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外交官 第13話 カンボジアでの発見 (その1) 貧困と人間の幸せ

【小川 郷太郎】
東大柔道部OB
丸の内柔道倶楽部
外交官

第13話 カンボジアでの発見
(その1) 貧困と人間の幸せ

カンボジアはアジア途上国の中でも最も貧しいグループに属している。日本にいるとなかなか実感としてわからないが、カンボジアに行って見ると、貧しさの度合いを肌で感じることができる。

先ず、カンボジアは、1970年代から内戦がおこり、75年から79年の間には悪名高いポルポト政権が全土に残虐な恐怖政治を敷いた。人口の約4分の1が失われたともいわれるが、犠牲者の大半は知識人や技術者たちだ。内戦で国土が破壊されたばかりでなく、国を担う人材の多くが虐殺や過労死などで亡くなった。

さらに、プノンペン市民が一斉に地方に強制移動させられた結果、戸籍や所有権などの民法の制度も破壊された。国土、人材、制度の破壊(私は、これらを「三つの破壊」と呼んでいる)が続いた結果、カンボジアは、発展の機会を失ったどころか、逆戻りをして周辺の国々に大幅に遅れてしまった。

私は内戦が完全に終わった後の2000年11月末に大使としてカンボジアに赴任した。私が見たり感じたことを少し述べてみよう。

例えば、大きな都市は別として、この国の大部分の町や村には電気や水道がないのだ。電気がないので夕食はろうそくをつけてとる。娯楽もあまりないので、誰も早く眠りにつく。その代わり、朝は早く明るくなるので皆早起きだ。いつも家族が一緒となって寝起きし、助け合いながら働く。家族一緒でとても幸せそうに見える。

水道がないところはどうしているのか。遠くの川や池からヨレヨレのバケツやカンなどを天秤にして汲んでくる。中を見ると、真っ茶色の汚れた水だ。それを飲んで病気になることも珍しくない。
雨が降ると庭においてある大きな甕に水を貯めてそれを生活に使う。夕立が来ると子供や大人も喜んでシャワー気分で身体を洗う。

貧しい衣服を着て裸足で飛び回ったり、水たまりに飛び込んだりしている子供たちの眼はいつも生き生きと輝いている。
私がいた頃のプノンペンの街では、夕方になると1台の小さなバイクに家族4,5人が一緒に乗り、大挙して広場などに繰り出してくる。実に幸せそうだ。

プノンペン王宮前広場
【平和になった王宮前広場に人が楽しそうに集まる】


内戦が終わり、ポルポト政権の恐怖が過去のものとなった平和の喜びを、身体全体で浸っているような感じもする。
貧しいカンボジアの人たちの表情がしばしば実に幸せに見えるのを不思議に思ったが、考えてみると、貧しい状態で生活をしていると、ほんの僅かな進歩や、ちょっとしたものを手に入れることが大きな喜びとなり、それが満面に出てくるようだ。

プノンペン Quai de Bassac
【川岸の通りも活気を帯びてきた】


そういえば、私の子供の頃も戦後の貧しい時代であったが、家族一緒でとても幸せだった。木の枝や竹を削って遊びの道具を自分で作って面白かった。いまの日本は何でも手に入り、欲望が高まり、高くなった欲望が満たされないと不満や不幸な思いになることが多い。ゲーム機やスマホが発達し人間的接触がその分減ってきた。
カンボジアの人々を見ていて、貧しい方が幸せを感じる機会が多くなることを発見した。 でも、貧困の度合いは実際には凄まじいものだ。「幸せ」で済ませるものではけしてない。

では貧困の実相は、どんなものか。私が見た、貧困からくるいくつかの光景をお話しよう。

プノンペンの郊外にいくつかゴミ捨て場がある。そこに子供が入り込んで少しでも売ってお金になるものを探している。中には裸足の子もいる。孤児もいるそうだ。
大きなゴミの山は臭いもするし、ガラスの破片や針など危険な物がいっぱい混ざっている。拾い集めた物は、針金とかペットボトルとか金属のものとか、どれも僅かである。でも、生きるため、子供たちは懸命だ。

カンボジアは、マラリアや結核や、エイズの大汚染地域でもある。エイズ患者を助けているNGOの活動現場に行って見た。

木で組んだ枠に粗末な青色のビニールを張った小屋にいくつもの家族が住んでいる。外は炎熱で湿度も凄い。周りには土を掘って作った小さな溝があり、そこに汚れた生活排水が悪臭とともにチョロチョロと流れている。それぞれの家族の何人かはエイズ罹患者で、ぐったりと横たわっている。虚ろな目で、大人も子供も。そちらの家族、あちらの家で昨日誰かが亡くなったと言っていた。
人間の尊厳が損なわれたようなその光景は、見ている人の胸に痛く締め付ける。

内戦の負の遺産である地雷も一部の地域に残っていて、いまでも犠牲者が出る。地雷がまだ埋没している遠隔の地方だけでなく、プノンペンなどの大都市でも、手足をなくした大人や子供を見かける。物乞いをされると気の毒でいたたまれなくなる。
他方で、懸命にリハビリをして立ち直ろうとしている犠牲者や義足や義肢を作ってそれを助けようとする人々もいる。

雨季には激しい豪雨が襲うこの国では、あちこちに洪水が起こる。村中が冠水する。稲が全滅もする。そうかと思うと、地域によっては干ばつに見舞われて、土地はヒビ割れし作物はできない。
他にすべがなく、そういう土地にやむなく粗末な小屋を作って住んでいる人もいる。

在任中、カンボジア全国を見て回った。最初の1年ですべての県を視察したが、道が無かったり、あってもぬかるんだりデコボコして四輪駆動車でも進めないところも多い。車で行けないところは、今にも墜落しそうな旧式のオンボロ軍用機に乗せてもらったり、民間のヘリを借りたこともある。
選挙の状況を見るために、冠水した地域を小さな木船で渡ったりもした。地雷除去のNGOのジープに乗せてもらって活動現場を見た。地雷除去はいかに危険で時間のかかる作業かということもよくわかった。全国的に病院も医者もいない村落も多いことも知った。

こうして回ってみると、カンボジア全土の地理や気候や開発のニーズがおおよそ把握できた。こういう光景を見れば人間は誰でも「助けてあげたい」という気持ちになるものだ。とくに、貧しくても目を輝かせている謙虚な人たちに会うとなおさらだ。

日本にも貧しい人がいるがそれは個人レベルの問題である。カンボジアはそれとは次元が異なり、国のレベルで貧しいのだ。


次回は日本がこの国にどんな支援をしているかをお伝えしたい。


筆者近影

【小川 郷太郎】
現在





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