    そこでは3年くらい務めましたね。

    結局、マンションのオーナーさんがやっているお店、という事もあり自由にできる部分が多かったんです。いろいろと面白い経験が出来ました。・・・と、その辺りの事はまた次回にしましょう!

    次週は「魚について ~魚の熟成について」と
    「FONDの歩み③最初に務めた店」をお送りします。


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    名人のこだわり「魚の『熟成』について」

    FOND

    名人のこだわり
    「魚の 『 熟成 』 について」


    肉の熟成、という部分では前回簡単に触れましたが
    マグロの熟成については何とも言えないところがあります。

    「熟成が良い」という話ですが、
    これはある料理屋さんで、たまたまあるフードライターさんが来た時に
    日は経っているものの、丁寧に管理されていたマグロを食べた。
    すると、期せずしてまた違った旨みが出ていたんですね。
    そしてそれをそのライターさんが 「美味しい!」との評価をしたんです。

    と、そこまではいいのですが、
    その後、なんだか「熟成が良い」という言葉だけが
    先に立って独り歩きしてしまったんです。

    この「熟成」という事については
    知り合いのすし職人にも何人か聞いてみました。
    「本当はどう?」と。
    すると皆さん「嫌だ!」と。

    マグロは「食べ頃」と言える所から3日間くらいが美味しいです。
    3日目までが一番良い状態、という意味ですね。
    ただその「食べ頃」なんですが、
    マグロの種類、大きさや獲り方(定置網、延縄など)で
    いろいろと違ってきますので、一概には言うのは難しいですね。

    「シビ」、本マグロの事をそう言います。
    キハダ、メバチなど他のマグロに比べて
    匂いというか、癖があります。

    そういう魚でも微妙な変化があるんです。
    置いておくと、ある時、身から水が出るんですね。
    そのちょっと手前が美味しいんです。

    水が出たからと言って、
    もちろん「痛む」という訳ではありません。
    ただ、それまでの魚と比べると、
    間違いなく旨み、味が落ちてしまうのです。

    ただ、この部分に関しては本当にいい魚の、
    本当に繊細な差の部分でもあります。
    ですので全般に言える事では無い、という事も申し添えておきます。

    もちろん独り歩きしてしまって良いような話でもありませんね。

    城ヶ島の伊勢海老

    伊勢海老にも旬はあります。今の時期が甘くて美味しいです。
    城ケ島産の伊勢海老は、なんと1kg。頭の部分の半身だけでこの大きさ。 蟹のように、ヒゲにも脚にも身が詰まっていました!



    「FONDの歩み③ 最初に勤めた店」

    最初に勤めた店は
    柴田書店のそばで順天堂大学の先生たちもいらっしゃいました。
    ウェイティングのバーで満足されて奥の客席まで行かない方も多かったですね。

    その店は最近の店よりもやることが面白かったですよ。
    仔牛を骨付きで丸々一頭買ってきてフォン・ド・ヴォーを取って・・・
    ダシだけでも3種類とって。
    毎日、鶏肉でも「ツメ」と呼ばれる肉、大きくなり過ぎてしまった鶏で
    ダシをとって、それはもう水代わりに贅沢に使っていました。
    ピクルスも大きなものを3本分作っては 使いきれないので余った物を頂いたりして。

    ただ、思っていたより客が入らなかった。
    残業は月100時間以上でも残業代は1万円程度。
    これじゃ「時給100円程度だ!」と
    親方と2番目の方は辞めてしまった。
    新人だけ3人が残った。

    すると、これまで頼んでもやらせてもらえなかったような事も、
    今度は逆にやらないといけなくなってしまった。
    そのあとはもう大変でしたが、その分何でも好きにやれた。
    自分で高いサーモンを買ってきては調理したり・・・
    色々な事を試せましたね。

    ただ、オーナーが店の奥に麻雀部屋を作りまして。
    雀卓を置いてそちらの客を、お店のお客より優先させてしまうんです。
    そしてあれを作れ、これを作れ、とやるわけです。
    仲買からでは無く、寿司屋から丸々ヒラメを一匹買ってきてしまったり。
    寿司屋からですよ!

    そこでは週に3日は泊まり込みで・・・もう帰れない。
    だんだんと、もうどうにもならなくなってしまって。
    そこでは3年勤めましたね。

    次回は「魚について~寿司と刺身の違い」
    「FONDの歩み④ 日本の『フレンチ』の苦労」です。


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    名人のこだわり 「魚について ~寿司と刺身の違い」

    FOND

    名人のこだわり
    「魚について ~寿司と刺身の違い」


    お寿司というのは
    人肌のシャリの上にわさびがあり、その上にネタがある。
    醤油やツメを塗ったりします。
    その魚の個性が出た方が美味しい、
    味と言うよりも、香りが立った方が美味しく感じるんです。

    お寿司で美味しい、と思ったマグロでも、
    それを刺身で食べると受ける印象はまた変わってきます。

    お寿司屋さんによっては
    刺身のつまみをあまり出さない店もありますね。
    寿司に合せた魚を揃えるからです。

    勿論、刺身を出すお店でもお寿司と刺身の魚を完全に分けている、
    という事もあります。雲丹でもそのように分けるお店もあるくらいです。
    お寿司屋さんでいろいろと考えあわせたうえで判断をされているかと思います。

    白身の魚を出すタイミングですが
    置いておくと旨みは増しますが、甘みは抜けてしまいます。
    この事なども、どちらが良いと言い切れない部分ですね。

    白神山地の銀鮎

    白神山地の銀鮎



    「FONDの歩み④ 日本の「フレンチ」の苦労」

    次に勤めたのは銀座の店です。
    35,6年前くらいですのでフレンチも今と当時とでは大違いでした。

    「エシャロット」ってありますよね。
    今はその辺りのスーパーでも買えますが、当時では手に入らなかった。
    今でいえば味噌をつけるようなラッキョウの若いの・・・
    それが「エシャ『レ』ット」などと言って売られていました。

    と、例えば、レシピに「エシャロット」、
    と親方のメモがあってもそれは「玉ねぎ」の意味なんです。
    元のレシピにある物、それが入れられないんですよ。
    当時では仕方ない事でもあったんです。

    その頃、友人が大学の卒業記念で
    ある有名なホテルで何か食べたい、という事で行ってみたんです。
    「ピジョン」が食べたいと、頼んでみた。
    一人前の皿がいくらだったと思います?
    当時で2万円です!
    ピジョンも輸入されるのは冷凍のみ、というような時代だったんです。

    「ソースを作るのにクリームでやるんだって」と。
    ある店から広まっていきましたが、
    それまでみんな小麦粉で作っていた。

    「バター」と言っても高級ラードやホテル仕様のマーガリン。
    良い所ではその上澄みだけ使う、などという事もありましたが、
    当時はそんなだったんですね。

    そういった、物自体が中々手に入らない事で苦労も、
    勿論その中での工夫もありました。

    次回は「魚について~鮮度・甘みについて」をお送りします。


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    名人のこだわり 「魚について ~鮮度と甘み」

    FOND

    名人のこだわり
    「魚について ~鮮度と甘み」


    築地で直接仕入れをしていますが
    仲買さんとの関係というのは、大変重要な部分です。

    ですが、単に「いいお客さん」になる、という事では無く、
    買った魚については、良い事も悪い事もきっちり仲買さんに
    フィードバックする事で良い関係が築ける、という事があります。

    仲買さんも話を伺っていると、本当に利益目的では無く
    「良い魚を扱いたい」という気持ちが見えてきます。

    こちらもそういう部分では真剣に向き合う事で
    信用を頂けるのかと思います。
    表面上の、どこどこ産であれば良い、というくらいの話であれば
    やはり胸の内ではがっかりされてしまうのでしょう。

    更に、ここの物が良い、というのが分かって買っていても
    物がおかしい時もあります。

    そういう時にでも、しっかり正直にその事を戻してみると
    仲買さん自身もふと気付いて、
    「あ、今回はこうだった」と思い当たる部分が出てきたりします。

    そのように、関係性を造りながらも、
    一緒になって良い物を見つけていけます。

    伏見の甘長唐辛子 佐島と横須賀の間のカワハギと肝

    伏見の甘長唐辛子
    佐島と横須賀の間のカワハギと肝


    魚の「甘さ」と一口で言ってしまいますが、
    実は「身の甘さ」、「脂の甘さ」という物は
    別の物で、質も違う物です。

    余り脂ののっていない様な白身の魚の刺身に関して言えば
    身がいかっている方が、「身が甘い」ですね。

    そういった魚では、
    置いておいた方がいい物はあまり無いかと思います。
    ただ、早すぎても良くない事もあります。

    逆に脂ののった魚というのは
    寝かせないと「脂の甘み」を感じない、という場合があります。
    シマアジなどはそうです。
    アジの仲間や鯛の中でも脂ののったもの、ですね。

    「脂が甘く感じる」という事では、置いた方が感じます。
    かといって、脂が無い魚を置いたからといって
    甘くなるという事ではありません。

    締める時には「神経抜き」というやり方があります。
    それで持ちが良くなります。
    「神経抜き」と言っても
    しっかりとそれがなされているかで効果も変わって来るのですが
    朝締めても夕方くらいまで動いているんです。

    ただ、動かなくなってからおろすのでは
    変わらなくなってしまいますので、
    動いているうちにおろさなくてはいけません。

    もちろん、ここでお話しているのは
    ダメになってしまう、食べられなくなってしまうというお話では無く、
    味の「質」の部分でのお話です。

    その部分で言えば、魚の獲り方の差もあります。
    全然違ってきます。
    一番違う点は、網で獲った魚は身が緩いです。
    持つのは獲った日かせいぜい次の日くらい。

    これが困った事に、
    包丁を入れた時には、はっきりと差がわかるのですが、
    見た目だけではその違いが分かりません。
    なので、そこを区別している仲買さんから購入しています。

    次回は「料理へのアプローチについて」をお送りします。




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    名人のこだわり「料理へのアプローチ」

    FOND

    名人のこだわり
    「料理へのアプローチ」

    「ワインに合わない料理は作らない」

    「FOND」で大事にしている事です。
    フランス料理はワインがあっての料理、と捉えています。

    そして、料理は「材料は8割、残りが調理」
    調理の部分はそれくらいしか入れないものだと思っています。
    材料が良くなければ、やりようが無いのです。

    フランスのソムリエと生産者を見ていますと、
    ソムリエは「このワインはこう、この品種はこう、飲み頃は」
    など、よくそんな事を覚えているな、と言う事まで覚えています。
    一方の生産者は、「何年の何がどういう味だった」という事は
    意外と覚えていない。
    ただし、「こうすればこういった味、香りになる」という部分は
    しっかりと見ているのです。

    私の料理の作り方のベースですが、
    「どう味や香りを整理していくか」と考えているうちに
    ワインと料理でも「この香り」「この味」に
    どのように合せるか、合せるようにどう作っていくか、
    という感覚になってきました。

    ワイン作りと似たようなところがありますが、
    「香りはこうしたい、味をこうしたい」という
    完成した料理が先に頭にあって、
    ではそれをどう作る、と調理法を考えていくのです。

    調理法から料理を作るのではなく、
    完成した料理の「味と香り」からさかのぼるのです。
    反対のアプローチですね。

    もちろん「ソムリエ的」な、この味がどうだった、香りがどうだった
    という事も整理する上では手掛かりにするのですが、
    実はそのやり方を調理に持込んでしまうと、失敗する事が多いのです。
    あくまでも調理は「生産者」の視点で行っています。

    淡路島由良の鱧とハモンイベリコ 丹波黒豆の枝豆

    淡路島由良の鱧とハモンイベリコ
    丹波黒豆の枝豆



    道上の独り言
    以前、西村さんの言葉に
    「修行は意味が無い物ではないか」
    とありましたが、
    それは「作業」を覚える事の無意味さでは無いでしょうか。

    このレシピのこの料理をいかにうまく作るか、という事は
    詰まる所、如何に「作業」をうまくこなせるか、という事になってしまいます。

    「フランス帰りのシェフ」が人気が出ても2、3年で廃れてしまったり、
    「以前は美味しい料理を作っていたシェフ」が
    めっきりと美味しい料理を作らなくなったりします。

    その根本は同じ部分で
    「フランス帰りのシェフ」はフランスで、一定の「作業」を覚えてきただけ。
    「優秀だったシェフ」も、クリエイティブに料理を作り出していたのに
    いつの間にか自分で作った物の「作業」をこなすだけになってしまう。

    「作業」、「コピー」の料理という物は、だんだんとずれていきます。

    西村さんは、
    「作業」を「修行」しても意味が無い
    と仰っているのかもしれません。



    次回は「器具について」をお送りします。



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    名人のこだわり 「器具について」

    FOND

    名人のこだわり
    「器具について」

    鍋の良し悪しは、火にかけた時にわかりますね。
    じわじわと泡が出てくる物が良いです。
    ミジョテ(mijoter)という
    弱火でゆっくり長時間、というのがフランス料理の基本です。
    じわ~っと熱が入ってくれるのがいい。

    銅鍋以外でもかなり良くできた物も出てきましたが、
    銅鍋が基本ですね。

    包丁は頭で思ったように切れる、という事が大事です。
    切り方というのも大変重要なものです。

    一番はっきりしているのは、肉でしょうか。
    肉を切る時はフグ引きを使って切っているのですが、
    普通の包丁を使うと肉汁が出てしまいます。
    それで大分味が変わってきてしまうのです。

    野菜で言えば、キュウリなどは分かりやすいと思うのですが
    綺麗に切ると青臭くなりません。

    魚も差が出ます。かなり違いますね。
    包丁も、炭素鋼の包丁で切ると匂いがついてしまいます。
    本マグロの赤身や、タコには特に
    匂いが付いてしまうんです。

    銀三の包丁が良いので
    それを刀鍛冶の方に作っていただいて使っています。

    鍛造の様子

    鍛造の様子です。
    簡単にやっているように見えますが、
    「難しい事でも簡単に見せるようになってこそ、熟練の技」
    を地で行っておられます。
    1mm単位での仕事をされています。

    今、包丁は
    実際に使っている物で20本程です。

    砥石は天然の物を使っています。
    一時、「天然ものの砥石は良くない」という誤解が
    広まってしまった事もありましたが、
    一部良くない商品が出回ったことがあった、というだけですね。

    次回は「日本での「フランス料理」について」をお送りします。



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    日本での「フランス料理」について

    FOND

    名人のこだわり
    日本での「フランス料理」について

    日本での「フランス料理」というくくりには
    独特のものがあると思います。

    高級なイメージがある一方で
    例えば、魚を仕入れようとしたときに
    こちらが「フランス料理」の店と言うと、一般的な物が出てきます。
    決して悪い物ではありませんが、質にこだわったものではありません。
    そういう位置付けでもあるんです。

    「フランス料理はソースが命」
    というのはどこで言い出したかわかりませんが、
    「濃い味付けの、ソースやバターの掛かった、こってりとした料理」
    のイメージが付いています。

    魚でも野菜でも、
    素材の味が活かされる種類の料理とは考えられていないのです。

    先日、予約をいただく際に
    「最近はちゃんとしたフランス料理を食べていないんです。」
    というお客様がいらっしゃいました。
    そこでどうしようかと少し迷いました・・・。

    大分前の話ですが、フランスからのお客様に
    いわゆる「正統派」のフレンチを作ってお出ししたことがありました。

    するとその方は
    「こういった料理なら、パリでも食べられる」
    とおっしゃったんですね。

    その事は非常に印象に残っていまして、
    「日本で採れて美味しい物を使って作るべきだ」と
    考えるようになりました。

    そういった事もあってか、最近では
    日本の方で「フランス料理」を目当てに来て頂く方より
    フランスの方が「フランス料理」を、と来て頂く方が
    反応が良い事が多くなりました。
    日本的な「フランス料理」という固定化されたイメージが
    無い為かもしれません。

    という事で先程の、
    「しっかりとした「フランス料理」を」というお客様には
    それでは、と「フランス料理」らしい料理を出そうかとも
    少し考えたのですが
    私だってあとどれだけ、好きな物を作れるのか分からない。
    やはり自分で一番良いと思える物を、とそういった料理を
    お出ししました。

    すると、かえってそちらの方が、喜んでいただけました。

    ただ、その逆に
    「こんなのはフランス料理じゃない」
    と言われてしまう事もあります。
    「フランス料理」はこう、と決めている方には合わない事もあるようです。

    スコットランドの赤雷鳥と松茸

    スコットランドの赤雷鳥と松茸


    今の、「フランス料理」としてイメージされる料理ですが、
    実は100年くらいの歴史では無いでしょうか。
    それより前の物では無いのです。

    それ以前のフランス料理は、クリームやバターをあまり使わない物が多く昔の京都の料理、それに近い物があります。
    そのまま、おばんざいとして出せるのでは?
    というような物もあるんです。

    そこで「ワイン」なのですが、
    「ワイン」という物は長らく変わっていません。
    流行の、一時代の物を追うのでは無く、
    「ワイン」という変わらないその価値観に寄り添って料理を作る事で、
    芯のしっかりとした料理を
    作っていけるのではないかと考えています。

    「ワイン」に合う料理を、
    という事を大事にしているのはそういった面もあるのです。

    次週は「野菜について」をお送りします。



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    名人のこだわり「野菜について」

    FOND

    名人のこだわり
    「野菜について」

    野菜について考える時、
    ワインの事を考え合せてみると
    分かりやすいかと思います。

    ワインであれば
    その葡萄の産地・畑、時には畝までも気にされ
    、更にその年の気温・降水量などの天候、
    収穫の時期・さらには何時頃に収穫するか、
    前後の降水など細心の注意を持って扱われます。

    もちろん野菜でも同じことが言えるのです。
    産地はもちろん、畑によって、土壌によって、気候によって
    大変に影響を受けます。

    ある農家の方にお話を伺った時に
    「今やっている事と同じ事を、他の畑でやっても結果が同じにならない」と伺った事がありますが、
    そのくらい畑により本当にそれぞれ条件が違い、
    また野菜の味も違ってくるのです。

    露地野菜の栽培では「一般論」というのが
    実はあまり通らないのです。

    スコットランドの赤雷鳥と松茸
    金沢の白茄子


    「朝採り野菜」という物がありますね。
    これは実はただ「新鮮ですよ」という部分、「鮮度」の問題なんです。

    ですので、鮮度が大事な、
    タケノコなどの野菜に関しては良いのですが
    その鮮度と、「味」というのはまた別の話なのです。

    以前、毎週野菜を採りに行っていた秩父の井上さんの畑での話です。
    その際には土壌の本を読む事から始めました。

    朝採りと夜採るのでは味が全く違ってきます。
    収穫する時間も大事なのです。
    トマトなどは特にその差が分かりやすいと思います。

    野菜は結局は植物ですので光合成していますよね。
    光が当たっていないとやはり栄養が作られない。
    たっぷり日に当たって光合成をした、
    お昼過ぎ、2時くらいに採ったものが良かったです。

    本当に畝ごとに味が違ってきます。
    日がずっと当たるようなところがやっぱり美味しいです。

    果物はさらに昼が良いと思います。
    ただ、果物は甘いだけでも美味しくない。
    酸味とのバランスはとても大事ですよね。

    葡萄などでも食べて美味しい物はワインにするとおいしくないですし
    ワインに美味しい葡萄は食べると美味しく無いと言いますが
    その部分はお菓子作りに向く果物との同じかもしれません。

    熱やクリームなどの要素が加わると
    向いている物がまた変わるのです。

    次週は「料理の「情景」について」をお送りします。



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